浮気①
読みに来てくれてありがとう!
是非最後までよろしくお願いしますm(__)
ポイントが40ptくらいいけば続編書こうかと思います!!
◇
「おーい、大丈夫かー、おさむぅー。」
遠くから聞こえてくる声で目が覚める。
あれ?
いつの間にかテストは終わって、俺の机からは答案用紙が無くなっていた。
「おい、大丈夫か宰?顔色悪いぞ?」
覗き込む田辺の顔がぼやけている。
昨日は日中に日光をたくさん浴びた影響で、身体中が暑くてなかなか寝付けず、結局色々と調べごとをしていた。いわゆる徹夜だ。
麗羅は言っていた。呪いは心の弱さを拠り所に人と適合すると。そうなると大事なのは希夜香さんの中にある気持ちの問題なのかもしれない。
でもそういう繊細な話を俺が持ち出してよいものか、わからない。なのでとりあえず自分で調べてみようと思い立ったのだ。
「JK 悩み事」「女の子 秘密」「女性 心にかかえているもの」
俺の検索ワードは絶望的にセンスが欠けていたのか、さらに繊細な検索結果が出てきた。さすがに踏み込んでは行けない領域だと思い違う検索をかけるが、俺の望む答えは得られず、そうこうしている間にめでたく二徹をかましてしまったのだ。
「あぁ、全然余裕だ。今ならどんな女の子の悩みだって聞いてあげられるぞ?」
なんか今、俺寝ぼけてキモいことを言ってなかったか?それは目の前の田辺の反応からも歴然たる事実のようだ。俺は席を立つ。
「あのさ宰、なんか最近忙しそうだけど、何かやってんの?もし俺が手伝えることあったら…」
「あぁ、大丈夫だ。気にするな。」
俺は機械的に答えて水道場へ足を運ぶ。こういう時は、キンキンに冷えた水で顔を洗い流すのが一番なのだ。
ドアの角に頭をぶつけながら、フラフラと俺は水道場を目指した。
シャー。
水が勢いよく流れる。しかし、俺の期待するほどの冷たさではなく、むしろぬるめの水だったことに少しがっかりする。
期待はずれの水を両手で掬い顔に当てる。ぬるくても眠っていた細胞は目を覚ましたようだ。
目の前の窓は少しだけ開いており、そこから流れる風が水滴のついた顔に心地よく当たる。
なんだかまだ瞼がピクピクしているが、気にならない範疇だ。今日はバイトだし、気合いを入れないとな。
エナジードリンクの購入も視野に入れているが、バイトのために何かを買うのは非常に抵抗感がある。お金を稼ぐためにお金を使うという矛盾した行為故のものだろうか。どちらにせよ買うのはバイト先のコンビニなのだから、今考える必要もない。
「ちょっと、小太刀くん。」
今日の午後のプランを立てていると、背中の方から声が聞こえてきた。振り向くと、そこには仁王立ちしたJKの姿があった。肩あたりまで伸びたショートの髪を後ろで2つに短く結んでおり、髪型はフワッと丸い形をしている。童顔で体格も少し小柄なため、中学生といっても余裕、小学生でもギリギリ通じると思う。だが、真っ白できめ細やか肌はただただ美しく見える。
「あなた、何やってるの。」
なぜか少し不機嫌気味の小柄なJKは上目遣いになりながら問いかけ、こちらに寄ってくる。その距離はどんどん縮まり、腕が接触するほどの近さまでくる。
「なにって、顔を洗っていただけだぞ…。」
なぜか睨まれる。と言っても怖さはない。なぜだろう、やはり雰囲気って大事なんだなって改めて思う。
「嘘ね。どうせ全部の蛇口を開けっ放しにして、通りかかる私に全部閉めさせようとしたんでしょ!」
なんだその可愛いイタズラは。というか水道場にいただけでなぜその発想になるんだ。俺がそんなことするやつに見えるというのか!
