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アンティークショップにて

作者: 瀬嵐しるん


ああ、旦那、おかえりなさい。

待ちかねてましたよ!


え? 何でって?


あれですよ、あれ! 今日売れちまったんですよ。

あの、クマのぬいぐるみ。

本当ですってば。


買ったのは、どんなお客だったかって?


身なりのいい、だけど、苦虫を噛み潰したような顔した客でしたよ。

苦虫を噛み潰したような、ってどんな顔かと思ってたけど。

一目見てわかりました。

ああいう顔の事、言うんですね。


その男、年恰好は中年に見えましたけど。

体型も身のこなしもなかなかスマートで。

……言われてみれば、中年らしいというわけじゃなかった。

ちょっと不思議な男でしたね。


その客が入ってきたとき、あのクマ。

正面に置いていた子供部屋用の白い小さな椅子に、ちゃっかり座ってたんです。

俺が「いらっしゃいませ」と言ったら、お客は「そのクマだが…」と言ってそいつを指差したんだ。


そうなんですよ。

あのクマって奴は、クリスマス時期にショーウィンドーに並べといたって、買いそうな客が現れるとふいっとどっかに隠れちまう。

そのくせ、クマを見つけて入ってきた客は、何かしら店の中から欲しいものを探し当てて嬉しそうに帰っていくんだ。



……クマを指差したお客は、すぐに両手でそっと抱き上げたんです。

あんな小さなクマをですよ。

男の手なら片手で充分だってのに。


「いくらだ?」と訊かれたので「1ポンドです」と答えましたよ。

そうですよ、俺がこの店に見習いで入った8年前から、あのクマは1ポンドだって旦那から言い付かってたんですから。


お客はちょっと考えているようでした。

あんまり安すぎるから、怪しい品物かと疑ってもおかしくないでしょう。


ところが客の様子はいぶかしんでいるというよりも、なんだかクマの機嫌をはかってるみたいだった。

ほら、飼い犬の瞳を飼い主がじっと見てるような。

……というよりも、まるで小さな子供の顔を見てるようだったかな。


しばらくすると「その椅子も一緒にもらおう」と財布を取り出した。

そして「包むのは椅子だけにしてくれ」と言って、クマは片腕に抱えたまま出て行っちまった。



え、待ち人来る? って何言ってんですか、旦那。

あのクマが百年以上も、中年男を待ってたとでも言うんですか?


百年以上?

そういや、俺、あのクマ、一度も掃ってやったことなかったけど。

あいつ、ほこりをかぶってたことなんてなかった。

あの椅子も俺が今朝、特別丁寧に拭いてから、いつもの場所に戻す前にたまたま、あそこに置いたんですよ。

なんとなく、今朝は、そうしたい気分になって……


何、ひとりで頷いてるんですか、旦那?


お茶にしようって? そりゃいいですけど。

え、チャーリーの店のショートブレッド?

早く言ってくださいよ、すぐお湯を沸かしますよ。





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― 新着の感想 ―
[一言]  くま、可愛がってくれるひとに逢えてよかったですね。  お気に入りの椅子もいっしょで幸せに暮らせそう♡
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