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38*好きになってほしい -01-

あけましておめでとうございます。まさかの1月中更新できませんでした…仕事が忙しすぎて…。3月までこんな感じかもしれないのですが、続きはこつこつ書いております。今年もどうぞよろしくお願いします…!


読んでくださったりいいねを押してくださりありがとうございます。

とっても励みになっております。


今回は久しぶりにおまけ話もあります。

どうぞ楽しんでいただけますように。

 遠くで様子を見ていたアイリスは、レイナの姿に驚く。まさか彼女がここにいるなんて。彼女の登場に、周りもざわついていた。


「あの子綺麗ね。お付きの人もいるし、お嬢様?」

「今話している子と、少し似ている気がするわ」

「姉妹とか?」


 ロイも「あれは……」と呟いている。

 アイリスは硬い口調で答えた。


「彼女がレイナです」

「そうか……。っ!? アイリス、待て」


 ロイはアイリスの手を取った。ジェシカ達がいるところに向かおうとしていたからだ。アイリスの足は止まるが、前に進もうとするのは諦めていない。


「離してください」


 力はロイの方が強いが、アイリスも負けてはいない。顔を前にしたまま、進もうとしている。それが分かったロイは背後を取り、体を使って止めることにした。アイリスは動けなくなり、苛立った口調になる。


「なぜ邪魔するんですかっ」

「殺気を感じたら止めるだろ」

「そこまでは出してません」

「その手前くらいは出してるんだな」


 アイリスは無言で抗議を示す。

 ロイは低い声でゆっくり伝えた。


「落ち着け。今は行くべきじゃない」

「今ジェシカがこんな目に遭ってるのはあの子のせいでもあります」


 今だってジェシカに対し、嘲笑うかのような表情だ。アイリスは思わず手に拳を作っていた。拳を向けながら歩こうとするが、ロイはその手を下ろさせる。


「気持ちは分かるが耐えてくれ。ここで事を起こせばこれからの計画が上手くいかなくなる。ジェシカ嬢にも考えはあるはずだ」

「…………」

「今はまだ見守ろう。な?」


 落ち着いた物言いから、優しさを含ませた声色に変わる。ロイの声には人を安心させる作用があるのかもしれない。アイリスの怒りも少しは静まってくる。


 頭では理解しているのだ。

 今ここでできることなど何もないと。


 ただこれ以上。

 ジェシカに傷ついてほしくなかった。


 とりあえず様子を目で追っていると、レイナはグレイがいることに気付いたようだ。あからさまに表情を変えていた。ジェシカの作戦通り、レイナは彼に興味を持ったようだ。


(……ジェシカ?)


 アイリスは、ジェシカの表情がいつもと違っていることに気付いた。最初はレイナに対し毅然とした態度だった。凛としていた。だがグレイに気付いたレイナを見て、少しだけ顔を歪めている。


 それはどこか切なそうで。

 どこか、彼女らしくない。


「……ロイ殿」

「どうした」


 ロイはまだアイリスの背後にいる。丁度二人で話しやすい。名前を呼べば、顔を近付けてくれた。


「グレイは、ジェシカのこと嫌いじゃないんですよね」

「ああ。俺が思うに、デニールの気持ちは変わっていないと思う」

「……ジェシカも」

「?」

「ジェシカも、グレイのこと嫌いではないと思うんです」


 顔を動かして、ロイに目を合わせる。エメラルドグリーンの瞳は、アイリスを見つめていた。


 ふっと微笑んでくれる。


「そうか」

「でも今のままじゃ、あの二人は変わらないように思います」

「と言うと?」

「グレイは何も話さないし、ジェシカはなんだか遠慮しているし。……ちゃんと、話した方がいいんじゃないかって。お互いが、お互いのことを、どう思っているのか。知った方が、いいんじゃないかって」

