村人とかないよ
しばらくウロウロしていて気付いたことがある。
この町には勇者っぽいやつらが何人も来る。
大体は用事を済ませたら出ていくが、
その瞬間。
勇者っぽい奴らがいなくなった瞬間、体が自由になるのだ。
あの言葉を発したい欲求もなくなる。
ウロウロしたいとも思わなくなる。
それは他の町民も同じようで、
奴らがいなくなった後は、各々に好きな事をやりだす。
『おい、D!あんた新入りだろ?』
そう話しかけてきたのは、先ほど、
ようこそ、とか言っていた村人Aだ。
『新入りといえばそうですね。』
『こんな体験は初めてなので』
そう言葉を発した。
あの言葉以外にも話せるんだ、、
と内心感動していたところ、
『じゃあ僕は先輩ですね!』
と、さきほどまでずっと猫を追いかけていた村人Cが話しかけてきた。
『まだ慣れないとは思いますが、お互い頑張りましょう!』
という、何をどう頑張ればいいか分からない激励をかけて、村人Cは食堂へ向かった。
『俺たちも行こうぜ!』
と、食堂へ手を引かれた。
『おっと、その前に、、お前今日何回話しかけられた?』
突然止まり、振り返りながら聞かれた。
『4回くらいですかね?』
きっと勇者っぽい奴らに話しかけられた回数だろうと思い、答えると、
『じゃあ、400マニーだな』
『マリアさん!こいつ400で、俺800ね!』
食堂の店主らしき人物にそう告げると、
『はいよ』
と、金貨を渡された。
それがこの世界のお金であることに間違いはないだろうが、
なぜ貰えるのだろう?
私は道を尋ねられて教えてあげただけだ。
それなのにどうして、、
『どうして?って顔してるね〜』
『あんた新入り?じゃあ教えといてやるよ』
『それがあんたの仕事だからさ』
マリアと呼ばれた彼女にそう言われて、
なるほど。
と、納得した。
これは仕事なのだ。
村人Dというのが私の仕事で、
私はその役割を果たした。
だから報酬をもらえたのだ。
じつに分かりやすいシステムだ。
つまり、この世界で、村人は仕事であり役割。
それをこなした回数だけ、報酬が支払われるという仕組みなのだ。
『私は村人Dなんですか?』
思いきって聞いてみた。
『そうだよ?』
と、当たり前だろ、という顔でAが言った。
私が彼らを村人AやCだと言われずに認識できるように、
彼らも私を村人Dだと認識しているようだった。
『なぜですか?』
『え?』
『なぜ私は勇者じゃないんですか!?』
夢の中でも社会の歯車なんてごめんだ。
せめて夢の中では勇者でいたい。
『なぜって言われても、、』
『そういうもんだろ?』