風の書 2
こうして、歩き出した愉快なパーティは、
(歩いているのは風月と私だけだが)途中魔物に遭遇するも、皆逃げ出してしまい、安全に旅路を進めていた。
まぁ、そりゃ、ウインドウルフの群れとスライムイーター、おまけに火龍だもんな。
逃げ出さない方がおかしいよ。
その中にいる私はどんな風に見えているのだろうか?
影の実力者にでも見えているのか?
いや、、歩く非常食かな。
なんて便利な非常食。
などと自虐ネタで1人盛り上がっていたところ、
『、、、おい、まだ着かんのか?』
と、捕食者が機嫌悪そうに言ってきた。
『まだまだだよ、多分』
ちょっと聞いてみるか。
〈あの、案内スキルさん?〉
〈はい、なんでしょうか?非常食さん〉
まあ、なんて素敵な返し方。
〈君は俺を食べないでね?〉
〈、、、〉
そこはスルーなんですね。
〈えっと、目的地までの時間とか分ったりします?〉
〈このペースで歩けば、およそ6日で到着予定です。〉
もっとかかると思ったが、意外と早いかも。
〈ありがとう〉
『アトラ?あと6日くらいで着きそうだってさ。』
『、、、6日じゃと?』
『うん、6日。』
『、、、飛ぶ。』
『ダメだって』
『、、、ならば貴様が飛べ!』
無茶言うな。
『ワレがゼンリョクでハシレば2日くらいでツクぞ。』
『そうなの?』
『、、、2日か、、まあよかろう』
『、、、風月、走れ!』
そんな犬みたいに扱うなよ。
『リョウカイしました!』
こいつすごい勢いで尻尾振ってるぞ。
案外こういうやつだったのか?
なんかちょっとショック、、、。
『って、ちょっと待って!おい』
風月が私とスラ丸を口に咥えた。
おいまさか、、、
『ちょ、、この状態で2日はさすがに死んじゃうよ!
せめて背中にのっ、、、』
と、すごい勢いで走り出した!!
『ひいぃぃぃぃぃ』
『ハヤーイィィィ』
そう言ったスラ丸はビックリするほど伸びていた。
よくちぎれないな、、などと感心している余裕はもちろんなく。
私も服がちぎれないよう祈りながら、耐えた。
その日の夜。
さすがに休息を取ることにしたようだ。
もはや私に意思はない。
ただの操り人形から、やっと人間に戻った瞬間。
『、、、腹が減ったな。
何か用意しろ。』
などとアトラがほざきやがった。
怒る気力もないので、スルーしたが。
『近くに小さな村があるようだね。』
『今日はそこで休もうか。』
『、、、うむ。』
すっかり伸びてしまったスラ丸と、疲れ果てた風月を風纏いに入れ、
村へ向かった。
伸びたスラ丸は、もとの綺麗なまんまるに戻るんだろうか?
というかなんで風月はあんなに満足そうなんだ?
もうこいつは犬と思うことにしよう。
明日の夜にはもう風都;アルデバロンだ。
風龍の領土に入る。
そこからは慎重に行動しないといけないな、、、。
下手したら怪獣大戦争だ。
はあ、、
今日くらいはゆっくりしよう。
何事も起こりませんように、、。
伸びた服の替えも探しながら村を見て回った。
『あの、すみません、頑丈な素材の服と、形状を留めておけるようなカゴみたいなものってありますか?』
道具屋と防具屋に寄った。
これ以上伸びたらちぎれてしまう。
私も彼も。
『これなんかどうだい?』
おお、これはなかなか良さそうな生地だ。
なんの素材かわからないが、聞いてもどうせ分からないからいいか。
カゴというよりポーチのようなものだったが、こちらも良さそうだ。
しかし、、お金がない。
良いものは高い。
当たり前だが、
ほとんどクエストの報酬は残っていないし、
まいったな。
とりあえず、ポーチだけを買うことにした。
私は伸びても大丈夫だが、スラ丸はちぎれたら困る。
『あの、これを下さい』
『、、、ん?服は良いのか?
ずいぶん気に入っていたようじゃが?』
『お金がないんです、、』
言わせないでよ、恥ずかしい。
『、、、なんじゃ、それならそうと早く言わんか。』
と、アトラが大量のお金を出してきた。
『なっ、、
こんな大金、、ちゃんと返してきなさい!』
『、、、私をなんだと思っている?
盗んだとでも思ったか?』
『え?違うの?』
痛っ
思い切り蹴られてしまった。
『、、、馬鹿者が。
私クラスになればこれくらい簡単に稼げる。
魔物を倒せば素材が売れるからのう』
なるほど、、
アトラクラスが戦う魔物だ。
素材もさぞかし高価なものが取れるだろう。
『え?じゃあ買ってくれるの?』
『、、、好きに使え。』
やだこの子。セレブ過ぎ。
結局、遠慮なく好きに使わせてもらった。
当面の道具や装備なんかもちゃっかり揃えた。
アトラ様様だ。
準備と食事を済ませた私たちは、宿へ向かった。
『半額キャンペーンなんていらないよ、店主。
この宿で一番豪華な部屋を貸してもらおうか、、、』
『、、、おぬし、、』
人はお金を持つと人格が変わるというが、あれは本当のようだ。
『すまないね、お客さん、
今日はあいにく、貸切で、、』
ん?
このパターンこの前もあったような、、、
『あら、小汚いゴブリンかと思ったら小汚い人間じゃない?
さっさとどいて下さる?わたくしにその小汚い匂いが移ったら困るじゃない?』
それは大変だ。
染み込ませてやらないと。
『というか、なにかしら?この子、、
もしかして龍族?』
『、、、なぜわかる?』
『匂いよ』
おいおい、また厄介なのが出てきたぞ、、。
でも事件はダンジョンではなく、毎回宿屋で起きるのね。
これも宿屋の息子の宿命かねぇ、、。