帰り道
読みに来てくれてありがとう!
是非最後までよろしくお願いしますm(__)
ポイントが40ptくらいいけば続編書こうかと思います!!
◇
少し冷えてきた駐輪場で、俺は自分の自転車に跨った。なんだかいつもより心細い気持ちになる。
色々なことを考えすぎているのだ。
考えても無駄なことはわかっている。けど結局、最後には全部解決しないといけないことで、それは全部俺の問題で。
また頭が痛くなってきた。まだ睡眠時間のリボ払いが済んでいないようだ。明日は学校を休もう。
心の中で軽く決心する。
「おっ、おさむー。」
聞き馴染みのある声で顔を上げると、校門前で田辺がこちらに手を振っていた。本来は制服での下校が義務付けられているが、田辺はバドミントン用のスポーツウェアに身を包んでいる。俺は田辺の前で乗ったばかりの自転車を降りる。
「もう大丈夫なのか?倒れたって聞いた時はびっくりしたよー。」
「おう、もしかしたら明日は大事を取って休むかもしれんがな。というか部活、そんなに長かったのか?」
「あー、そうそう。なんか先輩たちが盛り上がっちゃってさ、後輩たちは付き合うの大変だったよ。」
頭をポリポリと掻きながら答える田辺。
嘘である。こいつは平気で嘘をついて友達を2時間も3時間も待っている変人だ。普通に気持ちが悪い。
だがそれと同時に、俺はこいつのこういう所を買っているのも事実である。
「というか今日は自転車なんだな。どういう心変わりだ?」
「うーん。気分転換、だな。」
「ほーん。」
おそらく嘘である。別に否定する必要もないので軽くあしらう。
夜になり風も出てきて、校門近くの木が音を立てて揺れている。普段教師の車が止まっている駐車場も残り数台しか残っていない。
「帰ろうか。」
田辺の一声で、俺たちは校門を出た。
満天の星空だ。やはり外から見る田舎の夜空はロマンチックさを感じられて良い。帰り道には街灯も少なく、周りがくらい分よりくっきりと星を見ることができる。教室から見えていた雲はどこかへ消えているようだ。
少しだけ、気持ちが落ち着く。
「宰。」
大きな月に見惚れていると、小さな声で呼びかけられる。
隣にはいつもの馴染みある顔。
「うん?」
その後に続く言葉は聞こえない。沈黙が続く。
いつもの余分な元気が全く感じられない。なんだか気まずいのでこちらから話題を振ってみよう。
「そういえば田辺、今回のテストの出来はーーー」
「あのさ、宰。」
俺の声を遮る。田辺は普段、こういうことはしない。ヘラヘラしているように見えて、こいつは人の話をよく聞く。逆に、こうやって自分の話を押し通そうとする時は、いつも以上に真面目な時だ。
「…。」
だが、なかなかその後の言葉を話そうとしない。というより言葉が出てこないという表現の方が正しいと、俺は田辺を見て思った。
まっすぐ前をみて考えている、俺へかける言葉を。
周りの環境音は、虫の鳴き声とあたりに生えている畑の草花が揺れる音だけだ。
俺は同じペースで自転車を漕ぎながら田辺の言葉をじっと待った。時々通り過ぎる車のライトが眩しい。
田辺は言わば”無償の愛”を好む人間である。一度俺はこいつにそれを忠告した。「優しくしたって自分にとって良い結果が帰ってくるとは限らんぞ?」と。
「そうかもな。」と笑って返してきた田辺の顔は、今でも忘れられない。
こいつは俺のことを心配してくれている。困っている俺を見たら、迷わず手を差し伸べてくれる。
でも、俺にとってそれは後ろめたさでもある。俺以外にもたくさん友達がいる田辺の自由を奪って良いのか、と。
俺は、田辺にはいろんな”楽しい”や”青春”を感じてほしい。
田辺はひとつ息を吐いて、遂に口を開く。
「今度の八尾山祭、3人で登らないか?」
田辺はこちらへニコリと笑うと、俺に提案をする。
八尾山祭とは、八尾次高校で行われる登山イベントだ。今度の日曜日開催予定で、参加は任意である。
