神社巡りデート②
読みに来てくれてありがとう!
是非最後までよろしくお願いしますm(__)
ポイントが40ptくらいいけば続編書こうかと思います!!
◇
「とりあえずこれで全部かしら?」
「えぇ…そう…ですね…。」
俺は必死に自転車を漕ぎながら答える。荷台には1つ年上の先輩を乗せて、神社巡りデートとでも言おうか。
高校生男子なら一度は夢見る彼女との2人乗りであるが、特に気温の高い本日の空模様が、そんな幻想をぶち壊す。
俺は額の汗を拭う。背中に回される腕はとにかく華奢で柔らかく、感触をいつまでも楽しんでいたいと最初は思ったが、次第に暑苦しく感じてきている。あと、どれくらい漕げばいいんだ?
計6つの神社を回った挙句、俺の所持金12539円全額がパンドラの箱へと姿を消して行った。
この幻想、早く覚めたい…。
「先輩の…家は…どっち…ですか…?」
切れ切れの息の中、俺は後ろの先輩に問いかける。
「いや、いいわ。あなたのうちに行きましょう。あなたも疲れているし、その方がいいでしょう?」
そうしてもらえると助かる。俺はあまり深く考えずに頷き承諾をする。
でもその前に、
「一旦…どこかに…寄っても…いいですか…?」
このまま自宅まで帰れるとは到底思えない。せめて20分休まないと。
なぜか自転車を漕いでいるとずっと向かい風に感じるのはなぜなのだろう。今はそれがただただ憎らしい。
「ええ。じゃああの公園にしましょうか。」
疲れ切った俺に考える脳のリソースは残っていない。
とにかく…休みたい。み、水。
中間地点のできた俺は最後の気力で希夜香さんの指差す小さな公園までなんとか辿り着いた。
◇
「何か、飲み物でも買ってきたら?」
ベンチで横になる俺に、隣のベンチの希夜香さんは提案する。その視線の先には公園で無邪気に遊ぶ子どもの姿があった。
「いや、お金は使い果たしたんで。希夜香さんのために。」
俺は若干口元を引きつらせつつ、無理やり笑顔を作った。
彼女はこちらへ振り向き不敵な笑みを浮かべつつ、俺のポケットにある財布へ手を伸ばす。俺も少しは抵抗するが、相当な疲弊と寝不足というハンディキャップのある俺に力勝負で勝てる見込みなんてなかった。というか万全の状態でも希夜香さんに勝てる自信はない。
横になっている人間の財布を取り上げるのはカツアゲだと思うんだ、俺は。あっさり財布を巻き上げられる。
「嘘はいけないわ宰くん。」
俺は自分の終わりを察する。希夜香さんは俺の財布を逆さまにする。すると、100円玉が1枚と10円玉が2枚、希夜香さんの手のひらに転がり落ちる。
「そ、それは…。」
ダメだ。弁明する余地も元気もない。というかこの人鬼だ、どSだ。
彼女は俺を見下ろしながら再度微笑みかける。水分不足で目が少し霞んでいるが、今度は含みのない、純粋な優しい笑顔に見えた。幻想かもしれん。
「冗談よ。水でいいかしら?」
「あ、はい。」
踵を返した希夜香さんは、近くの自販機まで小走りで向かっていった。ブレザーにふわりと揺れるスカートの彼女の制服姿が、横たわっている俺には絶景に見えた。
あぁ。これは、あれだ。不良が捨て犬を助けるやつと同じだ。普段とギャップのある行動をすることで、その行動をより印象付けられる、あれだ。だって今俺、希夜香さんのことが神に見えてしまっているもん。
「はい宰くん、どうぞ。」
周りに水滴のついたペットボトルを、俺の前に差し出す。
「あ、ありがとうございます。」
媚薬とか入れてないかを確認する余裕は俺にない。勢いよくキャップを開けて喉に水分を流し込む。
「ゴホッ!」
水が気管に入り、思わず咽せる。希夜香さんが背中をさすってくれる。
3度咳き込んで深呼吸をしたらなんとか復活した。
「大丈夫そう?」
希夜香さんの心配を頷きで返しながら、2口目の水を飲んでいた。まだまだ失った水分量を取り戻せてはいない。
それと同時に、希夜香さんは所持金が0になった俺の財布を渡してくる。
希夜香さんは、また笑っていた。
あっという間に空になったペットボトルを捨て、30分ほど子どもたちを眺めながら休憩を取った。
希夜香さんが膝枕をしてくれると言ってくれてテンションが上がったが、あまりに大量の汗をかいた俺の体に触れさせるのは抵抗があったので、またの機会にお願いした。
とりあえずシャワーを浴びたい。その後にお願いするか。
「じゃあ、今日はここで解散にしましょう。実は私の家はここからかなり近いの。歩いて帰れるわ。」
あれ?