「……そうだな。お互いを大切に思っているなら、すれ違うのは悲しいことだ」


 アイリスは頷く。


 大事なことは口で伝えないと、伝わらないこともある。自分達も遠回りをした。だから二人には、そうなってほしくない。


「話し合うには、甘い物があるといいですよね」


 少しだけにやっとして見せる。

 するとロイは目を細めた。


「とっておきのお菓子を用意するか」

「はい」







 グレイを見たレイナは、歓喜で震え出した。


「第二王子殿下の側近様がこんなところにいらっしゃるなんて。お会いできて嬉しいですわ」


 甘く、高い猫のような声色を出す。可愛らしいその音に、グレイは一歩後ろに下がった。反射的に身の危険を感じたのだろうか。


「申し遅れましたわ。わたくし、レイナと申します。ここで出会ったのも何かの縁。よければデザイナーの店までご一緒しませんか? グレイ様ならきっと似合うお洋服がいっぱいありますわ」

「……自分は、ジェシカ殿と共にいます」


 すると彼へのうっとりとした顔が一変。

 思い切り睨んだ瞳がジェシカに向けられた。


「お姉様。グレイ様とお知り合い?」

「友人よ」


 今恋人と言ってもおそらく信じてもらえない。そもそも関係を解消しようとしていたところだ。咄嗟に恋人のふりなどできない。


(レイナが街にいるなんて)


 彼女は馬車移動が常だ。

 ここで会うなんて予想もしていなかった。


「友人……? お姉様に男性のご友人……ふうん」


 彼女はくすっと笑う。

 意地悪そうな顔になっている。


「ねぇグレイ様。お姉様とご友人だなんて嫌な目にしか遭いませんわ。知ってらっしゃる? お姉様って色んな男性に色目を使って、他の令嬢の婚約を破棄させたこともあるんですのよ」


(それをしたのはあなたでしょう)


 心の中で溜息をつく。


 自分の婚約者だった人だけでなく、他の令嬢の婚約者に色目を使って大惨事になったこともある。全て父が権力で揉み消していたが。


「美しさって罪ですわね。グレイ様お可哀想。私と一緒の方が心が慰められますわ」


 グレイの腕の裾を、そっと指で掴む。上目遣いをするその顔は、いじらしくて可愛く映る。人によってはそれが魅力に映り、惑わされるかもしれない。


「レイナ、その辺に」


 急に絡んできたレイナの相手をグレイにしてもらうのは申し訳なさ過ぎる。諌める言葉をかけようとすると、グレイは控えめにだが手を払いのけた。


「自分は、自分の見たジェシカ殿を信じます」


(グレイ……)


 するとレイナは少し顔を歪める。


「随分、仲がよろしいのね」


 声色が多少低くなった気がする。どこか試すような物言いだ。グレイがジェシカの味方をしたことで、不機嫌になったようにも見られた。


 ジェシカはこの問いにどう答えるか迷った。


 彼女を煽るためには深い関係性であることを示したいが、今はタイミングが悪すぎる。しばらく無言でいると、彼女は大袈裟に手を叩いて笑みを作る。


「そうですわ。お二人もパーティーに参加したらいかが?」

「……え?」

「今回の主催は私と子爵家のカルティナ様なんですの」


 聞けばパーティー慣れしていないカルティナのために、レイナが手を貸してあげるのだという。子爵家の令嬢の名前を聞いて、ジェシカは瞬時に頭を働かせる。確か事業が上手くいったことで、最近貴族入りした商家のはずだ。


「カルティナ様とは最近友人になりましたの。堅苦しいものではありませんし、誰でも来やすいパーティーにしていますわ。一週間後にありますけど、主催の一人である私の招待であれば、急であろうと参加は可能です」


 レイナはにっこりと笑う。


「私、もっとグレイ様とお近づきになりたいですわ。お姉様も一緒なら、来てくださいますよね?」


 どうやらグレイをいたく気に入ったらしい。


 レイナの性格を考えれば、容易なことだった。グレイは、彼女が欲しいものを持っている。容姿。肩書き。そして、自分と「友人」だ。


(私からグレイを引き剝がして自分の物にしたいと、そう言いたいのね)


 言葉一つでここまで予想できる。身を引けと、言われているような気がした。迷いのない彼女の言動は、分かりやすくて助かる。


 狙い通りだ。

 作戦が上手く行っている。


 ……それなのに、レイナがグレイを自分の物にしようとする意志が見えた瞬間、急に胸に鉛が入ったように重くなる。なぜだろう。


(でもこれは、いい機会だわ)


