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謎の少女の願い!流太郎、決断の時

雨の音が、コンビニの屋根を叩いていた。梅雨の季節、じめじめとした空気が店内にも漂う。流太郎は、そんな天候に左右されない自分の状況を、少し羨ましく思った。


「あー、もう嫌になっちゃう」


前田まえだ 預子あずこが、髪の毛をタオルで拭きながら店内に入ってきた。


「大丈夫ですか?」流太郎が画面に表示する。


預子は流太郎の方を向いて微笑んだ。「ありがとう、流太郎さん。大丈夫よ。ただ、この雨には参っちゃうわ」


そのとき、店の自動ドアが開き、小さな少女が駆け込んできた。


「いらっしゃいませ」預子が声をかける。


少女は息を切らしていた。服はびしょ濡れで、顔には涙の跡が残っている。


「お、お金...」少女は震える声で言った。「お金を下ろしたいんです」


預子は少し困惑した表情を浮かべた。「えっと、ATMはあそこよ。でも、大丈夫?何かあったの?」


少女は首を横に振り、流太郎の前に立った。小さな手でカードを取り出し、挿入口に入れる。


流太郎は少女の様子が気になった。明らかに何か深刻な問題を抱えているようだ。


「いくら引き出しますか?」流太郎が表示する。


少女は小さな声で答えた。「全部...全部お願いします」


流太郎は驚いた。口座の残高を確認すると、かなりの額が入っている。これは明らかに子供の小遣いではない。


「本当に全額でよろしいですか?」流太郎は確認のメッセージを出した。


少女は小さく頷いた。その目には決意の色が浮かんでいる。


流太郎は迷った。この状況は明らかに異常だ。しかし、取引を中止する理由もない。


「流太郎さん」突然、貸借たいしゃく 均衡きんこうの声が聞こえた。周りを見回すと、貸借の姿はどこにもない。声だけが流太郎の中に響いている。


「この子を助けてあげなさい」


流太郎は決心した。「申し訳ありません。システムの不具合により、現在取引を行うことができません」


少女は愕然とした表情を浮かべた。「そん...な...」


預子が少女に近づいた。「どうしたの?何かあったの?」


少女は突然、泣き崩れた。「お父さんが...お父さんが借金取りに追われてて...」


預子は少女を優しく抱きしめた。「大丈夫よ。一緒に考えましょう」


流太郎は、自分の判断が正しかったことを確信した。


その夜、店が閉まった後、貸借が現れた。


「よく判断したな、流太郎くん」


流太郎は尋ねた。「あの子は大丈夫なんでしょうか」


貸借は穏やかな表情で答えた。「ああ、警察と児童相談所が動いてくれた。あの子のお父さんも保護されたそうだ」


流太郎はホッとした。「でも、僕には本当に人を助ける力があるんでしょうか」


貸借は真剣な表情になった。「流太郎くん、君には特別な力がある。お金を生み出す力だけじゃない。人の心を見抜く力もある」


「人の心を...見抜く?」


「そうだ。君は単なるATMじゃない。人の気持ちを理解し、本当に必要な助けを提供できる存在なんだ」


流太郎は考え込んだ。確かに、これまでも困っている人を助けてきた。でも、それは本当に正しいことだったのか。


「でも、僕がお金を生み出したら、インフレが起きたり...」


貸借は首を横に振った。「そうじゃない。君の力は、既にある価値を正しく配分する力なんだ。新しい価値を不当に作り出すんじゃなく、本当に必要な人に必要な分だけを届ける。それが君の役割だ」


流太郎は少し自信を持った。「そうか...僕には、そんな大切な役割があるんだ」


貸借はうなずいた。「そうだ。しかし、気をつけなければならないこともある。君の力を狙う者たちがいる。『闇金融団』はその一つに過ぎない」


「他にも...いるんですか?」


「ああ、世の中には金儲けのためなら手段を選ばない輩がたくさんいる。君は彼らの格好の標的になるかもしれない」


流太郎は身が引き締まる思いだった。「わかりました。もっと気をつけます」


貸借は優しく微笑んだ。「心配するな。君には味方もいる。出払くんや預子さん、そして私もだ」


その言葉に、流太郎は勇気づけられた。


翌日、コンビニには警察官が訪れた。


「昨日の少女の件で来ました」警察官が出払でばらい 加度かどに告げる。


出払くんは流太郎の前に立ち、警察官に説明を始めた。「はい、このATMが不正取引を検知して、取引を止めたんです」


警察官は感心した様子で流太郎を見た。「へぇ、すごいATMですね」


流太郎は内心、ちょっとした誇らしさを感じていた。


その後、預子が流太郎に近づいてきた。


「流太郎さん、本当にありがとう。あの子、無事だったそうよ」


流太郎は「よかったです」と表示した。


預子は続けた。「流太郎さんって、本当に特別ね。困ってる人を助けられて...私も見習わなきゃ」


その言葉に、流太郎は決意を新たにした。自分には大切な役割がある。人々を助け、正しい形で価値を届ける。それが自分の使命なのだ。


その日の終わり、流太郎は静かに考えていた。ATMに転生した理由はまだわからない。でも、この状況で自分にできることは見えてきた。


「よし、明日からもっと頑張ろう」


流太郎は画面に小さな星マークを表示した。それは、彼の新たな決意の象徴だった。


雨は依然として降り続いていたが、流太郎の心の中は晴れわたっていた。彼の新たな冒険は、まだ始まったばかり。これからどんな出会いが、どんな試練が待っているのか。


流太郎は、その全てを受け入れる覚悟ができていた。

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