第四章 宵闇
第四章 宵闇
生徒会室室内。時刻はもう夕方で室内に一人残っていた天王寺は薄暗い部屋の中自身の席に腰かけていた。窓から差し込む夕日の光が差し込み傍らには日本刀が立てかけてあり静寂の一部なっている。
三人は今ごろ信也と戦っているはずだ。生徒会の体制に抗うリーダーとして台頭してきた少年。それを早期に潰しておかなければ今後どんな影響が出てくるか分からない。相手もランクA、油断は禁物だ。
不穏分子はあってはならない。この戦いに敗北は許されないのだから。それが分かっているから天王寺の顔も固い。
しかし、鉄を思わせる彼女の顔がこの時少しだけ崩れた。それは風化した鉄が錆び落ちたような、悲しげで、寂しそうな顔で。
誰にも見せない素顔がわずかに漏れた。
「私は……」
つぶやいて視線が生徒会室内を見渡す。夕暮れの薄暗い部屋に昼間の光景を重ねてしまう。
琉衣が温かい紅茶をみんなに淹れていく。それを時雨は優雅に受け取り口につける。奏音はソファに横になりゲームをしながら感謝の言葉を口にする。深優は壁に背中を預け仏頂面を浮かべながら琉衣の紅茶を断る。
みんなそれぞれに個性があって、仲が良くて、温かい。そんな一見ばらばらな個性をまとめ上げている人を思う。いつも椅子に座って働かず、いい加減なことばかりを口にするお調子者で怠け者。
だけど知っている。いざという時誰よりも頼りになる人だということを。
天王寺は立てかけてあった刀を見る。それを手に取り鞘を優しく撫でる。武器であり敵を倒すための道具。物騒なそれをけれど天王寺は懐かしそうな顔で見つめていた。
それは失ったものを弔うような目で。その後力強く握り目を瞑る。
この戦いは絶対に勝たなくてはならない。絶対にだ。
だが、勝った後になにが残るのか。失ったものは返ってこない。自分が望んだ幸せは手には入れられないだろう。戻ってはこないのだから。
勝利の先にはなにもない。
だけど、だとしても。
天王寺は目を開ける。その瞳にはいつもの鋭さが戻っていた。
この先になにもなくても構わない。空虚が待ち受けていようが関係ない。
思い出はある。それがあるから戦える。
示せ。己が無力でないことを。
誓え。戦い抜くことを。
往け。己が意義を示すため。
何故、私はここにいるのか。
それを、証明する時だ。
*
翌日、いつもの登校道。姫宮は空を仰ぎながら歩いていた。今日もいい天気だ、快晴の青と太陽の光は気分までも明るいものにしてくれる。
しかし恒星の輝きすら霞むほどの彼女の元気は今はなくどこか心配そうな面持ちだった。いつもの明るさは影をひそめ考え事をしている。
彼女が心配していること、それはもちろん信也のことだ。昨日彼は生徒会の四天王と戦い敗北した。普段ならそんな無謀な戦いをするほど蛮勇な性格ではない。だが彼に現れた味方と期待、それに応えたいという気持ちが戦いに前向きにさせてしまった。結果、足元をすくわれ彼は敗走してしまった。
その時の彼はとても落ち込んでいた。ただ負けたからじゃない。みなの期待に応えられなかった負い目もあるだろう。だが一番はそれじゃない。
せっかく現れた味方、頑張っても頑張っても高ランクの嫌味としか受け取ってもらえなかった自分がようやく認められたと思えた仲間たち。
そんな彼らが負けと知るや離れていったこと。
それに、彼は心を痛めていた。
結局、彼らは自分に期待していたわけじゃない。アーク、それが持つ力に期待していただけ。
誰も神崎信也を見ていない。誰も認めていない。見ているのも認めているのも彼のアークだ。
それを知った彼が心配で姫宮は今も晴れない顔をしている。スカートのポケットからスマホを取り出し確認してみるが通話アプリに新着のメッセージはない。昨夜心配のメッセージは送ったのだが既読はあれど返信はなかった。
姫宮はスマホをしまう。それで顔を上げると見慣れた背中があった。
「信也くーん!」
彼だ。彼の姿を見つけられたことにパッと表情を明るくさせ駆け寄っていく。もしかしたら登校してこないんじゃないか、そんな不安が当たらなくてよかった。
それでいつものように明るく声をかけ隣に並ぶ。暗い雰囲気なんて吹き飛ばすほどの元気でぶつかっていく。
が、彼からいつもの明るい声は返ってこなかった。
「ごめん、急いでるからさ」