…。
言葉にしようとしたが、少し心当たりがあったのでやめておく。
「誤解だ結城。俺は本当に顔を洗いにきただけなんだよ。結城にちょっかいかけようなんて、毛ほども思ってないさ。」
彼女の顔は、自分の髪色ほどの薄い赤色に染まる。
「ちょっと!だから名前で呼ばないでっていつもいってるでしょ!」
彼女の名前は結城由紀。苗字と名前が似ていることから、毎回俺が下の名前を呼び捨てにしていると勘違いしている少し思い込みの激しいJKだ。ただ、面倒見のいい風紀委員兼クラス長でもあるので、俺は結構こいつのことを信頼している。
「誤解だゆーき。俺はただ苗字を読んだだけで、下の名前である”ゆき”と呼んでいる訳ではなく、苗字のゆーきと呼んでいるんだ。」
わざと区別がつかないように伸ばし棒を短く呼んでみる。結城は頭がショートしたみたいに煙を立てて、目を回して倒れそうになる。
こいつ、面白い。
「もう!からかうのはやめなさい。またほら、ネクタイも曲がってるし。」
結城が俺のゆるくなったネクタイをキツく締める。少し苦しいが悪い気はしない。というか少しドキドキする。
彼女からも優しい甘い香りがする。希夜香さんとは違って少し控えめというか、少し甘酸っぱいというか、これはベリー系の香りか?
「こんなことしてると、新婚夫婦みたいだな。」
思わず思っていたことが口から漏れる。
「な、なな!」
彼女の顔はまた赤くなる。今度はりんごくらい真っ赤だ。
やはり、こいつはちょろくて面白い。
「もう!もう!なんでいつもそんなことばっかり言ってるのよあなた。いつか絶対やり返してやるから!」
牛になりかけている結城は少し疲れたご様子。腕には「風紀委員」と書かれた腕章が付けられている。テストの後に風紀委員の仕事をしているのか、本当に精が出るというか、頑張り屋というか、ついからかいたくなる。
結城と特別仲が良いということはない。ただ、たまたま発生した会話を何度かしているうちに、こんなやりとりをするくらいにはなった。
「そういえば小太刀くん、今日テスト中に寝ていたでしょ?」
ギクッ。なぜバレている?俺は完璧に誰にもバレないよう寝ていたはず…ってその時の記憶がない。
「あなた地頭はいいんだから、もっとしっかりやりなさい。それが将来に繋がって、人生に繋がるの。今楽をしていたら、先で絶対に苦労することになるわよ。」
思い出したように話を切り替える結城、その言動と佇まいにはまさしく学級委員の名に相応しい威厳があった。まるで仙人のようだ。
そんな雰囲気を醸し出している結城だったが、やっぱり俺には怖くは見えなかった。
「ちょっと、女の子の悩みについて知りたくなってさ。」
あ、これまた失言だ。言った後に気づく。
寝不足と相手が結城ということも相まって、つい口が軽くなってしまっている。
案の定、結城は近くの女子トイレ入り口に避難し、背中を壁につける。
「なに?小太刀くん、遂に犯罪者になるの?!」
「遂にってなんだ遂にって。そんな予兆も予定もありはしないぞ。」
「じゃあなんで女の子の悩みなんて知りたがってるのよ!」
「ちょっと事情があるんだよ、本当だ。決していかがわしい目的ではないんだ。」
こっちの意思が伝わったのか、結城の警戒心は少し薄れたようだ。人間、その気になれば気持ちは伝わるものだと証明できた。俺は少し感動してしまう。
「ということで、結城の悩みはなんだ?」
薄れつつあった警戒心は逆にMAXまで上昇し、結城は女子トイレの中まで逃げ込んだ。ちょっとまだ早かったか。でも、結城の反応は何度見ても面白い。
なんか少し元気が出てきた、バイトはなんとか頑張れそうだ。俺は拳に力を入れて気合いを入れる。
「なんだか、すごく仲が良さそうだったわね。」
後ろから感じる冷気に背筋が伸びる。ゴクリと生唾を飲んでゆっくりと振り返ると、目を真っ黒にした希夜香さんが立っていた。
「き、希夜香さん!お疲れさまです。テスト、どうでした?今日はお昼、どうするんですか?そのまま、帰るんですか?」
俺は無言の空気を作るまいと、脳で生成された言葉を次から次へと放り出す。
希夜香さんの表情は変わらない、人殺しの目に見える。右手にナイフを持っているのではないかと疑ってしまうほど、その視線は鋭利で冷たかった。
俺の額からは汗が止まらない。
「帰る。」
「ちょっと!希夜香さん!」
希夜香さんは踵を返して3年の教室へ戻っていった。一度も振り返らず。
慌てていた俺は、希夜香さんがお弁当箱を2つ持っていることに、後ろ姿を見るまで気づかなかった。
あぁ、やってしまった。さすがの俺でもわかった。希夜香さんは、とんでもなく怒っていた。
ただ俺は、なにがそんなに気に障ったのかよくわからない。今、話し合っておかないと。
でも、呼び止める言葉は出てこなかった。
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