俺の夢はまた後日になってしまったようだ。特に家に呼ぶ用もないし、「膝枕をしにきてください」とは言えない。別料金がかかりそうだ。
これ以上の出費はごめんだ。
「そうですか、わかりました。じゃあまた明日ですかね。」
気が付けば子ども達が家に帰り始めていた。約3時間半の神社巡り、俺はよく頑張った。
「そうねまた明日。」
意外とあっさりした別れ言葉。少し拍子抜けする。
それと同時に、暑さで忘れていた事を思い出した。
「あ、希夜香さん!これ。」
俺はひっそりと買っていた青色の御守りを鞄から取り出し、希夜香さんの目の前まで行き差し出す。お守りには”厄除御守”と記されている。
「これ、私に?」
「はい、効果があるかはわかりませんけど、やれることはやっておいた方がいいと思いまして。こっそり買っておきました。」
御守りを売っている神社がなくて焦っていたが、5つ目の神社でようやく売っているのを確認し、持ち金ギリギリで買ったのだ。あぁ、今日もお金おろしにいかないとな…。
「ありがと、嬉しいわ。でも…」
彼女が鞄から取り出したのは、同じ種類の御守りだった。
ヒ、フ、ミ…。
しかも15個。俺が渡したので16個目だ。柄も刻まれた文字も同一のもので、紛れもなくあの神社で売られていた御守りだ。
「え、なんで?希夜香さんそんなに買ってたんですか?」
俺がこっそり買っていた裏で、希夜香さんも自分で買っていたというのか。しかも大量に。
御守りって、多ければ多いほど良いとかあるのかな。逆に神様から強欲認定されないか?
「違うわ、これ全部あなたが買ってくれたものよ。今回も同じものを…フフッ。」
希夜香さんは手で口元を隠しているが、口角がゆるんでいるところまでは隠し切れていない。
ということは…、
「もしかして俺と希夜香さん、毎週神社に行ってたりします?そして、毎回同じ御守りを買っているとか…。」
「そうね。それにしても毎回同じ御守りを買ってくるんだから、あの神社の方も不思議がっているんじゃないかしら。」
俺の予想は的中したようだ。確かに、毎週同じ御守りを買う人なんて普通いないよな。変な宗教だと勘違いされてなければいいが…。
「もう勘違いしないように、鞄の外に付けておいて下さいよ。」
「そうね、そうするわ。」
軽い約束を交わすと、彼女は後ろへ振り返り、肩越しに手を振ってきた。
「じゃあまたね、宰くん。」
手を振り返しながら、俺は彼女を見送った。
彼女の背中が、見えなくなるまで。
◇
さすがに疲れた。
日中確認していなかった携帯の通知を見てみる。
1件の通知。宛先は田辺。仕方ないから見てやる。
『今日も集まれない?麗羅の暴走が止められないーーー。』
今日も仲が良さそうで何よりだ。時間をみると通知は1時間前のものだった。
『よろしくやってろ。ちょっと今日は行けそうにない。』
駐輪場で横たわりたい気持ちを抑えて、なんとかエレベーターまで辿り着く。
というか、毎週神社に行っているんじゃ効果がないことの証明になっているのではないか?じゃあ今日の俺の苦労とはいったい…。
エレベーターの中で、だんだん頭が回り始めた俺はふとそんな疑問を抱く。
希夜香さんめ、性格が悪い。
体力は奪われ、所持金も0になってしまった。明日の朝にでもまたお金を…ってあれ?
使われたはずの120円が残っている?っていやいや、それどころじゃないぞ。札入れには覚えのない2万円まで入っているではないか。
俺、暑さでやられて誰かからお金盗んできたんじゃないだろうな。
無意識な窃盗をしたのではないかという疑いを自分自身にもっていると、札入れにもう一枚紙切れが入っていることに気づく。
ーーー今日はありがと。お姉さんからのお小遣いよ。愛されている希夜香
「ふっ。」
俺は玄関の扉を開けて元気よく「ただいま!」と言った。
最後までありがとうございます!
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