9 思い出のお菓子
街について、シャルロッテの好きなお菓子を買うために菓子屋に入った。マフィンやクッキー、色とりどりのマカロンを見てアベリアは思わず目を輝かせる。フェイズは目が合わなければアベリアのことはいくらでも見ることができるので、アベリアの表情を見てつい口元が緩む。
「シャルロッテが好きなお菓子は多めに買おう。君もシャルロッテと一緒に食べればいい」
「良いのですか?嬉しい!どれもこれも美味しそうですね」
そう言いながら、ふとアベリアは店頭に並ぶひとつのお菓子に気づいて近寄っていく。それは棒状になったクッキー生地にアーモンドが散りばめられてメープルシロップでコーティングされたお菓子だった。
「懐かしい……」
そう言って、包装されたそのお菓子を見つめながらアベリアは少しだけ悲しそうに微笑んでいた。
「それは、何か思い入れのあるものなのか?」
「イザベラが生まれる前に、私が好きでよく両親に買ってもらっていたお菓子なんです。お菓子屋さんに行くといつも買ってくれて……」
「そう、なのか」
「……そんなことより、シャルロッテ様に早くお菓子を買って帰らないとですね」
一瞬見せた悲しげな表情を隠し、アベリアはフワッと優しい微笑みを向ける。一瞬目があってドキッとするが、フェイズは何かが気になってアベリアから視線を逸らせなかった。
「フェイズ様?」
「あ、ああ。そうだな、早く買って帰ろう」
シャルロッテの好きなお菓子をいそいそと買い物カゴに乗せ始めたアベリアを見ながら、フェイズは顎に手を当てて考え込んでいた。
◇
「ああ〜美味しい!ね、お姉さまもそう思うでしょう?」
シャルロッテはお気に入りのお菓子を食べながら嬉しそうにしている。
「おい、口に食べ物を入れたまま話をするな」
フェイズが注意すると、アベリアはそれを見てくすくすと楽しそうに笑った。そんな二人を見ながら、シャルロッテはニヤニヤしている。
「お二人、少しは距離が縮んだように見えますね!私のおかげですね、お兄さま、褒めて褒めて!」
「ああ、うるさいな、わかった。お前のおかげだよ、ありがとうな」
手をひらひらさせてフェイズが苦笑しながらそう言うと、シャルロッテは満足げだ。
「そういえば、これ」
そう言って、フェイズは紙袋からひとつのお菓子をアベリアに差し出した。
「……!」
「好きなんだろう。妹が生まれてからは苦い思い出になっているのかもしれないけど、ここで俺たちと一緒に食べれば、楽しい思い出に変換される。お菓子に罪はないんだ、良い思い出だけ残せばいい」
目を逸らしながら少しぶっきらぼうに言うフェイズからアベリアはお菓子を受け取って、大事そうにお菓子を見つめる。
「気にかけてくださったんですね。嬉しい!」
「話が見えないけど、とっても美味しそう!私も一緒に食べたい!」
「お前の分もちゃんとあるから安心しろ」
そう言って、フェイズは紙袋からシャルロッテにお菓子を差し出す。そして自分の分もとってさっさとお菓子を食べ始めた。
「お、うまいなこれ」
「先に食べるなんてずるいわお兄さま!……あ、本当だ美味しい!」
フェイズとシャルロッテの様子を嬉しそうに眺めながら、アベリアは大事に握っていたお菓子の包装をとり、口に入れてまた嬉しそうに微笑んだ。