 元々は剣術大会で自分達の良さをアピールするつもりだった。パーティーに参加すれば、早い段階でレイナに対し、仕掛けることができる。


(……グレイは、どうするかしら)


 恋人役を解消しようという話をジェシカからしていた。この展開に、彼はどう思うだろう。できれば協力してほしいが、無理強いはできない。一旦この話は持ち帰ろうかと思えば、グレイは「行きます」と答えていた。


「ジェシカ殿と一緒であれば、行きます」


 するとレイナは目を輝かせた。


「嬉しいですわ。では招待状をお送りしますわね。……お姉様」

「?」

「せっかくですから、ドレスは新調されるといいですわ」


 グレイの返事にはしゃいで喜んだと思えば、打って変わって静かになる。ジェシカは内心戸惑った。レイナも主催側ということは主役でもある。なぜそのような場に、わざわざドレスを新調する必要があるのだろう。


「目一杯、美しいお姉様でいらしてね?」


 含みのある笑みを向けられる。

 何やら意味深に。


「……分かったわ」




「ジェシカっ! 大丈夫?」


 やり取りが終わった頃合いにアイリスとロイが近付いてくる。本当はすぐに来たかったようだが、話が終わるのを待ってくれていたらしい。


 ジェシカは二人の姿に安堵した。


「ええ、大丈夫よ」

「本当に? まさかレイナと会うなんて。何か嫌なこと言われてない? 私、すぐにでもぶん殴りに行きたかったんだけど」

「そうならないように止めた」


 ロイが溜息混じりに補足する。

 ジェシカは思わず苦笑した。


「大丈夫よ。それよりも……話しておきたいことが」


 ジェシカは先程の会話を共有した。


 パーティーに誘われた話をすれば、アイリスとロイは驚いた顔になる。だがジェシカと同じくいい機会でもある、という結論になった。レイナも主催側ということは、令嬢のみならず令息も招待されるだろう。彼女は常にいい男を探し、出会いを求めている。


 自分が一番目立ちたいレイナは、その場でも他の令嬢を蹴落とすために何かする可能性がある。カルティナは大人しい令嬢のようだ。レイナにいいように利用されているのかもしれない。


「一週間後か……あまり時間はないですね」

「バルウィン殿下とリアン殿下にも共有する必要があるな」


 アイリスとロイは今後どのように進めるか話し合っていた。その間、ジェシカはグレイに話しかける。


「グレイ、ありがとう。パーティーに参加すると言ってくれて」

「……いえ」

「レイナから何か証拠を掴めるか、色々考えてみるわ。……さっきはあんなことを言ってしまったけど、もう少し付き合ってもらってもいいかしら。我儘を言ってごめんなさい」

「我儘? 何の話?」


 アイリスが話の輪に入ろうとする。


「なんでもないわ」


 ジェシカは笑ってかわそうとした。


 するとアイリスは「グレイ」と、強い口調で名を呼ぶ。その瞬間、空気がぴんと張り詰める。


「さっきから何も言わないし、態度が失礼よ。これならジェシカにつきまとってた頃の方がましだわ」

「っ! アイリス、つきまとってなんかいないわ」

「距離感おかしいくらいに近付いてたじゃない。私が見てないとでも思ってるの?」

「アイリス……!」


 ジェシカはアイリスの腕にしがみつく。これ以上余計なことを言わないでほしいがための行動だが、親友は引いてくれなかった。


「ジェシカも。グレイとちゃんと話してる?」

「……」

「何も言ってないでしょう。優しすぎるわ」

「それは、」


(だって私は、彼の善意に甘えているもの)


