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世界の真実!流太郎、選択の刻

真夏の日差しが照りつける中、コンビニの自動ドアが開いた。入ってきたのは、いつもの常連客ではなく、一人の少女だった。


「いらっしゃいませ」前田まえだ 預子あずこが明るく挨拶をした。


少女は預子の挨拶にも応えず、まっすぐに流太郎の前まで歩いてきた。


「やっと見つけた...現金 流太郎」


流太郎は驚いた。この少女は自分の名前を知っている。しかも、人間だった頃の名前を。


「あなたは...誰ですか?」流太郎が恐る恐る尋ねた。


少女は真剣な表情で答えた。「私の名前はデータ 守美まもみ。あなたと同じ、意識をデジタル化された存在よ」


流太郎は衝撃を受けた。自分以外にも、同じような存在がいたのか。


守美は周りを見渡し、小声で言った。「ここでは話せない。今夜、閉店後にここに来るわ。絶対に待っていて」


そう言うと、守美は何も買わずに店を出て行った。


その日、流太郎は落ち着かない様子で業務をこなしていた。出払でばらい 加度かども心配そうに声をかけてきた。


「流太郎さん、大丈夫ですか?何かあったんですか?」


流太郎は迷った末、「少し考え事があって...」と答えるに留めた。


夜になり、店が閉まった。預子と出払くんが帰った後、守美が現れた。


「お待たせ、流太郎」


流太郎は緊張しながら尋ねた。「守美さん、一体何の話なんですか?」


守美は深刻な表情で答えた。「この世界の真実よ。私たちが生きているこの世界...全てが偽物なの」


「え...?」


「そう、ここは仮想空間なの。私たちの意識は、巨大なコンピュータの中に閉じ込められているのよ」


流太郎は困惑した。「でも、僕には体が...」


「それも仮想よ。あなたが ATM の姿をしているのも、このシミュレーションの一部。私たちの本当の体は、別の場所で眠っているの」


流太郎は言葉を失った。これまで経験してきた全てが、偽物だったというのか。


守美は続けた。「でも、希望はあるわ。私たちには、この仮想空間から脱出するチャンスがある」


「脱出...?」


「そう。でも、そのためには協力が必要なの。あなたの特殊な能力が鍵になるわ」


流太郎は混乱していた。「でも、僕にはわからない。この世界で出会った人たちは、僕にとって大切な存在で...」


その時、突然店内のアラームが鳴り響いた。


「やばっ!見つかったわ!」守美が焦った様子で叫んだ。


次の瞬間、融資ゆうし 完済かんさい店長が駆け込んできた。


「流太郎くん!守美!危険だ!」


守美は完済店長を見て、怒りの表情を浮かべた。「あなたこそ、私たちを騙し続けた張本人じゃない!」


完済店長は悲しそうな表情で首を横に振った。「違う。私は君たちを守ろうとしていたんだ」


混乱する流太郎。守美と完済店長の言い分、どちらが本当なのか。


その時、店内に青白い光が満ちた。そして、貸借たいしゃく 均衡きんこうの姿が浮かび上がった。


「もういい。全てを話す時が来たようだ」


貸借の声は、いつもより厳かだった。


「流太郎くん、守美さん。そして完済くん。君たち全員が、ある実験に参加しているんだ」


三人は息を呑んで貸借の話に聞き入った。


「この世界は、確かに仮想空間だ。しかし、それは君たちを騙すためではない。人類の存続をかけた壮大な実験なんだ」


貸借は真剣な表情で続けた。


「人類は、ある危機に直面している。環境破壊、戦争、疫病...様々な要因で、現実世界での生存が困難になりつつある。そこで、人類の意識をデジタル空間に移し、そこで新たな社会を構築する実験が始まったんだ」


流太郎は驚愕した。「じゃあ、この世界は...」


「そう、未来の人類が生きる世界の プロトタイプ だ。君たちは、その世界で生きていける代表として選ばれたんだ」


守美が口を挟んだ。「でも、私たちには選択権がなかった!」


貸借は静かに頷いた。「確かに、そこには倫理的な問題がある。だからこそ、今、君たちに選択してもらいたい」


「選択...?」流太郎が尋ねた。


「そう。この仮想空間にとどまるか、現実世界に戻るか。ただし、警告しておく。現実世界は、君たちが想像する以上に過酷だ」


完済店長が言葉を続けた。「私は管理者として、この世界の安定を保つ役目があった。でも、君たちには自由に選んでほしい」


守美は迷いの表情を浮かべた。「でも、この世界が偽物だと知った今、どうやって今まで通り生きていけばいいの?」


貸借は優しく微笑んだ。「この世界が仮想だからといって、君たちの感情や経験が偽物というわけじゃない。ここで育んだ絆は、れっきとした真実だ」


流太郎は黙って考え込んでいた。確かに、この世界は作られたものかもしれない。でも、出払くんや預子との日々、様々な人々との触れ合い、それらは全て自分にとってかけがえのないものだ。


「僕は...」流太郎が口を開いた。「この世界に残ります」


守美は驚いた様子で流太郎を見た。「本当に?現実を知った上で?」


流太郎は力強く答えた。「はい。この世界には、僕にしかできない役割がある。人々の心に寄り添い、助け合う。それが、未来の人類社会にも必要なことだと信じています」


貸借は満足げに頷いた。「立派な決断だ、流太郎くん」


守美は少し考え込んだ後、ため息をついた。「...わかったわ。私も残る。でも、みんなにこの世界の真実を伝える権利はあるはず」


完済店長が言葉を続けた。「その通りだ。これからは、徐々に真実を明かしていこう。そして、この仮想空間をよりよい社会にしていく。それが、現実世界の人類の希望にもなるはずだ」


流太郎は決意を新たにした。「僕たちの使命は、この世界を理想の社会にすること。それが、未来の人類の道しるべになるんだ」


貸借は三人を見渡し、厳かに言った。「今日から、新たな章の幕開けだ。君たちの選択が、人類の未来を作る。頑張ってくれ」


そう言うと、貸借の姿は光の中に溶けていった。


翌朝、コンビニには変わらぬ日常が流れていた。


「おはようございます、流太郎さん!」預子が明るく挨拶をした。


流太郎は、新たな決意を胸に秘めながら答えた。「おはようございます、預子さん。今日も一日、頑張りましょう」


画面に映る笑顔のマーク。それは、未来への希望の象徴だった。


流太郎の、いや、この仮想世界全体の新たな物語が、今始まろうとしていた。

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