風の書 3
宿屋の宿命とは、我ながらに上手いことを言ったな。
宿命とは、宿に命と書いて宿命だ。
まさしく宿屋の息子として命を授かった私の事を、、
『ちょっと、アナタ聞いているの?』
、、、しまった。
あまりに上手い事を言ってしまったので自画自賛タイムに入ってしまった。
〈何も上手い事は言えていませんよ?〉
うるさいな。
ちょくちょく案内スキルさんが話しかけてくるようになった。
しかし、なぜかいつも毒舌だ。
〈私は事実を述べているだけです〉
はいはい。
全く、口の悪い奴らばかりだ。
目の前のお嬢様も口が悪い。
なんだこの世界は。
『はあ、、、』
『いきなりため息だなんて!アナタ本当に失礼な方ね!!
わたくしを誰だと思っているの!?』
『口の悪いお嬢様。』
『なっ、、、』
『、、、やめておけ。それ以上奴を怒らせると、この村が吹き飛ぶぞ。』
え?
『ふんっ!さすがは龍族ですわね。
わたくしの正体を見破っているなんて。』
『、、、匂いでな』
匂い?
2人ともそんなに臭くはないぞ?
なんて軽口は叩けなかった。
もうさすがにその時には気づいていたから。
アトラほどあからさまではないが、彼女もかなり禍々しいオーラを放っている。
見てみろ。
その証拠に、風月は怯え、スラ丸は伸びきっているではないか。
間違いない。彼女も龍だ。
『何龍なんだ?』
『まったく、なんて失礼な聞き方かしら。
答えたくないですわ!』
『、、、水龍だ。』
『ムキーッ!!』
ムキーって言ったぞ、この子。
『やはり貴女とは相性が悪いようですわね!』
『、、、まあ、火と水じゃからな。良いわけがあるまい。』
、、そんなに龍ってホイホイ出てくるものなのか?
こんな短期間で火龍と水龍に会うなんて、、
ファンタジーが壊れちゃう。
『しかし、水龍がこんなところに何のようなんだ?
そして、頼むから君ら、すぐに宿屋を貸切にしないでくれ。』
『人は臭いもの。少しでも汚物を遠ざけるのは当然ではなくて?』
カッチーン
『なら、こんな汚物にまみれた場所からさっさと出ていけばいいだろ!』
『それがそういうわけにもいかないのよ、聞いて下さる?ゴブリンくん。』
誰がゴブリンだ!
『わたくし、この先の風都に向かっているのだけれども、水龍の姿では警戒されてしまって、
どうしても近付けないのよ。
どこぞの馬鹿な龍みたいに何も考えずに飛び回っていたらすぐに戦争よ?
だから仕方なく、人の姿になり、向かってるってわけ。』
『、、、なんだ、貴様も同じか。私も同じだ。
人の姿は窮屈よの。
存外、話のわかる奴ではないか。』
あ、馬鹿にされたことに気付いてないのか?
『本当に貴方はお気楽な方ね、、、。
まあいいわ。
一人旅にも飽きてきたところでしたし、風都までは一緒に行ってさしあげますわ』
待て待て。
『なんで一緒についてくる事になってるんだ?』
『だって興味深いじゃない。ゴブリンに従う火龍なんて』
大袈裟に高笑いをした。
扇子とか似合いそうだな、このお嬢様。
しかし、さすがにこの煽りには気付くだろう。
『、、、まあ、私も他の龍の情報を聞きたいしな。
よかろう、風都までは一緒にいこう。
私の名前はアトラじゃ。よろしく頼むぞ。』
『全く、、本当に貴女とは相性がよくないようですわね。
調子が狂わされてしまう。
わたくしの名はジョセフィーヌ・ヴィ・ドゥクール・サンクト・マリーザウス三世と申します。
以後お見知りおきを。』
スカートを捲し上げ、両手に掴み軽く会釈をした。
え?
なんだって?
『、、、え?』
珍しく、アトラまで口をぽかんと開けていた。
とりあえず、アルセーヌの方の三世ではなかったようだ。
怪盗には見えないしな。
『もう一度聞いてもいいかい?』
『、、、もうよい。何度聞いたところでそのような呪文、覚えられるわけがなかろう。』
『ムキーッ!!』
『とりあえず、ムキ子とかどうかな?覚えやすいし』
『食べますわよ?』
『ごめんなさい』
『まあ、アナタ方、脳みそが小さな生き物にわたくしのこの高貴な名前を覚えるのが難しいことは分かりましたわ。
そうね、ならマリーとお呼びなさい。
人の姿をしているのだし、その方が違和感がないわ。』
『、、、やはりマリーはいい奴じゃの。助かるわ。よろしく頼むぞ。』
どうやらアトラには嫌味が通用しないらしい。
見た目的には明らかにマリーの方が年上に見える分、なんだか違和感だ。
マリーは藍色の髪と藍色の目をしている。
縦ロールの金髪を想像するかもしれないが、
残念。
長髪の綺麗なストレートだ。
背はアトラよりも30センチほど高いか。
『ヨロシクネ、マリー!』
伸び切ったスラ丸が飛び出してきた。
『まあ!!なんなんですの!この愛くるしい生き物はッ!!』
『彼は伸び丸だよ、仲良くしてやってくれ!』
『のびちゃん、、』
『ウソをオシエるでない。
シツレイのカズカズ、ワタシがカワリにワビます。
モウシワケありません、スイリュウサマ。』
『のびちゃん、、』
もはや聞いていない。
『ワ、ワタシのナマエはフウゲツとモウします。
そのノビたイキモノはスラマルとモウし、、』
だめだ、完全にスラ丸の虜だ。
『、、、しかし、マリーよ。
なにゆえ、風都なんかを目指しておるのじゃ?』
『あら?貴方もそれが目的ではないの?』
それとはなんだ?
『風都で開催される100年祭よ』




