番士の仕事2 ~阿蘭陀人たちが、遠歩から帰ってきたようです~
出島の外で食べ過ぎて、体形が変わったわけではない。それぞれ服の中に、外から拾ってきた物を、とにかくたくさん詰め込んでいた。
例えば、書記官スヒンメルが籠を下りようとして屈むと、上着から、木の実がぽろぽろと零れ落ちた。阿蘭陀料理人の、裾の窄まった袴は、小石や何か入っているらしく、半分以上ずり下がっていて、歩くたびにチャリチャリと音がした。
しかし、彼らの持ち物について、とやかく言う物は一人もいない。
本来なら、阿蘭陀人が、日本のものを出島に持ち込むのは、許されざる行為だ。とはいえ、このような些細な物を持ち帰る場合、大方は、目を瞑る。
阿蘭陀から日本にやってくる時でさえ、彼らは自分の荷物のほかに、個人資産としての荷物を、こうして服の中に隠して入国し、それを個人的な取引に使う。
その中でもいちばん堂々と出島に物を持ち込んでいたのは、副商館長のブロンホフだった。
首元から覗いているのは、どこでそれを得たのか、金属の、大型の道具だった。その大きさゆえ、首元からも、着物の下からもはみ出ている。
ブロンホフが俺の前に立つ。形式通りに名を尋ねている際、目の端で何かが動き、俺はちらりと橋の右端を見た。
椅子などを載せた大八車が、橋の向こうへ通り過ぎていく。不用品の回収らしい。俺はふと訝しむ。この人が混みあっている時分に、わざわざごみを捨てる必用もなかろうと思った。
その時、なにか固いものが、ブロンホフの上着から落ち、カランと鳴った。俺とブロンホフの間に、曲尺が落ちていた。
俺は咄嗟に、そこから眼を逸らす。俺が曲尺を手に取ってしまえば、業務上、俺は曲尺を没収しなければならなくなる。
しかし、ブロンホフは此方をじろりと睨めつけるだけで、自ら曲尺を拾おうとはしない。
お前が拾え、という態度だ。
その時、薄鼠色の羽織を着た通詞が一人、此方に早足でやってきた。年の頃は、俺と同じくらいで、名は確か、神谷勘解由藤馬といったはずだ。
藤馬は吊り気味の眉をついと上げ、俺に笑顔を見せた。大きな垂れ目に、栗色の総髪も相まって、どこか異国を思わせる顔立ちだ。
藤馬はブロンホフの曲尺をさっと拾い、自分の懐に入れる。
「失礼した。さ、副商館長殿、此方です」
ブロンホフは軽く頷き、尊大な態度のまま、藤馬と出島の中へと戻って行った。