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そう思っていたのだがそこには先客がいた

「信也君おはよう!」

「おはよう」


 背後から声を掛けながら隣に並ぶ姫宮は今日も太陽に負けない明るさだ。彼女の曇り空なんてほとんどない。


 そっと顔を動かし彼女のことを伺ってみる。昨日あれだけ露骨に避けたのだ、失礼だし不愉快に思われても当然だ。


 だが彼女は彼女、いつもの姫宮だ。


「信也君は数学の宿題ちゃんとやってきた? やらなきゃ駄目だよ、先生困っちゃうんだから」


 挨拶の時もそうだったが話し方も普通で昨日のことは気にしていないようだ。


「まあ、一応な」


 それはそれで不思議に思いつつ信也は顔を前に戻す。


「そうなんだ! じゃあ後で見せてよ!」

「なんでお前がやってないんだよ! 今ちゃんとやらないと駄目だって自分で言ったばかりだろ!」


 落ち込んでいるはずなのに自然と突っ込んでしまう。本当はこんな気分ではないのに。


「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」

「あのなあ」


 彼女の隣にいてじっとしているというのは難しい。あまりにも分かりやすいボケに突っ込まざるを得ないのだ。

 このままでは巻き込まれる。文字通り台風みたいな子だ、避難すべきだ。


「悪いな姫宮、今一人になりたいんだ。じゃ!」

「あ、待ってよ信也君!」


 そう言って走り出す。彼女には悪いが今は心の療養が必要だ。


「もーう!」


 彼女の悔しそうな声を背中に受けつつも学校へと急いでいった。


「ふう」


 教室に入り席に座る。特にすることもないのでそのままなのだがこれでは昨日と同じだ、隣に座る姫宮から逃げられない。


 そう思い席に立つ。しかしどこへ? どこに行こうとも姫宮は追ってくるだろう。では無駄なのかと言えばそうではない。こういう時にぴったりな聖域がある。

 そう、それは女子禁制の聖なるバリア。

 男子トイレである。


「ふう」


 男子トイレの洗面台前で立ち尽くす。個室にも入ろうかと思ったが本当にしていると勘違いされるのも嫌なのでここにした。


 やれやれだ。自然災害に見舞われた時トイレや浴槽に隠れるものだがこれでは本当にそれだ。姫宮はとうとう本物の災害クラスの勢いを身に着けてしまったようだ。


 それはそれですごいことだがさすがの台風娘もここまでは来られまい。信也はスマホを片手にてきとうに時間を潰していく。


 そこで予鈴が聞こえる。このままでは遅刻だ、せっかく走ってまで登校したのに遅刻扱いでは間抜け過ぎる。


 それで信也は男子トイレから出るのだが、そこで足が止まってしまった。

 出てすぐの壁、そこに姫宮が背もたれながら待っていたのだ。


「なにしてんだ?」


 ここは男子トイレだ、女子は人生で一度も用がないはずだが。というか誰も入ってこないと思っていたがもしかしたら姫宮がいるからみんな入りづらかったのかもしれない。


「もちろん、信也君を待ってたんだよ」


 さすがに待ち伏せする台風は想定外だ。


 女子が男子トイレ前で待機することに思うところはないのか、平然とそんなことを言ってくる。


「なあ、強すぎないか?」

「無敵だと思っていいよ?」


 親指を立ててくるが意味が分からない。


「とりあえず予鈴が鳴ったんだ、急いで戻るぞ!」

「もーう! またお話できないの~」

「出来るわけねえだろ!」


 姫宮と一緒に小走りになって教室に戻る。

 それからも姫宮の進撃は止まらなかった。


「信也君お昼一緒に食べよう!」

「悪い、今日も一人で」


 昼休憩も。


「信也君放課後時間ある!? あるよね話をしよう!」

「用事があるから!」


 放課後も。姫宮は何度断っても何度も話しかけてきた。

 用事があるとは言ったものの帰ろうとしたら一緒についてきそうだったので信也は逃げるように教室から飛び出す。姫宮も追いかけてきたがなんとか巻くことに成功する。


 行く当てはなかった。とりあえず一人になれそうな場所を探して校内を走り回る。


 それでたどり着いたのが体育館の裏側だった。人気のない場所を追いかけていたら自然とここに行きついてしまった。わざわざここに来る人もいない。そういう意味では避難場所としてはばっちりだ。


 そう思っていたのだがそこには先客がいた。

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