神社巡りデート①
読みに来てくれてありがとう!
是非最後までよろしくお願いしますm(__)
ポイントが40ptくらいいけば続編書こうかと思います!!
◇
「それで、今日は神社に行くってことかしら?」
希夜香さんはサンドイッチの包みを開けながら、作業的な感覚でこちらに問いかけてくる。
「まぁそうですね。呪いといえば神社、穢れは神に浄化してもらうほかありません。」
それっぽいことを適当に言ってみた。本当のところは知らん。
俺と希夜香さんは、テストを終えて近くの公園で作戦会議をしていた。
俺は眠い目をこすりながら膝に置いた弁当箱を開ける。そこには真っ白なキャンバスのようなお米が一面。それに加えて、昨日雫が作っておいてくれたカレーを別容器に入れてきたのだ。そう、これだけで完結する、さすがはカレーだ。
手軽で、冷めてもその魅力は衰えを知らず、俺の食欲を掻き立てる。
「あら、すごく美味しそうね。私にも一口食べさせてくれるかしら。」
希夜香さんはグッとこちらに顔をよせてカレーの容器を覗き込む。今日も優しい甘い香りが漂っている希夜香さんに油断していると、スプーンで掬った俺のカレーは、綺麗さっぱり消えていた。
「美味しいわ。やはりカレーは2日目に限るわね。」
うん?俺は瞬時に疑問に思う。なぜ2日目だと知っている?
まぁ、朝にカレーを作る気合いの入った家庭はなかなかないか。続けてサンドイッチを小さい口で食べる希夜香さんを見ながら、カレーにがっつく。
だが、その手を一瞬で止めてスプーンを見つめる。
さっき、希夜香さんが使ったスプーン…。
いかんいかん、気にしていると気持ちが悪いやつだと思われそうだ。少し青臭いことを考えてしまった自分を反省しつつ、米とカレーを掬う。
要は気にしないことだ。俺はさっきよりも少し慎重に食事を進めた。
「宰くん、大丈夫?」
ドキッ。
急にそんなことを言われたので、少し動揺する。
意識しているの、そんなに顔に出ていたであろうか。
「え、なにがですか?」
「すっごく、ねむそう。」
なーんだ、それは正解です。
上目遣いでこちらを見てくる希夜香さんを見て、少し冷静になる。
昨日は早く寝ようと思っていたのに、呪いの件について色々気になってしまい、結局朝方までネットで情報収集をしてしまったのだ。いわゆる徹夜だ。おそらく少しくまができてしまっていることに気付かれたようだ。よく見ている。
ただ、有力な情報はおろか、昨日七海からもらったレベルの情報すらほとんど手に入らなかった。なんと言っても江戸時代の情報だ、そうそう見つかるものでもないのだろう。せめてそういう不思議な現象に悩んでいる人間にでも出会うことができれば、話は少し好転しそうだが。
そんなこともあって、テストもあまり奮わなかった俺だが、別に勉学に全てを懸けているわけではないし、眠いのは日常茶飯事である。
「全然問題ないですよ。」
「そう。」
希夜香さんはひょいと体勢を戻す。そうしていつもの無機質な表情に戻る。
「それで、どこの神社に行くのかしら。」
ズズーッ…カラッ…っと、紙パックのフルーツジュースを最後まで飲み切って、彼女は話を戻した。
「片っ端から回っておきましょう。携帯で調べてみて…ってそういえば、希夜香さんのうちってどの辺ですか?」
「あっちの方。よかったら今日泊まりに来る?親はいないわよ。」
希夜香さんは東の方角を指差しながら、なんだかいかがわしい感じで誘ってくる。
「遠慮しておきます。」
「なにも起こらない…はずもなく。」
…。
積極的なのか倫理観がおかしいのか、その狭間を断言するほどの経験値は俺にはない。
とりあえず家の方角は概ね俺と同じのようだ。そう思いつつ、携帯で神社を探す俺の指を一旦止める。
「そういえば、昨日うちの前に置いて行ったメモ、あれはなんだったんですか?」
夜が長くて忘れかけていた。そういえばこの人、俺の家の周りに居座っていた疑いがあったんだ。
「いやいやいやいや、ちょっと近くを通りかかったもので、少し寄っただけよ?」
「夜の9時にですか?」
「いやいやいやいや、別にあなたが勉強会から帰ってきたか確認するためにあなたの家になんて行ってないわ。ほんとに偶然よ、偶然。」
この人、都合が悪いとロボットみたいになるんだな。
「俺、勉強会のこと話しましたっけ?」
「いやいやいやいや、そんなこと今はどうだっていいじゃない?他人が目玉焼きに醤油をかけるか胡椒をかけるか、はたまたソースをかけるかぐらいの問題じゃないかしら。」
おぉ、確かにそれはどうでもいい。
「ちなみに私は完全に醤油派。他の派閥の者をこの世から根絶しようと思っているわ。」
全然どうでもよくないじゃないか。そして俺が胡椒派ということはずっと黙っていよう。
「そんなことより神社を回るんだったら早く行きましょう。暗くなってしまったら襲われてしまうかもしれないし。」
なににだ?熊にか?