というのは、今はどうでもいい。
おそらくこいつの言いたかったことは、そんな誘いの言葉ではなかったはずだ。
我慢することを選択したんだ、俺のために。
何も話さない、俺なんかのために。田辺の右ハンドルには力がこもっており、口は堅く閉じている。
一瞬、田辺に希夜香さんのことを話そうかとも思った。七海には話したし、こいつの情報網は侮れない。でもそれは俺の甘えだ。田辺の優しさに付け込むマネはしたくない。
「すまん、ちょっと無理だ。」
俺は親指と中指で両サイドのこめかみを抑えながら、お断りの返事を返す。
「そ、そっか。それは残念だ。七海がさ、「山はオカルトの宝庫だから」とか言っててさ、ちょっと俺一人じゃ手に負えないと思って。宰が来てくれたら助かったんだけど。」
いつもの半分以下のボリュームでそう答える田辺の手からは力が抜けているように見えた。辺りが暗くてよく見えないが、きっと悲しい顔をしているのだろう。想像は容易だ。
今の俺に気の利いたことが言えるわけがない。逆に、田辺に気を利かせてばかりだ。
どうせ忘れてしまうから、田辺に迷惑をかけたくないから。
それって本当は、俺が逃げているだけなのかもしれない。田辺からも、希夜香さんからも。どれが自分の中の甘えで本心なのか、分からなくなってきた。
希夜香さんには呪いを解くよう頑張るとかかっこいいことを言っておきながら、本当に自分ができる限りのことをやっていただろうか。希夜香さんとの今の時間が楽しいから、現実逃避をして問題を遠ざけているくせに、白々しい。
いや、それだけじゃない。昔みたいに、全部やってもダメだったらどうしようって逃げ腰になっていた。田辺にも中途半端に迷惑かけて。本当に最低だ、俺は。自分自身に腹を立てる。
こんな俺だから、問題は解決できず、先送りになり続けているんだ。でももう、この輪廻に終止符を打たないといけない。
それだけが、ここまで逃げ続けた俺が希夜香さんと田辺にできる唯一の報いなのだ。
「俺さ、好きな人が出来たんだ。」
静寂を切り裂く。
俺の口から咄嗟に出た言葉で田辺は自転車を止めた。そして、こちらを向く。
そこにはちょうどあった街灯に照らされた親友の姿だった。
田辺は、笑っていた。
別に俺が何も言わなくたって、これからも同じように笑って接してくれていただろう。こいつは優しいから。
でも、屈託のないこの笑顔が見れたのはよかった。田辺の笑顔が俺にも移る。
「そっか!なるほどな宰。そりゃ色々大変だよなぁー!」
急に元気になった田辺はペラペラと語り始めた。
肩をバンバン叩いてくる。痛いし危ない。
結局、本質は伝えられなかった。けど、一番伝えたいことは伝えられた気がする。今は、それでいい。
「俺さ、宰が強い人間って知ってるから、何かあっても無理に口を挟もうとは思わなかったんだ。どんなことがあっても、宰なら乗り越えられる。そういう力を持ってる。」
俺が強い人間だと?すでに勘違いをしている親友の話を、俺は聞くに徹する。
「けど最近は明らかに様子が変だっただろ?さすがに心配でさ。でも今の顔をみたら、大丈夫だって確信したよ。」
全然わかっていない、このお人よしは。
俺は強くもないし、大丈夫でもないかもしれない。とんだ過大評価である。
それでも、親友の言葉というのはいつでも俺の背中を強く押してくれる。
「それにしても好きな人かぁ。遂に宰にも春が来たってことだな。いいねぇ、青春だな!頑張れよ、宰!」
俺は目から溢れた水滴の筋を悟られないようそっぽを向いた。
「おう。お前もそろそろいい感じに頼むぞ。」
「え?なんのこと?」
この鈍感男の春は、まだ少し先らしい。
最後までありがとうございます!
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