でもさ、彼のためなら多少の押しの強さはあってもいいよ
驚く友人にさらに姫宮の苦笑いが深くなる。もう笑うのも疲れてくる。
「どうしてそんな」
「そういう人なんだよ信也君は。なんていうのかな~」
疑問に思うのも無理はない。彼はランクAのアークホルダー、普通に考えて超一流、特別な人間であってそんな後ろ向きな考えをするなんて思えない。
でもそれが信也という男の子なのだ。それを姫宮は知っている。
「信也君は誰よりも頑張ってる。すごく努力してる。ちゃんと行動してて偉いと思うよ。ただね、なんていうか、自分はすごいっていう意識はないみたいなんだよね。ここにきてたまたまランクAを得られただけで。元の自分は普通か、もしかしたらそれ以下だと思ってるんだと思う。だから自信がまだなくて、いろいろ傷つくっていか」
「へえー、意外。私が知ってるランクが高い人なんてみんな高慢ちきだよ?」
「そういう意味じゃ特別なんだけどねー」
これがいいことなのか悪いことなのかうまく判断できない。
「信也君には中学時代の友達がいてね、その人がすごい人だったんだ。それと比べてたから自信が持ちづらいのかもしれないけど」
「そうなんだ。でも昔でしょ? 今はアークもあるし頑張ってるんだから気にしなくてもよさそうだけど」
「ほんとそうだよ」
友人に同意する。今の自分なら今の状態や状況で判断すべきだ。それなら彼もきっと気づけるはずなのに。
「じゃあ、教えてあげないとね」
「え」
友人に振り返る。彼女は不敵な顔で見つめていた。
「気づいてないんでしょ、彼? なら誰かが教えてあげないと」
「でも、私も話しかけてみたんだけど断られちゃうんだよね。明日も取り合ってくれるか分からないし」
「うーん」
姫宮も頑張ってみた。何度も話しかけてみた。だけど信也は避けてしまう。話しをしようにもその機会すら与えてくれない。姫宮の話に友人も考え込んでいる。
「でも、いいんじゃない?」
「なにが?」
「そんな気を使わなくて」
塞がっている。そんな風に思っていた姫宮に彼女があっけらかんに言ってきた。
「詩音ちゃん、変なところで真面目なんだから」
「むう~、変なところってなにさ」
頬がフグのように膨らむ。そんな表情に彼女から笑みが零れる。
「だって、普段はマイペースで周りを振り回す勢いなのに。ちゃんと相手の気は使ってるんだなって。だから嫌いな人もいないんだろうけど」
姫宮がはちゃめちゃなのは皆が認めるところだがそれでも嫌いな人は誰もいない。それははちゃめちゃだけど相手が嫌がることはしない姫宮の性格のよさがある。だから嫌がる信也にも無理に話そうとはしなかった。
「でもさ、彼のためなら多少の押しの強さはあってもいいよ。きっと彼なら分かってくれるんじゃない?」
「…………」
気遣いのあまり相手の助けになれないのであればそれは本末転倒だ。本当に相手のためになること。助けになること。それを思うなら伝えるべきだ。手を伸ばし、それが相手に余計なお世話だと思われようと。
「相手に遠慮してるなんて詩音ちゃんらしくないよ。ストレートにさ、もっとガツンと言っちゃいなよ。絶対伝わるからさ」
手を伸ばさなければ、相手を掴むことなんて出来ないのだから。
「うん。ありがと」
「いいってことさ」
隣に立つ友人。彼女のおかげで道が開けた気がする。そんな彼女にお礼を言い姫宮は表情に気合を入れた。
(よし!)
たとえ無理矢理でもいってやる。有難迷惑? 大きなお世話? そう思うなら後悔させてやればいい、助けてくれてありがとうと泣いて感謝させればいい。
「アイドルはみんなを笑顔にする! それを拒むというのなら無理矢理笑顔にすればいい!」
「うーん、それはやりすぎだと思うんだけどな~」
友人の心配は隅に置いておき姫宮は今からやる気を燃やしていた。
*
朝。いつもの登校道。信也は一人歩道を歩いていた。昨日から続く晴れた天気に照らされるものの表情は暗い。
「はあ」
快晴の空気に湿った息が漏れる。胸の中に鉛のような重さがある。
生徒会に負けてからずっとこの調子だ。心が空虚でまるで支えを失った棒切れのような。そよ風でも吹こうものならそのまま倒れてしまいそう。そんな精神状態で正直今は誰とも話したい気分ではない。
「おーい!」
「はあ」
が、そよ風どころか台風のような彼女はそんなささやかな願いすら叶えてはくれないらしい。




