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2 出会い

(さっきここへ来たばかりだから、まだ表に馬車がいるはずよね。申し訳ないけれど先に帰らせてもらいましょう)


 アベリアは広間を出て廊下を歩いていた。すると、前方に誰かがうずくまっている。どうしたのだろうと近づくと、見知らぬご令嬢がしゃがみ込んでいた。


「どうかなさいましたか?」


 アベリアが声をかけると、うずくまっていた令嬢が驚いて振りかえる。その令嬢は緩くウェーブのかかった銀髪を靡かせ、アメジスト色のキラキラした瞳をアベリアへ向けた。


(まぁ!なんて可愛らしい方なのかしら。でも、青ざめているわ、具合でも悪いのかしら)


「あ、あの、なんだか気持ち悪くて……」

「まあ、それは大変だわ。どこか休める場所までご一緒しましょう。立てますか?」


 アベリアが尋ねると、令嬢は弱々しく頷いた。アベリアが令嬢の体を支えながら立ち上がると、ちょうど屋敷のメイドが近くを通りかかった。


「すみません、この方がどうやら具合がすぐれないようなので、休める場所まで案内して差し上げてくれませんか」


 メイドはアベリアの顔を見てヒッ!と怯える。さらに、アベリアの横にいる令嬢の顔を見て、今度は渋い顔をしてから驚くべき言葉を口にした。


「申し訳ありません。忙しいのでできかねます」

「……忙しいのに大変申し訳ないのだけれど、それでも具合の悪いお客様がいたら然るべき対応をするのがあなたたちの仕事ではないのですか?」


 アベリアが少しだけ怒気のはらんだ声でそう言うと、メイドは怯えた表情を見せるが、それでもやはりダメだった。


「いえ、でもその方は……」


 一体、なんだというのだろう。アベリアが不思議そうな顔でメイドを見つめていると、隣にいたご令嬢が弱々しい声で言う。


「私が、精霊公爵の妹だから、ですよね。……いいんです、一人でも大丈夫ですので。すみません」


 精霊公爵というフレーズは聞いたことがある。代々精霊と契約し、その力を国のために奮ってきた家柄だ。冷酷非道で気に入らない相手は容赦なく潰すという恐ろしい噂もある。だが、あまり表には姿を見せることがなく実際は謎に包まれており、それゆえ恐れられ、誰も関わろうとはしなかった。


「どこのどなたか存じませんが、私に関わるとあなたにまでご迷惑がかかってしまいます。私は大丈夫です。本当にありがとうございました」


 小さな声でアベリアへそういうと、精霊公爵の妹は静かに微笑んだ。


(そんな、そんなことでこんなにも可愛らしく弱々しいご令嬢がひどい扱いを受けなければいけないの?)


 アベリアは話を聞きながら内心ムカムカと腹立たしい思いをしていた。そして、精霊公爵の妹の両肩をしっかりと支えると、メイドへ厳しい視線を向ける。


「精霊公爵の妹君だからと言ってこのような対応をするのは、あなたの主も同じなのでしょうか?あなたの主は、そうするようにとあなたへ教えているのですか?」

「そ、そんなことは……」


 アベリアの問いに、メイドが口をつぐむ。


「まだこの方にこのような対応をするというのであれば、私は然るべき手段をとってあなたの主へ抗議します。私にまつわる噂がどんなものか、ご存知ですよね?」


 気に入らないメイドはいびり倒すという噂を示唆すると、メイドは怯えながら渋々と精霊公爵の妹へ手を差し出した。それを見て、アベリアは精霊公爵の妹へ視線を戻す。


「私は、アベリア・ライラットと申します。もし、私がいなくなった後でまたひどい扱いを受けるようであれば、いつでもいいので私へご連絡ください。然るべき措置を取りますので」


 そう言って微笑むと、精霊公爵の妹はアメジスト色の綺麗な瞳をキラキラさせてアベリアを見つめる。


「ど、どうしてここまでしてくださるのですか?」

「……私は曲がったことが大嫌いなのです。それだけですわ」


 ドレスの裾をつまみふわりと持ち上げてお辞儀をすると、アベリアは颯爽とその場を後にした。その後ろ姿を見つめながら、精霊公爵の妹はポツリと呟く。


「なんて素敵な方……」




(思ったより時間がかかってしまったけれど、あれは見過ごすわけにはいかなかったもの。仕方ないわよね)


 ドンッ


 急足で廊下を歩いていると、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。


「も、申し訳ありません……」


 おでこに手を当てながら見上げると、そこには美しい銀髪にサファイア色の瞳をもつ見目麗しい御仁がいた。どこかの令息だろうか、上質な礼服を身に纏っている。


(なんて、美しい人なのかしら……!)


 驚いて見惚れていると、その令息はアベリアを見下ろしながら口を開く。


「すみません、急いでいるもので。失礼」


 そう言って、曲がり角を曲がり消えていった。





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