強行突破②
読みに来てくれてありがとう!
是非最後までよろしくお願いしますm(__)
ポイントが40ptくらいいけば続編書こうかと思います!!
◇
日は跨ぎ、金曜日になった。この1週間、いろんなことがあった。ほとんどは希夜香さん絡みの事だけど。
屋上でキスをされて、突然交際宣言をされて、呪いのことを知って、一緒に神社に行って、突然離婚宣言をされて、あれは多分俺が悪かったんだけど…。
でもそのおかげで、今までの自分の気持ちに向き合えた。これから、弱い自分に立ち向かっていくきっかけになった。
今度は希夜香さんと向き合う番だ。彼女の過去と、弱さと、愛に向き合う。絶対に諦めない。
そう決心を固めつつ、俺は微睡の世界へと落ちていく。少し寒いのも気にならないくらい、俺の眠気は膨大で、疲労もピークだったようだ。
明日は、学校を休もう。
「こ、こだ…!」
俺は最近よく聞く声に呼ばれて目を覚ました。バッと顔を上げると、制服姿の女子高生が一歩たじろいでそこに立っていた。目がぼやけてよく見えない。
あれ、もう朝になっているのか。1時間だけ寝ようと思っていたのに、もう最近の生活習慣はめちゃくちゃだ。
女子高生は目を擦る俺の目の前を走って突っ切った。俺はくっきりとした視界でその背中をじっとみる。
俺は立ち上がった。そして同時に走り出した。
絶対に、見失うわけにはいかない。
「ま、待って!」
頭が覚醒するのを待たず俺は希夜香さんを呼び止める。彼女の足は止まらない。俺は何も考えず希夜香さんの後を走って追いかける。
止まらない希夜香さんの後ろで下唇を噛み、やがて口を開く。
「希夜香!!」
その言葉に、ピタッと動きが止まった。
俺は追いついたその柔らかい体を背後からそっと包む。子どもの宝物のように、そっと抱いた。
今日も変わらず、フローラルな優しい香りが漂い、俺の心が満たされる。
「やっと…つか…まえた…。」
イケメンが言っていたらカッコ良さそうな言葉だが、息も絶え絶えの俺が言っていたらただの情けないやつでしかない。昆虫でも捕まえたのかってなってしまう。
意外にも彼女は抵抗をしなかった。暴れたり反撃をしてきてもおかしくないと思っていたが、彼女は自分を包む腕にそっと触れた。
彼女の呼吸も早くなっていた。
「希夜香、さん?」
あれ?俺さっきナチュラルに呼び捨てにしなかったか。周りにはマンションから出てきた大人から子どもまでもが俺たちを凝視しながら通り過ぎていく。走ったせいか、急に体温が上がってきた。
「あぁ!ごめんなさい。」
俺は反射的にパッと希夜香さんから離れた。すると、今度は離れた俺の体に、希夜香さんが体を預けてきた。その腕はブルブルと震えており、冷たかった。
「わたし…ま…置いてい…んでしょ。」
希夜香さんがボソリと呟いた。よく聞き取れなかったが、何を伝えたいのかは理解できる。
「置いていきませんよ、ずっと一緒にいます。」
俺はサラサラの頭を撫でる。
「うそつき!!」
涙が瞳から溢れる希夜香さんは、俺の方をギッと睨む。歯を思い切り食いしばり、俺の背中に回った手は、爪を立てるように力が強くなる。今の俺の言葉が、上っ面な言葉だと思われても仕方がない。
「いっつもそう言って、私を裏切ってる!あなたの言葉は、嘘ばっかり!!いつかは私のことなんか綺麗さっぱり忘れて、違う誰かと仲良くして、結婚して、幸せな人生を歩むんでしょ!こんな、私のことなんて、すぐ…」
心に突き刺さる言葉を真摯に受け止める。
16週もの間、俺は希夜香さんと一緒にいるらしい。未だに信じられない。俺にはなくて、希夜香さんの中にだけある不条理な記憶。
でも確かに、少し過ごしただけでも感じる2人の温度差は、俺も感じた。今だって、俺と希夜香さんが発する言葉の重みには歴然たる差がある。
未だに希夜香さんの抱える呪いは解かれず、時を追うごとに俺と希夜香さんの記憶は離れていく。
それを日々感じているのは、希夜香さんただ一人。これは希夜香さんへの裏切りでもあり、俺への失望の数でもあるということだ。
今さら俺が信頼を求めるなんて烏滸がましい。だけど、過去の自分の失望を取り戻せるのは、今の俺だけなのだ。
何より、希夜香さんにこれ以上涙を流させるのは絶対に嫌だ。
「もちろん、今すぐ希夜香さんを助けられるかなんてわかりません。俺は、大した人間じゃないんです。」
そうだ。俺には何にもない。無知で平凡で、自慢できることなんて1つもない。
でも、この16週間で、記憶の繋がらない俺という存在は確かに紡いでいったんだ。
彼女との思い出を。それは俺の中にはなくても、彼女の中にはある。
「でも!それでも!絶対にあなたを救ってみせる。その約束だけは、死んでも守ってみせます!!」
俺の中の気持ちも晴れたような気がした。
人に気持ちを伝えるって、こういうことなのか。新鮮な体験に、なぜか頭がぼやっとする。
「俺を、信じてくれませんか?」
俺はもう一度、彼女を強く包む。
「宰くんは、ずるい…。」
希夜香さんも強く抱き返してくる。乱れた呼吸を整えるため、一気に息を吸い込む。
「私を、ひとりにしないでよ!どこかに行かないでよ!ずっと、ずっとずっとずっと一緒にいてよ!」
彼女の悲痛な叫びが頭で木霊する。
彼女の瞳からは涙が濁流のように流れ、決壊していった。
「どれだけかかっても、希夜香さんのことは忘れないし、何度だって思い出します。俺は、希夜香さんに一目惚れなんですから。」
矛盾を孕む俺の言葉は、希夜香さんにどれだけ響いたのだろう。そんな不安の反面、俺の心は満たされていた。
これは不謹慎なのかもしれないが、彼女の泣き顔が、俺にはすごく美しく見えた。
いつもの少し余裕のある感じの希夜香さんからは想像できないような、弱いパンチを俺にぶつけてくる。足元に雫が落ちる。
俺にはまだ、彼女の気持ちが完全に理解できていない。何を見て、何を感じて、そんな言葉が出てくるのか、きっと彼女にしかわからない。
でも、俺はそれを知る必要がある。義務がある。
「ちょっと、ゆっくり話をしませんか?お互い自分のことを全部話しましょう。呪いに効くかもしれませんし。ね?」
冗談めかしく希夜香さんに提案をした。
呪いを解くためというのは嘘ではない。嘘ではないが、建前だ。
今の俺は、彼女のことをもっと知りたい。それだけだ。
今は、今だけは、彼女のことしか見れない。俺は、盲目になってしまったようだ。
「学校は、どうするの?」
「休んじゃいましょう。」
即レス。
決して、学校を休みたいから提案したわけではない、本当だ。
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