放課後③
このお話を読みに来てくれてありがとう!
是非最後までよろしくお願いしますm(__)m
とりあえず一区切りのところまで書き終えてます。
ポイントが40ptくらいいけば続編書こうかと思います。
◇
「まぁそういうことがあったわけだ。」
俺は痴漢されたこと以外の話を簡潔にした。普通の人間なら軽く聞き流すような話だったが、七海は最後に取っておいたチョコレートを食べながらしっかりと聞いてくれた。そう、しっかりだ。
「なるほど、呪いねぇ。」
冷蔵庫から取り出してきた魚肉ソーセージを咥えながら天井を見上げている。田辺、今買い物に行ってるんだよな?なんでこいつの口の中には常に食べ物が詰まっているんだろうか。これもオカルトの1つとなりそうだ。
「あぁ。七海は呪いについて、何か知っているか?」
期待3割ってとこだった。
なんせ呪いなんて、言葉で聞いたことはあっても、どちらかというとゲームやフィクションの中のイメージで、実在するものかもわからない。
希夜香さんのついたかなり趣味の悪い嘘の可能性だってある。それを真面目に相談している俺もなかなかのお人好しなのかもしれない。
嘘であったら、それはそれでいいのだが。
「もちろん知ってるわ。」
少しニヤついた顔で答える七海だった。
こいつはいつも俺の想像の上を行くJKだ。今回も期待していたぞ、もちろん10割。
そんな俺の心情なんて露知らず、七海は部屋を出ていった。どうやら書斎の方に行ったみたいだ。
俺は飲みかけていたお茶を飲み干す。改めて部屋を見渡す。七海の部屋はかなり簡素なもので、あまり物は置かれていない。
あるのは3人で撮った写真と家族写真、それに俺たちが遊ぶ用のゲーム。勉強机と今使っている折りたたみ式の机、特にデザインのないカレンダーの存在感はかなり薄い。おそらく七海の所有物で大半を占めるであろう本も、書斎で管理しているようでここには一冊もない。
女の子の部屋としては少し寂しい気もするが、俺は個人的に嫌いじゃない。
「この本ね。日本には昔から呪いというものが存在していたの。」
帰ってきた七海はそう言って七海は1冊の本を机の上に置く。かなり重量感のあるずっしりとした本だ、相当分厚い。表紙は古びてパラパラと崩れ落ちそうで、年代を感じる書物になっている。心なしか、だいぶ古本の匂いがする。
「古来から伝えられる伝承の中に、呪いも含まれているの。江戸の末期、地方の様々なところで怪異事例が発生していたらしいわ。神隠しや謎の疫病、それらが1人の人間によって引き起こされたということがわかったらしいの。各地方で処刑が行われ、その後は呪術師と呼ばれる者の活躍で呪いが消滅されたと記されている。」
真面目に聞いていたつもりが、あまりにも現実離れしすぎていて内容が入ってこなかった。
「それって、フィクションではないのか?」
「紛れもなく、とは言わないけどある程度事実が書かれているはずよ。」
うーん。
その本の信憑性については七海を疑うようで嫌だったのでなにも聞かなかった。
若干世界観が違う話に聞こえるが、あてもないので一つの選択肢として考えるしかないか。俺は顎に手を当て考える。
「今回の希夜香さんのことと、伝承の中の呪いは関係あると思うか?」
「きよっ?!へぇ、その先輩のこと下の名前で呼んでるんだ。会って間もなくて、先輩なのに?ほー、私たちのことはまだ苗字なのに。ふーん?」
意外なところで想像以上に動揺する七海。
そんなに驚くことなのだろうか。こいつが名前の呼び方にそんなにこだわりを持っていたのは知らなかった、悪いことをしたな。
「じゃあ、お前のことは”麗羅”って呼べば良いのか?」
「な?!」
今度は顔を赤くする七海改め麗羅。いちいち反応が大きいやつだ。俺自身そんなに呼び方にこだわりがあるわけではないのでどちらでもいいのだが。
「お前だって、俺のこと下の名前で呼んでるんだから別に変じゃないだろ?」
「ち、違うわよ!別に宰に下の名前で呼んでほしいわけじゃないから!ただ、その月ヶ瀬先輩と随分仲が良いんだなって思っただけで。あんまり勝手に想像を膨らませないでくれる?」
あぁ、なんだ。自分たちの進展が全然ないから焦っているだけか。自分の恋愛と他人の恋愛を比較するもんじゃないぞ。
なぜか達観してそう思った。無意識のうちに勝った感覚になっていたのかもしれない。
「今度、田辺と2人でデートでも行ってこいよ。あいつ基本アウトドアだから、ショッピングモールにでも行ってこればあいつもそこそこ楽しめるだろ。で、いい加減告白してくっついてしまってくれれば…。」
言い切ろうとした俺の目の前には、噴火寸前のメガネ顔のJKがひとり。
「余計なお世話よ!」
俺の顔に投げ出された消しゴムがクリーンヒットした。
シャーペンじゃなくてよかった。俺は額を覆いながらそう思った。
「ほら、さっきの呪いの話だけど。」
脱線した話が復線する。なんでこんなに大きく逸れたんだっけか。まぁいいや。
「呪いというのは、”具現化された何か”というわけではないわ。どちらかといえばウイルス、細菌みたいに空気中に漂っているのよ。」
へぇ。なんか呪いと聞いたら、幽霊やら口裂け女みたいなイメージだったが。いや、口裂け女は呪いじゃないか。呪いより怖いかもしれないが。
「呪いは普通、人間の中には入って来られないの。ただ、心の弱みを持っていたり、特定の呪いとの適合率が高かったりすると、呪いは中に入れて、怪異をもたらす。基本後者は存在しないから、前者によって月ヶ瀬先輩は呪いに入り込まれたと推察できるわ。」
「心の弱み、か。」
16週間、4ヶ月一緒にいるらしいが、今の俺は希夜香さんのことを何も知らない。
あの人に弱みか。まったく想像はつかないが、そうなるとまずは彼女を知るところから始まるのかもしれないな。
「その心の弱みを解消できれば、呪いは解かれるのか?」
「さぁ、知らない。私だって遭遇したことはないし。」
腑抜けた声にこちらも気が抜ける。
「伝承では呪われた人間は殺されているの。解決方法として確立しているのは”殺すこと”だけ。ただそれさえも、もしかしたら通用しないかもしれないわね。」
ペンを器用にクルクルと回しながら”麗羅”が続ける。
「もし今回の件が本当に呪いなのだとするならば、長い年月をかけて人間が少しずつ進歩してきたように、呪いも少しずつ進化しているかもしれない。呪いが生命のように生存活動を生業とするなら、だけど。人間に順応している呪いに対して、解決方法はあるのかしらね…。」
「ただいまー!」
すごく不穏なことを言い残したタイミングで田辺が帰還した。解決方法はないかもしれない、か。
まだ実感がないからだろうか。でも、結局やることを変えられるわけではないよな。
俺、一応彼氏らしいし。ちょっとその関係性に喜びを覚えている自分がいる。
「ありがと、麗羅。色々頑張ってみるよ。」
「だから名前で呼ばなくていいって!」
キョトンとした田辺の腕に抱えられたアメリカンドッグを奪い取りながら、七海はそう言った。
最後までありがとうございます!
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モチベになるのでマジで!!!