52*好きな人 -01-
お待たせしました。
更新できました。
今回はアイリスとロイのお話。
長めです。後半は糖分高めです。
今年も大変お世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願いします。
二人はロイの屋敷にいた。
ロイは基本的に忙しく、屋敷を手に入れてからもほとんど寮生活だった。それはアイリスも同じで、休みの日は共に屋敷で過ごすよう決めていた。
今日は、バルウィンの計らいで一緒だ。
夕食は時間が遅くなったこともあって食堂で済ませた。アイリスはロイに、バルウィンが褒めていた話をした。「それは光栄だな」と喜んでくれた。その様子に、アイリスも嬉しくなった。
屋敷には互いの部屋がある。ロイは今、自分の部屋で明日の出立に向けて準備中だ。アイリスも制服から着替えようと、自分の部屋にあるクローゼット前で腕を組んでいる。ジェシカとライリーからもらったワンピースと睨めっこしていた。
「……どうしようかしら」
ロイは予定より早く出発する。
本当は二人きりの時間を取りたかったが、仕事だから仕方がない。とはいえ、リアンに理不尽に仕事を休めと言われた期間があったおかげで、剣の稽古をつけてもらえた。それはよかったかもしれない。
ミンティス王国へは数日後には会える。だがそれは仕事だ。今日のように一緒に過ごすのは当分ないだろう。せっかくだからワンピースを着ようかと思ったが、少しだけ躊躇する。国同士、王族同士の大事を前に、これを着る勇気も気持ちも持てなかった。
「また、着る機会あるわよね」
結局いつもの軽装のドレスにした。
アイリスはロイの部屋をノックする。
約束の時間になったからだ。
どうぞ、と声が聞こえドアを開ければ、ロイはまだ準備が終わっていなかったようだ。「ああ、アイリス。もうすぐ終わる。少し待っててくれ」と声がかかる。「ゆっくりで大丈夫ですよ」とアイリスは返事をした。
待っている間、アイリスは部屋を見渡す。
(これが、ロイ殿の部屋)
こんなにじっくり見たのは初めてだ。
家具はあるが、本当に最低限の物だけ。
どちらかというと物が少ない。
スタイリッシュな濃い青色の家具が多く、大人びたロイのイメージによく合う。本当はもっと広い部屋があるのだが、ロイとしては落ち着かないらしい。当分はこちらの部屋を使うと言っていた。寮の部屋くらいのサイズの方が使い勝手がいいそうだ。
しばらく見ていると、すっとロイが近付いてくる。
「おいで」と言いながら手を差し出してきた。
(え)
部屋に入るのか。
入っていいのか。
いつも入ることはないし、以前モニカにも「まだ早い」なんてことを言っていたのに。それを口にしそうになりながらも、アイリスは言わなかった。部屋を出たくなかったからだ。それに以前、私にできることはあるか、と聞けば、触れていいか、と返ってきた。今がそのタイミングなのかもしれない。
アイリスはどぎまぎしながらも手を握る。
一緒に座ったのはロイのベッドだ。今横並びにいる。少しだけ緊張していると「いつも寮で過ごすからほとんど使っていないんだ」と苦笑された。
それよりもアイリスは、自分の心臓の音がうるさかった。部屋に二人きり。誰か入ってくることもない。このまま狭い空間にいて、自分の心臓は耐えられるだろうか。でも、婚約者なのだから何の問題ない、と言い聞かせている自分もいた。
ロイはアイリスの手を握ったままだ。
「出発が早まったのは驚いたが……アイリスもいるなら安心だ」
「! それは、私のセリフです。ロイ殿がいて下さるなら安心です」
「ミンティス王国との交流のために行く予定ではあるが、モネ殿下とも話すつもりだ。その件も知らせている。ミンティス王国の王女殿下が許可してくれたら、だが」
「ロイ殿なら大丈夫だと思います。隣国に行った時、モネ殿下は心を開いてくれたと思いましたし」
「そういえば……以前二人の馴れ初めを教えてほしい、なんて聞かれたな」
思い出したのか、おかしそうにロイが笑う。そうだ。モネが恋について知りたい、と言い出して。あの時はまだ本当の恋人同士ではなかった。偽の関係であるのにどっちが好きかで喧嘩をして。今思えば、なんとくだらない喧嘩をしていただろう。