 グレイに何か言える資格など、今の自分にはない。結局恋人役解消とならず、こうして付き合ってもらうことになっている。


 自由なグレイのままでいてほしかった。それを奪ってしまったのは、自分だ。


 だから彼に、何も言えない。


 するとアイリスは分かりやすく溜息をつく。

 今度は柔らかい声色で「グレイ」と呼んだ。


「本当はジェシカに言いたいことがあるんじゃないの?」


 グレイは思わず目を見開く。


「気にしないふりをしながらもジェシカのこと見てるの、お見通しよ」

「…………」

「ジェシカも」

「えっ?」

「今の自分の気持ち、ちゃんと伝えた方がいいわ」

「自分の気持ちって、」

「好きになってくれたら嬉しいんでしょう」

「っ! アイリスっ」


(それは、そういう意味じゃないわ)


 なぜ今ここでその話をするのか。

 彼に誤解されてしまう。


 慌てて弁解したかったが、不意打ちで言われてしまったせいで、何も言葉にならない。ジェシカは顔が熱くなってくる。グレイの顔をまともに見れなかった。


「だからはい。これ」

「これは……」


 紙袋を渡された。

 袋には菓子店のロゴマークがある。


「タルトタタンが有名なんですって。二人で召し上がれ?」


 芝居かかった物言いだ。

 ジェシカとグレイは思わず黙ってしまう。


 するとロイが後押しするように付け足す。


「甘い物は心に安らぎを与えてくれる。食べてから話すといい」






 一行はひとまず城に戻る。


 本来なら一日出かけるはずだったが、レイナの登場により予定が狂った。レイナ主催のパーティーに参加するにも時間が足りない。その件も含めて作戦を立たなければならないため、戻ることにしたのだ。最も今回のお出かけはジェシカとグレイのため。


 空いている部屋に、当の本人達は二人きり。


「「…………」」


 ジェシカとグレイは互いに無言で向かい合っていた。四人で食べると思いきや、アイリス達は部屋から出てしまったのだ。王子達にすぐに報告してくると。こちらのことは気にしなくていいから話せと。


 二人の意図は分かるものの、ジェシカはなかなか口を開く勇気が持てない。だがこのまま無言なのは気まずい。ジェシカは皿の上にタルトタタンを並べた。皿やナイフ、フォークは寮の部屋から持ってきた。グレイの分も渡し、声をかける。


「食べましょうか」

「……はい」


 二人で同時にタルトタタンを口にする。


「!」

「美味しい……」


 甘さが絶妙なのだ。林檎が甘みが丁度いい。生地も美味しく、バターの風味も感じる。素材も林檎も、良いものを使用しているのだろう。さすがは人気店だ。気まずい空気が嘘のように、二人はタルトタタンに夢中になった。


 食べ終わって一呼吸置く。

 するとグレイと目が合う。


「美味しかったわね」

「はい」


(……何を言えば、いいのかしら)


 無言になってしまう。

 ジェシカはそれに悩んでしまう。


 するとグレイが先に頭を下げた。


「失礼な態度を取ってしまい、すみませんでした」


 思わず何度も瞬きをする。

 まさか謝られるとは。


 ジェシカは笑みを作って首を振る。


「気にしないで。私こそ、急に恋人役を解消しようと言ったり、継続したり……無神経だわ。ごめんなさい」

「いえ、それは気にしていません」


 あっさりと許してくれる。

 だがグレイは少しだけ視線を下にした。


「……ブロウ殿の言う通りです。グラディアン殿にも申し訳ないことをしました」


 反省しているのか、少しだけ声が低い。アイリスの言動が堪えてるようだ。一番身近な仕事仲間であるし、思うことがあったらしい。


(……変わったわね)


 今まで人に興味を示さなかったのに。何を言われても、気にする素振りすらなかったのに。好意も悪意も、相手にしていなかったのに。


(私に関係あることだから?)


