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幽霊の口座!?流太郎、不思議な依頼に直面

真夏の陽射しが照りつける中、コンビニの自動ドアが開いた。入ってきたのは、汗だくの出払でばらい 加度かどだった。


「ただいま戻りました〜」出払くんは疲れた様子で声を上げた。


「お帰りなさい」流太郎が画面に表示する。「暑そうですね」


出払くんは首の汗を拭きながら苦笑いした。「ええ、外は地獄です。流太郎さんが羨ましいですよ」


流太郎は少し考え込んだ。確かに、暑さや寒さを感じない今の状態には利点もある。しかし、人間としての感覚を失ったことへの寂しさも消えない。


その時、店内のベルが鳴り、一人の老紳士が入ってきた。


「いらっしゃいませ」前田まえだ 預子あずこが明るく挨拶をした。


老紳士はゆっくりと流太郎の前まで歩いてきた。その姿には、どこか儚さが漂っている。


「あの、すみません」老紳士が小さな声で話しかけてきた。「口座残高を確認したいのですが」


「はい、かしこまりました」流太郎は丁寧に応対した。


老紳士がカードを挿入し、暗証番号を入力する。しかし、画面にはエラーメッセージが表示された。


「あれ?おかしいな」老紳士は困惑した様子で呟いた。


流太郎は内部システムをチェックした。そして、驚くべき事実に気がついた。この口座は、すでに解約済みになっているのだ。


「申し訳ございません。この口座は...」流太郎は言葉を選びながら表示した。「現在、ご利用いただけない状態になっております」


老紳士は愕然とした表情を浮かべた。「そんな...私の貯金が...」


その瞬間、老紳士の姿がぼやけ始めた。流太郎は驚愕した。老紳士の体が、徐々に透明になっていくのだ。


「おじいさん!?」預子が駆け寄ろうとしたが、老紳士の姿はすでに消えていた。


店内は一瞬、静寂に包まれた。


「な...何が起きたんだ?」出払くんが震える声で言った。


流太郎も混乱していた。これまで様々な不思議な出来事を経験してきたが、人が消えるのは初めてだった。


その夜、店が閉まった後、いつものように貸借たいしゃく 均衡きんこうが現れた。


「やあ、流太郎くん。今日は大変だったようだね」


流太郎は急いで尋ねた。「貸借さん、あれは一体...」


貸借は深刻な表情で答えた。「あれは『幽霊口座』の所有者だ」


「幽霊口座?」


「そう。この世を去った人の口座のことだよ。本来なら、相続人に引き継がれるか、解約されるはずなんだ。でも、時々...忘れ去られる口座がある」


流太郎は驚いた。「では、あのおじいさんは...」


「ああ、もうこの世にいない人だ。でも、心残りがあって完全に旅立てないでいる」


流太郎は考え込んだ。「僕に何かできることはありますか?」


貸借は優しく微笑んだ。「君には特別な力がある。人の心を見抜き、本当に必要な助けを提供する力だ。その力を使えば、きっと何かできるはずだ」


流太郎は決意を固めた。「わかりました。やってみます」


翌日、流太郎は通常業務をこなしながらも、常に気を配っていた。そして、夕方近く、再びあの老紳士が現れた。


「こんにちは」流太郎が声をかけた。


老紳士は少し驚いた様子で流太郎を見た。「あ、はい...こんにちは」


「どうされましたか?」


老紳士は悲しそうな表情で答えた。「私の貯金が...孫のためにとっておいた貯金が消えてしまって...」


流太郎は老紳士の言葉に耳を傾けながら、内部システムで情報を検索した。そして、ある事実を発見した。


「お客様、あなたの口座は確かに解約されています。しかし、その資金は別の口座に移されているようです」


老紳士は驚いた。「え?本当ですか?」


流太郎は続けた。「はい。おそらく、ご家族が手続きをされたのだと思います。口座名義は...」


流太郎は画面に名前を表示した。老紳士の目に涙が浮かんだ。


「そうか...あの子が...」


老紳士の姿が再びぼやけ始めた。しかし今回は、その表情に安堵の色が浮かんでいた。


「ありがとう」老紳士の声が響いた。「これで安心して...」


そう言って、老紳士の姿は光に包まれ、消えていった。


店内にいた出払くんと預子は、驚きと感動で言葉を失っていた。


その夜、貸借が再び現れた。


「よくやったな、流太郎くん」


流太郎は少し照れくさそうに答えた。「いえ、僕はただ...」


貸借は優しく言った。「君の行動が、一つの魂を救ったんだ。これが君の力なんだよ」


流太郎は考え込んだ。自分にはまだわからないことがたくさんある。なぜATMに転生したのか、この力の本当の意味は何なのか。しかし、一つだけ確かなことがある。


「僕には、人を助ける力がある」


貸借はうなずいた。「そうだ。そしてその力は、これからもっと大きくなっていく。準備はいいかい?」


流太郎は決意を新たにした。「はい、どんなことが起きても、精一杯頑張ります」


貸借は満足そうに微笑んだ。「よし、じゃあ次は...」


その言葉の途中で、貸借の姿が消えた。しかし流太郎は、これが終わりではなく、新たな始まりだということを感じていた。


翌朝、コンビニに入ってきた出払くんと預子は、いつもより明るい表情で流太郎に挨拶をした。


「おはようございます、流太郎さん!」


流太郎は画面に大きな笑顔のマークを表示した。「おはようございます。今日も一日、頑張りましょう」


コンビニの中に、希望に満ちた空気が流れていた。流太郎の新たな冒険は、まだまだ続いていく。

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