「そういえばそうでしたね……」
ちょっとだけ恥ずかしい。
「俺は教官時代にアイリスが好きだと自覚した、って話をしたな」
と言われても、アイリスはピンと来ていなかった。士官学校時代の自分は、若さもあって今よりもっとぴりぴりしていた。剣の腕前があっただけでなく、精神的な意味でも強かった。人間的な可愛らしさなど、なかったように思う。どこを好きになったのだろう。
と思っていると、急に握られたままの手が上に動く。それを目で追うと、アイリスの右手がロイの顔に近付く。そのまま手の甲にキスされた。
「っ……!」
心臓がぎゅっとなる。
相手の瞳とかち合う。
「俺が、なぜアイリスを好きになったのか。改めて聞いてくれるか?」
「え?」
「多分はっきり言ったことはなかったと思う」
確かに具体的な話は聞いていない気がする。
だがアイリスは目を丸くする。
「話してくれるんですか?」
なぜ、今? と思っていると、相手は気付いたのか、少しだけ微妙な顔になる。「……それは、男のプライド的に言えなかったというか……」とごにょごにょしているが、アイリスは首を傾げる。余計に言いたいことが分からない。
するとロイは咳払いをする。
「リアン殿下とバルウィン殿下、モネ殿下の影響だ。大事なことは伝えないと、言えなくなってしまうかもしれないと思った」
「……!」
確かに三人ともそれぞれ、すれ違いが起きてしまった。それを目の前で見たことで、感じたことがあったのだろう。アイリスはじっとロイを見つめる。すると相手は少しだけ息を吐き、ゆっくり口を開いた。
ロイは士官学校で、教官として名を馳せた。
元々剣術の腕がいいこと、士官学校での指導方法、人柄でも評価された。名前が知られることで有名になり、より評価も上がっていく。
だが、最初からそうだったわけじゃない。
教官になったばかりの時はよく言われた。
「ただの平民風情」が偉そうに、と。
騎士の間でも士官学校でも、特に身分の差はなかった。が、士官学校では貴族が多かった。また、多感な年齢だからか、身分を持ち出す生徒が多かった。ロイは平民であり新米の教官だった。舐められているんだろうな、と感じたことは多い。
こちらが指導する立場であるのに。
若く貴族である彼らに、よく噂された。
『どんなコネを使って?』
『侯爵家の令嬢の剣の指導をしてたらしい』
『じゃあその令嬢の恋心を利用したんじゃないか?』
(ちがう)
そうではないことを伝えるために、言葉ではなく実力で示した。すると嫉妬からか、今度は別の言葉をぶつけられた。それでも何も言わず、己を磨いた。結果、人望を得た。すると別の視点で咎めてくる者がいた。
『むしろ利用したのは彼女の方じゃないか?』
『いいよな侯爵家は。なんでも手に入るもんな』
『贔屓されてるんじゃないか? なんだよあいつ、生意気なんだよ』
(……彼女のことを悪く言うな)
言葉の矛先がまさかアイリスに向かうなんて思わなかった。彼女への悪口など、剣でも顔でも叩き割りたいくらい嫌だった。自分が何か言われるのはいい。自分のせいで誰かが悪く言われるのは我慢ならない。
だが、言えなかった。
立場上、言えなかった。
違うと言いたくても。当時の自分では、逆に相手の立場を悪くするかもしれないから。ロイは言えなかった。
そのまま日が過ぎ、遂に噂ではなく、直接生徒達から呼び出しを食らった。空き教室に入れば、取り囲まれる。根も葉もない言葉を言われ、立場上強く言えないことを言われ。ただ、耐えるしかなかった。
そんな時。
急にドアが、がらっと開いた。
『――何の話をしているの』
どうやらアイリスが見つけてくれたようだ。
その場にいた生徒達はざわつく。
当時生徒から色々言われていたことなど、アイリスには知らせていない。言いたくもなかったし、知らなくていいと思っていた。生徒達も、アイリスの目の前では言わず、影でこそこそと話していた。だから誰も、アイリスがここに来るとは思っていなかった。
彼女は芯のある瞳で彼らを一瞥し。
『そんなに気に入らないなら今すぐ私と決着つける?』
