――螺旋② 野次馬
「ゆず葉! やっと来た!」
利佳子のもとへ着いたころには、人だかりは結構な人数になっていた。
「どうしたの。こんなに集まって」
私はキョトンとした顔で、あまり興味なさげに尋ねる。
さっきの彼のことでまだ頭がいっぱいなのだ。
第二校舎は入り口が封鎖されて、関係者以外立入禁止となっている。
入口奥の校舎内では、カメラやマイク、レフ板をもったスタッフたち、忙しそうにあちこちへ動いているスタッフたちが窺えた。
撮影でもはじまりそうな雰囲気だ。
「ドラマの撮影で、ここの校舎だけ貸切になってるんだって」
利佳子が楽しそうに話す。
どうりでこんなに野次馬が集まるわけだ。田舎にテレビ関係者が来ているとなれば、あっという間に噂になるだろう。
めずらしいその様子をちょっとでも拝みたいのは、田舎だけの光景ではないだろうけど。
ドラマの撮影ということは、さきほどの男性はここの関係者だったのだろうか?
「さっき、男の人がここに入って来なかった?」
彼はここを通っていったのか氣になる。
「男の人って、白いTシャツにキャップかぶってる人?」
利佳子が不思議そうに返してきた。
「うん」
「んーさっき来て、中に入っていったよ。ここの関係者ぽかったけど、その人がどうかしたの?」
「ああ……なんかさっき走ってたから」
やっぱりあの人は、大学生じゃなかったんだ。
なんだ……同じ大学の人かと思っていたのに、残念。
また会ってみたかったけど、今日この撮影が終わればもう帰ってしまうのだ。こんな氣持ち、はじめてかもしれない。
目の前のめずらしい光景よりも、彼との接点がなくなってしまうことに寂しさを覚える。
ガヤガヤと騒がしい音に、いよいよ授業開始のチャイムが対抗し始めた。
学生たちは慌てて、各々の方面へ散らばっていく。
めったに見られない光景をまだ見ていたい数人の学生は、授業などお構いなしにその場へとどまっているが、私たちは急いで目的の教室へ走った。