なんだか話をごまかされたような気もするが、希夜香さんが言っていることはもっともなので問い詰めるのはここまでにして、俺たちは神社へ向かった。
◇
5月だってのに、昼間はだいぶ暑い。
1つ目の神社は、畑と田んぼの周りにポツンと鎮座していた。管理はされていないのか、草が生い茂っており、高い木の葉によって日光は遮断されている。そのおかげで神社の中はかなり涼しそうだ。
やたらと大きい鳥居をくぐって中に入る。
「手水車は、なさそうですね。」
「こういうのは作法じゃなくって気持ちが大事って言うじゃない。とりあえずお参りだけでもしておきましょう。」
いつもの俺なら”それでいい”と思うだろう。だけど今回は、正式に呪いを祓って欲しいわけで、できるだけ作法は守りたかったんだけどな。ないものはしょうがないけど。
2人で並んで参道を歩き賽銭箱の前で立ち止まり、とりあえず礼をしておく。
お賽銭の額ってなにがいいんだろうか。いつもは適当に10円くらい入れてるっけ?
今の小銭事情を確かめるべく、俺はガサゴソと財布の中身をほじくる。
「宰くん。あなたはお賽銭にはどんな意味があると思う?」
手を合わせて目を瞑っていた彼女が急に話し始めた。
「え?それは、願いを叶えてもらうための自分の気持ちや決意を表現するため、とかですか?」
コクリと頷く希夜香さん。
「ええ、私もそう思う。そして今回、宰くんは私のためにお賽銭を入れるわけよね?それってつまり、宰くんの私への愛の具現と言ってもいいと思うの。」
俺の手のひらに込められた100円玉は手汗でびっしょりになる。思わず喉をゴクリと鳴らす。
こういうのは”気持ち”じゃなかったのかよ。ビビって聞けやしない。
「それじゃ、希夜香さんはいくら入れて欲しいんですか?」
希夜香さんは胸の前で手を振る。
「そんなそんな、私はやってもらってる身よ?そんな烏滸がましい事言えないわ。でも、その額が大きければ大きいほど、あなたが私に捧げる愛の大きさの証明になり、私たちの今後にも影響してくると思うの。宰くんはどう思う?」
白々しく口を開く変態JK。
そのちらついている1万円札を入れろ。希夜香さんのダダ漏れている心の声が雑音のように響く。
「はぁ。」
ため息をついて100円玉を引っ込めると、代わりに出てきた1万円札はパンドラの箱の中に吸い込まれていった。
「わぁ嬉しい。宰くんの愛、確かに受け取ったわ。でもごめんなさい。私、てっきり千円札を入れるものかと思っていたわ。」
なんと、そんな折衷案があったなんて。俺は賽銭箱の間に手を突っ込みたくなる衝動を抑えて1万円を諦めた。昨日降ろしたばかりなのに。
って待てよ、先に賽銭を入れてたよな希夜香さん。確かチャリンチャリンって、小銭が2、3枚の音が…。
さっさと参道を引き返す希夜香さん。
この人、ロクな死に方しないだろ。むしろ神が殺しに来そうだ。
彼女の背中を追いながら、そんなことを思った。
最後までありがとうございます!
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