と言いながら、腰にある剣に触れる。
当時、彼女に敵う者はそう多くなかった。
『な、なんだよ。別に、冗談だろ』
『冗談でも言っていいことと悪いことがある。信憑性のない噂話を勝手に流すのはやめて。これ以上被害を広げるなら、家の力を使って痛めつけるわよ』
すると皆、焦った様子になる。
貴族の中でもアイリスは侯爵。おそらくアイリスの父であるチガヤの顔を思い浮かべた者も多かったはずだ。
『騎士なら正々堂々、真っ直ぐ勝負しなさい。言葉ではなく剣で対話をしなさい。ロイ教官も私も、逃げないしいつでも相手になる。……そうですよね、ロイ教官?』
凛々しい表情から一遍、まるで挑戦するようににっと口元を上げる。その問いかけに、ロイは「ああ」としか言えなかった。
『尊敬する師匠を罵倒することは、私が許さないわよ』
氷の花として最後に釘を刺したアイリスは、その後誰からも文句を言わせなかった。そしてロイも、これ以降、生徒に何か言われることはなかった。
「あの一件で、俺はアイリスのことが好きになった」
言葉に気持ちを乗せてくれる。
目を、真っ直ぐ合わせてくれる。
「俺はアイリスを、本気で、かっこいいと思っている。イーデン公爵に身分のことを言われてしまった時も……ありがたかった。少しだけ、自分が情けないと思ってしまったりもしたが」
少しだけ苦笑される。
「俺よりかっこよすぎて、時々、悔しかったんだ。一応俺も男だから」
「…………」
「アイリス?」
名前を呼ばれるが、反応できなかった。
どう反応したらいいか、分からなかった。
戸惑いの方が、大きかったかもしれない。
(だって、人に好いてもらえる所なんて、例えば可愛いとか、上品とか、優しいとか、そういう所で)
いつだって女性が好かれる箇所は、女性らしいところだ。男勝りで、思うままの言動をしてしまう自分のこの性格を、いいと言ってもらえることの方が少なくて。だから、好かれるはずもないと諦めていて。でも外見は、両親のおかげでいい方で。その部分だけを、褒めてもらえて。
自分の価値など、剣の実力と、家柄とか外見だけだと、思っていた。それ以外の自分に自信などないし、結婚の話を周りにされても、自分には縁遠いものだと思っていた。
(それを……)
じわじわと、込み上げるものがある。
(私、このままでいいのね)
やっとそう思えた。
自分の代名詞と呼ばれるものに、なかなか自信が持てなかった。ジェシカのように女性らしい素敵な良さがあればよかったかもしれないと、そう思う自分もいれば、でもそうなれない、とどこか嘆きたくなる自分がいた。女性なんだから、貴族令嬢なんだから、かっこいい面よりも、可愛いとか、綺麗な面だけが褒められることが多い。だが最も尊敬している人は、自分のかっこいい部分を好きになってくれた。
(嬉しい……)
なんて嬉しいことだろう。このままの自分が好きだと言ってもらえるなんて。アイリスはいつの間にか、目に涙を溜める。
「……どうした?」
アイリスの様子に気付いたのか、ロイが少しだけ気遣う声を出す。右手でそっと涙を拭ってくれる。それを皮切りに、アイリスはぽろぽろと涙が溢れ出す。ロイが手を広げ、一生懸命拭ってくれる。それがなんだかおかしくて、アイリスは思わず「ふふふ」と笑みがこぼれた。
「嬉しくて。……思わず泣いてしまいました」
すると今度は、ロイの手が伸びて。
彼の胸にすっぽり包まれた。
(……温かくて、大きい)
今まで誰かを守ることが多かった。
騎士だから。それはこれからもきっと変わらない。
だが今は、守ろうとしてくれる人がいる。
守られるとはこういうことなのだろうかと、抱きしめられて実感する。今までも彼は支えてくれていた。最初は自分のようなものが好かれるわけがないと逃げていたし、想いがつながってからも、自分に自信はない。
でも今は、純粋に嬉しいから。
彼の愛を、全部受けとめたい。
アイリスもロイの背中に手を回す。
お互いぴったりとくっついた。
「……アイリス。好きだ」
「……はい」
(嬉しい)
言葉で伝えてくれることが、嬉しい。
「……私も、好きです」
