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ごめん、今あまり話したくないんだ

 そう言って信也は走って先に行ってしまう。


「あ……」


 姫宮は足を止めその場に立ち止まる。


 昨日と同じだ。拒絶を色濃く反映した背中。遠ざかっていくのに追いかけることが出来ない。見えない壁が姫宮から前に進む一歩を封じてくる。


 姫宮が歩き出したのは信也の背中が見えなくなってからだった。


 そんな経緯があろうともすぐに顔を合わせることになる。クラスメイトなのだから当然だ、おまけに隣の席だ。


 姫宮は遅れて席に着く。見れば信也はバツの悪そうな顔をしている。こうなることはすぐに分かるだろうに、よほど余裕がなかったのか、こうなれば逃げられない。変な空気になるだけだ。

 普通ならここは気を使って話しかけないのが普通だろう。だがそこは姫宮、時間を置いたのをいいここに顔を近づけていく。


「信也くん、おはよう!」

「お、おはよう」


 あえて明るく絡む。ここはパワープレイだ、元気のごり押しでいくしかない。


「ごめん、今あまり話したくないんだ」


 が、拒絶されてしまった。自分がその気でも相手が違うなら引くしかない。無理強いは駄目だ。


 やはり信也は昨日のことを引きずっている。一夜くらいで治る心の傷ではない。

 それでも姫宮は諦めなかった。


「信也君、一緒にごはん食べよう!」

「いや、今日は一人で喰うよ」


 お昼休憩には誘ってみたり。


「信也君! これからアイドル部に来なよ、君を特別に招待しよう!」


 放課後に誘ってみたり。


「悪い、今日は用事があるから帰るわ」


 信也は乗ることはなく一人先に帰っていった。昨日と同じ背中を見送っていく。


「うん……」


 それに、なにも出来ない。


 姫宮はアイドル部のスタジオがある棟へと移動し着替えを行う。ジャージ姿でスタジオに入り準備運動、みなと鏡面を見ながら振付の練習をしていく。


 練習は楽しい。この時間が自分を成長させ夢に繋がっていると分かるから。みんなと踊るのだって楽しい。演技なんて必要ないくらい自然と笑みが零れる。


 思えば昨日は信也が指導を行ってくれた。指摘は的確で一人一人をちゃんと見てくれていた。なにより良かったのは励ましだ。注意だけでは人は成長しない、もしくが偏ってしまう。真っすぐ進めるように時に激を飛ばし時には褒める。そうしてモチベーションを維持してくれる。インストラクターというのは技術的な指導だけではない、メンタルのケアも重要なのだ。それを信也はきちんと出来ていた。さすがはパラレル・フュージョンで得たコーチだ。


 だというのに本人のメンタルはボロボロだ。全然ケア出来ていない。傷ついて、その痛みから逃げているだけだ。


 あんなに素晴らしい自分がいるのに。それならこの世界の信也だって出来るはずなのに。

 あれでは、よくない。


「姫宮さん!」

「ッ、はい!」


 一瞬気が抜けていた。ダンスの振付で体を動かしているがコーチから注意される。


「動き遅れてる! もっとみんなの動き見て!」

「はい! すみません!」


 すぐに修正する。考え事をしていたため遅れていたようだ。ちゃんと練習に集中していく。

 そうして部活の時間が終わり更衣室で制服に着替える。荷物はロッカーにしまい鞄を肩にかける。これで今日はお終いだ。


「詩音ちゃん」


 そこで声を掛けられた。彼女も着替えが終わったところだ。


「今日なんだか調子悪かったようだけど大丈夫?」

「え、そうかな?」

「うん。いつもより元気がなさそうだったから」


 自分では気づかなかった。だが傍から見れば明らかだったようだ。


「もしかして信也君のこと?」

「まあ、そんなところかな?」


 まさかその理由まで言い当てられるとは苦笑いだ。本当に自分は分かりやすいらしい。


「聞いたよ、生徒会の人たちと戦って負けちゃったんだって? でも相手も卑怯だよね、三体一だったんでしょ? 信也君もそんなの気にしなくていいのに」

「うん。それもあるだろうけど」

「?」


 友人は小首を傾げ姫宮の言葉を待っている。


「信也君、生徒会に負けたのはそうなんだけど、それでみんなに見捨てられたって思ってると思うんだよね」

「ええ?」

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