冒険の書 3
とりあえず満月草を探すことにした。
いきなり龍月草に挑む勇気はない。
というか、
そんなHPはない。
龍は一度見てみたいが、
命と引き換えでは割に合わない。
死んでしまうくらいなら、
一生、武器屋でゴリラを見てた方がマシだ。
せめて、1撃耐えられるだけのHPまでは上げたいな。
というか、なんだったらレベルを上げて、
そのまま討伐しちゃったりして。
ドラゴンスレイヤーだったか?
、、うん、カッコいい。
中年と少年には響くワードだ。
いつかはドラゴンスレイヤーか、
『待ってろよ!!』
なんて言ってみたり。
ちょっと冒険者っぽいな。
『ウン、マッテルヨ』
なんてスラ丸に言われてしまった。
、、恥ずかしい。
『行こうか、、』
特殊スキル発動!
〈満月草〉を選択した。
すると、
やはり道に矢印が現れた!
『こんなラクしていいのかね』
『イイノカネ〜』
私とスラ丸は意気揚々と歩き出した。
楽しい。
やっぱり冒険は1人ではつまらない。
パーティがいてこそだと思う。
この世界に来て感じていることがある。
私は今まで、
あまり物事を考えずに生きてきた。
こういうものだから、とか。
そういうルールだから、とか。
誰かが決めた、
誰かのゲームの登場人物に過ぎなかった。
だが、ここにきて、
ここが夢か、
はたまた本当に異世界なのかはまだ分からないが、
この世界にきて、
私は必死に考え、必死に行動した。
登場人物から、
脇役から、
村人Dから、
ーー主役になるために。
変な話だが、
今、私は、私として生きていると、
胸を張って言える気がする。
、、なんか冒険者っぽいな。
声に出さずに、そう思った。
そんなことを考えながら、
しばらく歩くと、
ずいぶん森の奥側まで来てしまったようだ。
光は遮られ、昼間だというのにかなり暗い。
気持ちの問題だと思うが、
なんだか寒い気もする。
スラ丸がいなかったら泣いていたかもしれない。
、、でも心配はない!
目的地を村へ設定すればまっすぐ帰れるのだから!
もう怖いものなしだ!
『グルルルル』
と、
獣の唸る声が聞こえてきた。
やっぱ怖い。
私のHPはスライムと同じくらいなので、
魔物に襲われたら一瞬だ。
『スラ丸、何かあったら頼むよ、、』
『ワカッター』
なんとも頼りになることで。
なるべく遭遇しないように進まないと、、。
と、内心ビクビクしていたら、
〈ルートを最短から、
安全なルートに変更しました。〉
と、アナウンスが聞こえた。
まじか。
このスキル有能過ぎないか?
私でも宿屋までは最短ルートしか案内できなかったぞ。
『この道をまっすぐだよ!』
と言っていた自分が恥ずかしい。
案内スキルのおかげで、魔物と出くわす事なく、
無事、満月草の群生地まで辿り着けた。
早速採取をしようと思ったら、
食いしん坊が早速食べ始めた。
ヤバい、
早く規定値分は回収しなくては!
草を取り合った。
『スラ丸、薬草とかその辺に生えてるだろ?』
『そっち食べなよ』
『こっちのは割と貴重なんだぞ!』
『コッチノホウガ、オイシイ』
『ピリピリスルカンジデ、オイシイヨ』
おい、それ痺れてないか?
というか、キミ味覚あるの?
などと思ったが、
多分、オイシー!
としか言わないと思うので聞かないでおこう。
時間は有限だ。
暗い森は怖いし。
早く帰ろう。
帰り道も〈安全なルート〉で村まで帰った。
村にスラ丸を連れて行こうかとも思ったが、
討伐されてしまいそうなので、
村近くの森で一旦別れることにした。
また冒険する時に迎えに来よう。
『マタネー』
スラ丸が手を振った。
ように見えただけで、
実際はずっとブヨブヨしていたスラ丸と別れた。
家に帰ると、
『ディー大変だ!』
と、血相を変えた父親が駆け寄ってきた。
『パン祭りが終わったの?』
『終わらないよ!!
そんなことより、近くの森でウインドウルフの目撃情報があったんだよ!!』
『村中大騒ぎだ!!』
ウインドウルフ?なんか強そうだな。
『ディー、森に向かったって聞いたから、
もう心配で心配で、、』
『でも無事帰ってきてくれてよかったよ』
そんなことになってたのか。
まてよ?
もしかして、
今日、森の中で聞いた唸り声って、、。