最初に告白された時よりも、落ち着いて伝えることができた。好きだから。もっと伝えたい。あなたのことが好きであると。
すると少しだけ腕の力が弱まり、互いに見つめ合う。顔が近付いてくるのを感じて、アイリスは目を閉じた。唇同士が重なる。
軽く触れただけで一度離れたが、もう一度重ねた。それを何度か繰り返した。
今度は長く唇を合わせ続ける。
心臓の音がどんどん大きくなる。
(……ワンピース、着ればよかったわ)
外側を着飾ろうがそうでなかろうが、ロイにとっては関係ないことかもしれない。だが彼のために着飾った姿を見せたら、もっと喜んでもらえたかもしれないのに。少しだけ悔いてしまう。
だがこうして、触れ合うことができて嬉しい。
ロイも同じ気持ちであれば尚、嬉しい。
呼吸をするために一度唇を離して、また合わせる。アイリスも慣れてきたのか、ロイの首の後ろに手を回した。するとその拍子に、相手の舌が少しだけ唇に触れてきた。
(っ!)
知らない刺激を感じ、アイリスの身体がびくっとする。ロイは気遣うように、何度か舌で唇に少しだけ触れてくる。これはいいのか、それともよくないか、聞いているみたいに。少しだけ恥じらいがあったが、したくないわけじゃない。アイリスは少しだけ口を開けた。
「ん……」
深いキスを交わす。
しばらく何度か繰り返しているうちに、アイリスは今の体勢が少し辛くなった。何度も唇を重ねていることもあって力が抜け、そのまま後ろに倒れこむ。ふかふかのベッドのおかげで、背中は無事だ。
今度は、ロイが覆いかぶさった格好になる。
(っ!?)
自分の上にロイがいる。改めて体格の差をまじまじと感じ、さらに恥ずかしくなって、アイリスは反射で横を向いてしまう。するとロイは、アイリスの首元に顔を近付ける。ちゅ、と音を立ててキスをした。
「なっ!」
思わず声を出すが、相手はキスを続ける。
首元がなんだかくすぐったい。
それになんだこのされるがままの状態は。
今更ながらにすごいことをされていることに気付き、アイリスは「あ、あの」と声を出す。少しだけ抵抗しようとロイの身体を押すが、びくともしない。
(さ、さすが騎士……)
体幹の強さに感心するがそれどころじゃない。
「あ、あのロイ殿」
「――アイリス。どこまで触れていい?」
「えっ」
ロイは顔を近付けてくる。
すぐにでも唇が触れ合いそうな距離で。
「どこまでなら、いい?」
「…………」
ロイは今、優しく問いかけている。
微笑んでいて、気遣ってくれている。
いつもの優しい彼であることに変わりはないが、それでもなんだか、色香を纏っているようにも見える。なんだか……別の意味でどきどきする。
「あ……の、」
「うん」
「わ、私、こういうのに慣れてないので、」
「ああ。慣れてたら怒るな」
声色が若干怖くなってないか。
「っ。……だから、教えてください」
「……?」
「ふ、触れて、教えてください……」
恥ずかしくて最後は小さい声になってしまう。
「…………」
「……ロイ殿?」
なぜかロイは顔を天に向けていた。
「?」
「意地悪なことを言ってすまなかった」
額に軽くキスされる。
「これ以上は……結婚してからだな」
「!」
アイリスは何度も頷いた。
このままでは身が持たないと思っていたので、そう言ってもらえるのはありがたかった。するとロイはなぜか意味深ににこっと微笑み「今日は口づけだけにしよう」と言葉を続ける。思わず「えっ?」と素の声が出る。てっきりこれで終わりかと思えば、唇が塞がれた。
「んっ……」
しかも最初から深い方だ。最初は優しく触れるだけだったのに、啄むようなキスに変わる。先程より刺激が強く、アイリスはついていくのに必死だった。何度も繰り返し息も絶え絶えになっているのに、ロイは涼しい顔のままだ。
(な、なんで余裕そうなの)
今自分がどんな顔になっているか、恥ずかしくて考えたくもない。対してロイは大人な様子で、なんだか悔しくなってしまう。やられてばかりで、持ち前の負けず嫌いが出てしまう。
「あの、」
「?」
「こ、今度は私からします」
「……へぇ」
にやっと笑われた気がする。
(もしかして、できないだろうって思われてる?)
