どうして無理って決めつけるのさ
黙る。決して強い口調というわけではない。むしろ普段の彼女からしたら優しいくらいだ。
だけど信也は責められているような気がした。
「ごめん」
「?」
隣に立つ姫宮に謝る。なんのことだろうと姫宮は振り返り信也の表情をのぞき込む。
「昨日、注意してくれたのにさ、無視しちゃって。それに今日も朝先に行っちゃったから」
彼女には悪いことをした。あの時もっと彼女の話を聞いていれば慎重になれたかもしれないのに。朝もそれを謝るどころか後ろめたさに逃げ出してしまった。
「もう。それはそうだけど、もう過ぎたことだよ」
しかし姫宮は気にしていない。彼女の心は信也の曇り空と違っていつも快晴だ、正直あまり気にしていないだろうとは思っていたが、だからといって謝らないのも違う。だから謝った。
「私が怒っているのは別のこと」
だが意外な答えに振り返る。
なにを怒っているのだろう、見ると夕日に照らされたオレンジ色の頬をした彼女と目が合った。
「私聞いたよね、ここでなにしてるのって。信也君言ってたじゃん、生徒会を倒すんだって。ランク至上主義を変えるんだって。なのにここで外の景色見ててさ、それでなにか変わるの?」
「それは、だって」
問いに目が下がる。
「知ってるだろ、俺が生徒会に負けたこと。俺には無理だったんだ」
チャンスは掴めず敗北の行き着く先は課題に拘束され身動きのとれない迷宮だ。
「どうして無理って決めつけるのさ」
姫宮の語気が強くなる。無理だと決めつける信也に苛立った表情だ。
「確かに信也君は負けたよ、せっかく私が忠告してあげたのにこれはチャンスだとか言って勝負してさ」
「だからそれはさっき」
「でもだからなに? 負けたらなんなの、それで終わりなの? 失敗したら次はないの? 信也君は反体制派のリーダーなんだよ? こんなところでうじうじしててどうするのさ。信也君に期待してくれた人たちはどうするの?」
「そんなの、もうどうでもいいだろ。みんな俺から去っていったんだぞ? 俺が負けた時真っ先に離れていったじゃないか。みんな好き勝手に俺に期待して、そして失望して消えていった。はじめから仲間じゃなかったんだよ」
励ますでもなく応援するでもない。
「見せかけだったんだ。俺はけっきょく、いまでも一人だけのイレギュラーだよ」
彼ら彼女らがしたのは立ち去るという戦力外通告だ。仲間ができたと思っていた信也にとってそれは悲しい現実だった。
今まで頑張ってきた。それがようやく認められたんだと思えた瞬間だった。嬉しかったし報われたと思えた。
だけど、それが嘘だと知った時、どれだけ悲しい思いをしたか。
「本気でそう思ってる?」
「え」
そう思っていたのだが姫宮は違うとでも言いたげだ。
「仕方がないなあ、信也君は」
「なにがだよ」
それで聞くと同時だった。屋上の扉が再び開いたのだ。
「終わったよー!」
大声と共に大勢の人が入ってくる。
「え!」
その顔ぶれに驚いた。
それは自分のもとを去っていった部長たちだった。それだけじゃない、部員と思われる人たちが背後にずらりと並ぶ。
その手にはみな数枚の課題を持ち信也を見つめている。
「これって」
「見て分かるでしょ、みんな信也君の代わりに課題をしてくれたんだよ」
みんなが持っている紙、それは生徒会に出された課題だ。あれほど大量にあった課題だが反体制派全員で片づければ1か月も要らない。
「昨日机から課題がなくなってたの気づかなかったの?」
「気づいてたけどなくなってるなー、くらいにしか」
「もう」
「それくらい呆然としてたんだよ。改めて渡されるのかなって思ってた」
そこに考えが回らなかった。まさかみんながしてくれていたとは思わなかった。
「私は信也君が頑張ってるの分かってるよ。この学園を本気で変えようとしてる。それはみんなもそう。ここにいるみんな信也君のことを分かっているんだよ。信也君が今まで頑張ってきたことは無駄じゃなかったんだよ」
「無駄じゃなかった……?」




