浮気②
読みに来てくれてありがとう!
是非最後までよろしくお願いしますm(__)
ポイントが40ptくらいいけば続編書こうかと思います!!
◇
あぁ、あぁ。
もう何も考えられない。頭が回転していないのがよくわかる。いや、それすらもわからなくなってきているかもしれない。
俺の記憶にあるのは、自分の名前を書いたことだけ。解答欄を1つも埋めていないと言われても不思議ではない。
昨日、希夜香さんの後を追ったが、彼女は一瞬で姿を消してしまった。学校をくまなく探してみても、見つけることはできなかった。結城もあの後から俺の半径5メートル以内に入ってこようとしないし、散々だ。
せっかく頑張れそうだったバイトも上の空、同じシフトのおばちゃん(梅野さん)と後輩の鯵野くんに心配される始末だった。
希夜香さんになんて言えばいいのだろう。あれって俺が結城と話してたから怒ってたんだよな。核心部分も曖昧である。
眠いのに寝られないのは、もう地獄だった。
目が呼吸をするようにビクビクする。
「おーし、これでテストはラストだな。今日は6限までみっちりあるが、私の授業で寝るんじゃねぇーぞー。」
担任の獅子原先生が手を叩きながら全員を注目させる。暑いのか、上のジャケットを脱ぎ捨てて、ワイシャツを肘のあたりまで捲り上げている。クラスの気のない返事に少し不満そうだったが、話は続いて行った。
確かに、今日は特に暑いな。
自分の顎から滴り落ちる水滴に、今になって気づく。もうすぐ、衣替えの時期か。
「今週末は八尾山祭だからな、参加するやつは遅れるなよ?私は、忠告したからな?これで「知らなかった」は通じないからな。じゃあ午後も張り切って行くぞぉー。」
いつの間にかあまり盛り上がっていない獅子原先生の話は終わり、昼休憩になっていた。眠気のせいか、何もやる気が起きない。食欲もない。
俺は惰性でなんとか立ち上がると、さっさと教室を出て上へ向かった。
今日は風があまりない。窓から漏れる風を受けた瞬間の心地良さがない。俺はそんなことは気にせず、屋上の裏側を覗き込む。
「よかった、希夜香さんいたんですね。」
そこには、一人でサンドイッチを体育座りで食べている寂しそうなJKがいた。
「…。」
モゴモゴしながらこちらに視線だけをよこし、そっぽを向いた。その目は宝石みたいに綺麗だが、輝きのない冷たい目にも見えた。
「よかったです。昨日はどこ探しても見つからなかったから…。」
返答はない。しかし、目が「こっちへくるな。」と言っている。
突然鉛のように重くなった足をどうにかして動かす。一歩一歩と希夜香さんに近づく。
「昨日お弁当、用意してくれていたんですよね、すみません気が付かなくて。ここ最近眠りの調子が悪くて…。」
心臓は痛いほどに鼓動している。汗も止まらず襟元がぐっしょりと濡れている。
「今日はどうしましょうか。他にできることがあまり見つかっていなくて…。希夜香さん何かいい案とかあります?」
俺のマシンガンのような一人語りは、希夜香さんの耳に届いていないかのように一方通行で、沈黙が続いた。
「あの、希夜香さん?」
たまらず名前を呼ぶ。
俺をじっと見たまま、何も話さない希夜香さん。
「離婚よ。」
え?
俺は本当に理解できなかった。聴覚からの情報を拒否したのか、言語の理解が追いついていないのか。おそらく寝不足が原因なのは間違いない。
「それって、どういう…」
「離婚は離婚よ、わかるでしょ。」
まだ婚約をしていないので、離婚は成立しませんよ。なんて言ったら本当に殺されるだろう。
俺はどうでもいい返答の候補を捨て、最適解を考える。
「あなたにはもう見切りを付けたと言っているのよ。わかるかしら?私の期待を散々裏切ってくれたのだからこうなるのも当然よね。」
俺の記憶にはない。でも希夜香さんの中にはある、俺の不甲斐ない醜態の数々。認知できていない自分が急に恥ずかしくなる。俺は頭を掻く。
「それって、冗談ですよね?いつもの、ですよね?」
希夜香さんはサンドイッチの包装紙をクシャと握りつぶしてビニール袋に入れる。
「それじゃあね、楽しかったわ。」
冷徹な希夜香さんの言葉が耳に残る。何事もなかったように立ち上がって屋上を後にしようとする。
俺の横を通り抜けようとする彼女の髪の匂いを嗅いで、俺はめまいを感じた。
大事な予定に遅刻するような、自分ではもうどうしようもないのに気持ちだけが焦るあの感じだ。俺の嫌いな感覚。自然と手に力が入る。
咄嗟に俺は希夜香さんの腕を掴む。自分の手が冷たくなっていることに気づいたが、今はそれどころじゃない。
「待ってください希夜香さん!ちゃんと俺に弁明させてください!昨日のことは勘違いですって!」
まさか希夜香さんがそんなことを言うとは思っていなかった。頭の中では、また文句を言われて仲直りするのだろうと勝手に思っていた。
希夜香さんの腕は綺麗できめ細やかで、少し震えていた。そのすべてが触れている手から全身に伝わってくる。俺からすれば1週間、彼女からすれば16週間、お互い一緒にいることになる。この違いのせいなのか、今の希夜香さんの気持ちが、俺には完全に理解することができなかった。
彼女がなにを見て、なにを感じて、なにを考えて発した言葉なのか、俺はそれを知らなければならないんだ。
「話すことなんてないわ!」
希夜香さんは拒絶するように俺の肩を強く押し、腕から俺を引き剥がした。最初に出会ったあの時とはまるで正反対に、強く引き離される。
希夜香さんに、近づけない。
嫌だ。
俺の意思とは裏腹に、急に視界がぼやけ、重心が後ろに傾く。
次第に俺は、スイッチが切れたように全身に信号を送れなくなり、その場に倒れた。
「希夜香…さん…。」
「?!宰くん!!」
振り返った希夜香さんは反射的に、倒れた俺に手を伸ばした。
うまく動かない腕に力を振り絞って、俺は空気を掴む。
希夜香さん…。
俺の最後に見えた光景は、その場から立ち去る希夜香さんだった。
ーーーなんであんなこと言うんだよ。
ーーーなんで話を聞いてくれないんだよ。
ーーーなんでそんなに悲しそうなんだよ。
ーーーなんで、涙を流してるんだよ。
ーーーなんで、俺はいつもこうなんだよ。
遂に意識も、シャットダウンしていく。
最後までありがとうございます!
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