確かに得意な分野ではないが、だからといって毎回やられるわけにはいかない。まるで勝負事のような思考になったアイリスに、ロイはあっさり「どうぞ」と待ての姿勢でいてくれる。アイリスは起き上がり、そっとロイの頬に手を添えた。
自らロイに唇を当てる。
一瞬で終わるが、相手は口元を緩めた。
「アイリスからしてもらうのもいいな」
「…………」
アイリスは真顔を保とうとする。
やっぱり自分からするのも恥ずかしい。
ロイはアイリスに顔を近付ける。
「もっとしてくれるか?」
「えっ……!?」
「ああ、できないか」
「っ! で、できますけど……!」
売り言葉に買い言葉。
師匠は弟子の扱いをよく分かっている。
何度も求められてアイリスから唇を寄せることになるが、数回でさすがに限界が来た。恥じらいで顔を背けるが相手は許してくれず、耳や髪や頬、至るところにキスしてくる。それはまだ耐えられたが、最後には唇に戻る。何度も舌が絡み、さすがにこれ以上は危険だと判断した。明日に響くと伝えれば、あっさり解放される。
「今日はここで寝ていい。俺は別の部屋で寝るから」
「えっ。ここはロイ殿の部屋ですよ? 私が自分の部屋に、」
「朝一番にアイリスの顔が見たいんだ」
「……!」
朝早く出発してしまうから。
だからここで会いたい、ということか。
「おやすみ」
と、ロイはすぐに部屋から出ていく。
あんなに情熱的に求めたくせに、最後は思ったよりあっさりしていた。静かになった部屋で、アイリスは言われるままにロイのベッドで寝ようとするが。
(……眠れるわけないでしょ……)
先程まで与えられた熱で、頭を抱えた。
次の日。
「おはよう」
ロイはすでに起きて身支度を整えていた。
「お、おはようございます」
どうやらいつの間にか寝ていたらしい。早く起きるつもりだったのに失態を晒してしまったと、アイリスは少し落ち込む。だがロイが近付き、アイリスの顔を覗き込む。そのままキスをしてきた。
「っ!?」
「昨日の夜はいい時間だった」
「…………」
アイリスは自分の顔を手で隠した。
(穴があったら入りたいわ)
まさかあんなに何度もキスすることになるとは思わなかった。好きになってくれた理由が聞けて感動しての流れだが、深いキスを何度も繰り返したなんて。頭が冷静になっている今、より恥ずか死ねる。
初めての経験なのもあってアイリスは思わず顔が上げられないが、ロイはやっぱり余裕そうだ。「じゃあ行ってくる」と言って頭を撫でてくれた。もう出発する雰囲気に、アイリスは慌ててベッドから出る。
「ロイ殿!」
「?」
相手は振り返ってくれた。
「お気をつけて。行ってらっしゃい」
「ああ。ミンティス王国で会おう」
互いに目を合わせ、頷き合った。




