旅立ちの書 3
『半額キャンペーンは開催してるかい?』
『、、え?』
なんだ、やってないのか。
『お客さん、今日は貸切なんだ。
だからうちには泊まれないよ、悪いね』
なんだと?
まぁ、まだ、たいして疲れてないし、陽は高い。
次の村まで行けばいいだけなんだが、、
『貸切って、団体のお客さんでもいるんですか?』
『いや、そういうわけじゃないんだけど、、』
なんとも歯切れの悪い言い方をする。
『うーん、あまり他言しないでくれよ?
実は、お客さんは1人なんだ。
なんでもその人が人嫌いのようで、貸切にして、他の客を入れないでくれって言うんだ』
なんてやつだ。
『既に結構な額をもらっちゃってね。
本当、申し訳ない!』
どこぞの貴族か?
ゆるせん。
村の宿屋を貸切にして、他の冒険者を追い出すなんて。
そんなやつは城下町のお洒落な宿屋にでも行けばいい。
こんな辺境の村でやることではないだろ。
ここはガツンと言ってやろう。
風月軍団とスラ丸を纏っているからか、
いつになく強気になっていた。
同じ宿屋として、立場は分かるが、お客さんあっての商売だ。
そんな貴族の道楽で冒険者の旅の妨げをすべきではないだろう。
『一言言わせて頂きますが!』
『、、、邪魔だ。どけ。』
『そう!邪魔、、え?』
振り返ると少女がすごい形相で睨んでいた。
今、この子が言ったのか?
邪魔だって?
私に?
『、、、二度も言わせるな。どけ。』
な、な、な、、
『お、お客様!お戻りでしたか!
ささ、どうぞ、お部屋は用意してございます!』
宿屋の店主が地面に頭が着きそうなほど平伏し、仰々しく案内した。
この子は貴族の子か何かか?
しかし、なんだこの子、、
よく見るとすごいオーラを放っている。
他の村人や冒険者とは格というか、威圧感というものが根本からまるで違う。
真紅の髪と真紅の瞳のその子は、
どす黒く、禍々しい雰囲気を漂わせている。
貴族というよりまるで魔族のようだな。
などと考えていると、
『、、、おい、店主。』
『、、、私は貸切にしたはずだ。』
『、、、このゴミはなんだ?』
な、な、な、、、
『も、申し訳ありません!
すぐに追い出しますので!』
『さぁ、そういうことだから、さっさと出ていってくれ!』
プチンっと。
何かがキレた。
『人に向かってゴミとはなんだ!?
初対面の、それも目上の人間に対して邪魔だの、どけだの、何様だ!?』
『、、、なに?』
『貴族だが、金持ちだがなんだか知らんが、
誰かに対して礼を持てない人間に譲る道も、案内する宿もないね!!』
『ヤメテおけ!キサマ、コロサレるぞ!』
『コワイ、コワイ、、』
風月達も怯えているが、私はもう止まらない。
『礼儀について何も学んでこなかったようだな!
親御さんを連れてきなさい!
まとめて説教してやる!!』
しばらくの沈黙ののち。
『、、、母は死んだ。父は見つけ出し必ず殺す。』
『、、、つまり説教は私が聞く。
そして、聞いた。
満足したか、人間よ。
、、、もう思い残すことはないか?』
禍々しいオーラがピークを迎えた。
『ひぃぃぃぃ!!』
宿屋の店主が逃げていった。
『オワッタな、、』
『コワイ、コワイ、、』
風月は諦め、スラ丸は怯えた。
私は、、
パンッーーー!
と、
思いっきり平手打ちをくらわして、言った。
『親を殺すなんて言うなっ!!!』
『、、、なっ、、』
彼女の禍々しいオーラが消えた。
『どんな事情があるか分からないが、父親が生きているなら探し出して仲直りしたらいい!!
母親が死んでしまったのなら、
家族はキミと父親の2人きりだろ!?
残された家族が憎しみ合うなんて、あまりに母親が可哀想だろ!!』
『、、、貴様に何が分かる?、、、貴様に何ができる?
私はーー』
『人探しならできるっ!!』
『、、、なに、、?』
『、、、どうやって?
いや、まて、貴様、、』
なにやら真剣な目で私を見定め始めた。
『、、、そうか、、。
貴様のスキルならたしかに見つけ出せるな。』
え?分かっちゃうの?
しばらく考え始めた。
『、、、分かった。
ならば探してもらおうか。』
え?
『、、、我が父、獄炎龍イグニスを』