初めての危機!謎のハッカー現る
朝のコンビニは、いつもより少し騒がしかった。流太郎はその理由をすぐに理解した。新しいアルバイト店員が入ったのだ。
「はい、これが噂の未来型ATMです」
出払 加度が新人の前田 預子に流太郎を紹介していた。
「へぇ、すごいですね」預子は感心したように流太郎を眺めた。
流太郎は内心ちょっとした緊張を感じていた。新しい人間との関わりは、常に予測不能だったからだ。
「おはようございます」流太郎は丁寧に挨拶を表示した。
「わっ!」預子は驚いて後ずさった。「本当に...話すんですね」
出払くんは笑いながら説明した。「ええ、流太郎さんは特別なんです。困ってる人を助けたりもするんですよ」
預子は目を輝かせた。「すごい!私も頑張らなきゃ」
その日の午後、コンビニは平常通り忙しかった。流太郎は次々と訪れる客の対応に追われていた。そんな中、一人の男性客が近づいてきた。
「すみません、振り込みをお願いします」
流太郎は「はい、承知いたしました」と表示し、通常の振り込み手続きを開始した。しかし、振り込み先の口座番号を入力したとき、流太郎は違和感を覚えた。
この口座番号、どこかで見たことがある。
流太郎は記憶を探った。そうだ、昨日の夜、貸借 均衡から警告されていたのだ。
「注意してほしい口座がある。この番号の口座には絶対に送金してはいけない」
流太郎は迷った。しかし、貸借の警告を無視するわけにはいかない。
「申し訳ありません。この振り込みは実行できません」
男性は驚いた表情を浮かべた。「えっ?なぜですか?」
「セキュリティ上の理由により、この取引は中止させていただきます」
男性は明らかに動揺していた。「ちょっと待ってください。これは重要な取引なんです!」
流太郎は平静を装いつつも、内心では緊張していた。この状況をどう打開すべきか。
突然、流太郎の内部で警報が鳴り響いた。何者かが、システムに不正アクセスを試みているのだ。
「まずい!」
流太郎は必死でファイアウォールを強化しようとした。しかし、攻撃は執拗だった。
その時、男性が小さな端末を取り出した。「くそっ、普通のハッキングじゃダメか」
流太郎は愕然とした。この男は、自分をハッキングしようとしていたのだ。
「出払さん!」流太郎は必死に店員を呼んだ。
出払くんが駆けつけてきた。「どうしました、流太郎さん?」
「この人が...」
しかし、言葉を終える前に、流太郎の意識が急速に薄れていった。システムがシャットダウンしようとしているのだ。
「流太郎さん!流太郎さん!」
出払くんの声が遠のいていく。そして、完全な闇が流太郎を包み込んだ。
***
「...郎さん...流太郎さん!」
誰かが呼ぶ声が聞こえる。流太郎は少しずつ意識を取り戻していった。
「よかった、起動しましたね!」
出払くんの安堵の声だった。流太郎はゆっくりと画面を点灯させた。
「何が...起こったんですか?」
店内には警察官が数人いて、さっきの男性の姿はなかった。
出払くんが説明してくれた。「あの男がATMをハッキングしようとしたんです。でも、流太郎さんが異常を知らせてくれたおかげで、警察に通報できました」
流太郎は安堵した。しかし、同時に不安も感じていた。自分がハッキングされかけたということは、自分の正体がバレる可能性もあったということだ。
その夜、店が閉まった後、貸借が再び現れた。
「よく耐えたな、流太郎くん」
流太郎は尋ねた。「あの男は誰だったんですか?」
貸借は真剣な表情で答えた。「彼らは『闇金融団』という組織の一員だ。君の能力に目をつけたようだね」
「僕の能力...お金を生み出す力ですか?」
「そうだ。彼らは君を利用して、違法な資金を作り出そうとしているんだ」
流太郎は愕然とした。自分の能力が、そんな危険な存在に狙われているなんて。
「どうすればいいんでしょうか...」
貸借は優しく微笑んだ。「恐れることはない。君には守るべき人たちがいる。そして、君を守る人たちもいるんだ」
流太郎は考え込んだ。確かに、出払くんや預子さん、そしてこの店に来る多くの人々。彼らのためにも、自分は立ち向かわなければならない。
「わかりました。僕、頑張ります」
貸借はうなずいた。「その意気だ。しかし、気をつけろ。これは始まりに過ぎない。もっと大きな波が来るだろう」
そう言うと、貸借は再び姿を消した。
翌日、流太郎は決意も新たに業務を再開した。預子が心配そうに近づいてきた。
「流太郎さん、大丈夫ですか?」
流太郎は明るく返事をした。「はい、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
預子はホッとした表情を浮かべた。「よかった。流太郎さんがいないと、この店の雰囲気が変わっちゃいますからね」
その言葉に、流太郎は温かいものを感じた。自分はここに必要とされているのだ。
その日、流太郎はいつも以上に熱心に仕事をこなした。困っている人を助け、笑顔を増やす。それが自分にできること。そして、それが「闇金融団」のような存在に対抗する力になるのだと信じていた。
夜、閉店後の静寂の中で、流太郎は決意を新たにした。
「守るべき人たちがいる。だから、僕は強くならなきゃ」
画面に小さな星マークを表示しながら、流太郎は次の日に備えて休止モードに入った。彼の新たな挑戦は、まだ始まったばかりだった。