表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/11

番士の仕事2 ~阿蘭陀人たちが、遠歩から帰ってきたようです~

 出島の外で食べ過ぎて、体形が変わったわけではない。それぞれ服の中に、外から拾ってきた物を、とにかくたくさん詰め込んでいた。

 例えば、書記官スヒンメルが籠を下りようとして屈むと、上着から、木の実がぽろぽろと零れ落ちた。阿蘭陀料理人の、裾の窄まった袴は、小石や何か入っているらしく、半分以上ずり下がっていて、歩くたびにチャリチャリと音がした。

 しかし、彼らの持ち物について、とやかく言う物は一人もいない。

 本来なら、阿蘭陀人が、日本のものを出島に持ち込むのは、許されざる行為だ。とはいえ、このような些細な物を持ち帰る場合、大方は、目を瞑る。

 阿蘭陀から日本にやってくる時でさえ、彼らは自分の荷物のほかに、個人資産としての荷物を、こうして服の中に隠して入国し、それを個人的な取引に使う。

 その中でもいちばん堂々と出島に物を持ち込んでいたのは、副商館長のブロンホフだった。

 首元から覗いているのは、どこでそれを得たのか、金属の、大型の道具だった。その大きさゆえ、首元からも、着物の下からもはみ出ている。

 ブロンホフが俺の前に立つ。形式通りに名を尋ねている際、目の端で何かが動き、俺はちらりと橋の右端を見た。

椅子などを載せた大八車が、橋の向こうへ通り過ぎていく。不用品の回収らしい。俺はふと訝しむ。この人が混みあっている時分に、わざわざごみを捨てる必用もなかろうと思った。

 その時、なにか固いものが、ブロンホフの上着から落ち、カランと鳴った。俺とブロンホフの間に、曲尺が落ちていた。

 俺は咄嗟に、そこから眼を逸らす。俺が曲尺を手に取ってしまえば、業務上、俺は曲尺を没収しなければならなくなる。

 しかし、ブロンホフは此方をじろりと睨めつけるだけで、自ら曲尺を拾おうとはしない。

お前が拾え、という態度だ。

 その時、薄鼠色の羽織を着た通詞が一人、此方に早足でやってきた。年の頃は、俺と同じくらいで、名は確か、神谷勘解由藤馬かみやかげゆとうまといったはずだ。

 藤馬は吊り気味の眉をついと上げ、俺に笑顔を見せた。大きな垂れ目に、栗色の総髪も相まって、どこか異国を思わせる顔立ちだ。

 藤馬はブロンホフの曲尺をさっと拾い、自分の懐に入れる。

「失礼した。さ、副商館長殿、此方です」

 ブロンホフは軽く頷き、尊大な態度のまま、藤馬と出島の中へと戻って行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