 なんて、都合のいい風に考えてしまう。

 ジェシカは頭を切り替えて微笑む。


「本当に大丈夫よ。あの二人は優しいから、すぐに許してくれるわ」

「それなら、いいのですが」


(普通に会話できているわ。よかった)


 いつもの調子を取り戻せるかもしれない。

 と思っていたら。


「気になったのですが」

「?」

「好きになってくれたら嬉しいというのは」

「っ! あれは、」


 急にその話をされてしまい、思わず立ち上がってしまう。アイリスが勝手に言った話だ。しかも、誤解される言い方をした。


「あれはちがうのっ」


 思わず声が大きくなってしまう。


「そう、ですか」


(あっ……)


 誤解されたくなくて否定してしまったが、グレイの表情が少し変わった。眉が下がったように見える。まるで、気落ちしたように、見えた。


 好きになってもらえたら嬉しいのに。

 その事実は変わらないのに。


 嘘を、つこうとしている。


(……このままは、よくないわ)


 せっかくアイリスがくれた時間だ。

 それに、グレイが歩み寄ろうとしてくれている。


 自分の気持ちを、伝えた方がいい。

 自分なりでいいから、伝えないと。


「……あの、あのね」

~おまけ話「羨ましい」~


 アイリスは目の前にあるタルトタタンと睨めっこしている。

 それにロイは苦笑した。


「どうしたアイリス。食べないのか」

「……食べたい、ですけど」

「ジェシカ嬢達が気になるか」


 アイリスは素直に頷く。


 アイリス達はテラスにいた。人通りが少ないところを選んだし、婚約者同士なのだから人に見られても問題はない。王子達は公務が重なっていたため、終わるタイミングで報告する予定だ。待っている間、お菓子を堪能することにした。


 ジェシカとグレイに話し合ってほしいから、わざわざ部屋を借りて二人きりにさせた。両者とも目立つため、部屋で食べてもらう方がいいと思ったのだ。ここからでは様子は見えないが、今頃話し合っているはず。二人のためにそのようにしたが、アイリスは気になって仕方ない。


「きっと大丈夫だ。信じよう」

「…………」

「さっきから眉を寄せているが、デニールか?」

「なんで分かるんですか」


 素で驚いてしまう。


「アイリスはジェシカ嬢に対しそんな顔をしないだろう。考えられるとすればデニールの方だと思った」

「すごいですね。それだけで分かるなんて」


 さすがロイだ、と思っていると。

 相手はくすっと笑う。


「好きな人のことだからな。見ていれば分かる」

「っ!」


 思わず顔を下にする。

 さらっというのは心臓に悪い。


「……私、まだグレイのことは認めてないです」

「ジェシカ嬢との仲を?」

「そうです」


 するとロイは声を出して笑い出す。


「親友は手厳しいな」

「実力は認めてますが、こう、男としては認めてないというか」

「俺はいい男だと思うが」

「え!? 顔ですか?」

「いや顔じゃなく……まぁ顔もいいと思うが。不器用なところはあるが真っ直ぐな青年だ。これからもっといい男になると思う」

「…………男性って男性の味方しますよね」

「えっ。そうじゃない時もあるぞ……?」


 アイリスのジト目に、ロイは少したじろぐ。

 そう言われてもアイリスは気に入らない。


「今は完全にグレイの味方ですよね」

「……俺は中立でいたいと思ってる」

「もういいです。ジェシカが幸せになってくれるなら」

「デニールは一途だから大丈夫だろう。リアン殿下への忠誠心を見ていれば、」

「…………」

「すまない」


 さらにアイリスの機嫌を損ねたと気付いたロイは、言葉を止めてすぐ謝る。アイリスはそっぽを向く。もうこれ以上話すことはないとでも言うように。


 するとロイは椅子から立ち上がり、少しだけ手を伸ばす。向かい合っていたのだが、彼の影が近付くのをアイリスも感じた。横髪に触れられたと思えば、今度は頬に手が添えられる。


 口元は朗らかなのに、瞳は真摯で。


「デニールに嫉妬するのもいいが、俺も嫉妬している。こんなにもアイリスに想われているなんて、ジェシカ嬢が羨ましいな」

「……………………」


 アイリスは思わず固まってしまう。

 するとロイはくすっと笑い、手を離す。


「食べるか」

「そ、そうですねっ」


 誤魔化すようにアイリスはタルトタタンに向き直る。美味しいなと言うロイに、アイリスは頷く。実際は心臓がばくばく動いて味どころではない。


(……恋人になったら、もう少し慣れると思ったのに)


 今日は振り回された気がする。

 口にしたタルトタタンは、なんだか甘く感じた。

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