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封じられた。今の信也は手錠をはめられた犯人も同然

 信也の表情から察した時雨が自身の髪を指でくるくると遊びながら近づいてくる。


「彼女たちにはここまでの未来はすでに話してあったのよ。瑠衣には君の注意を引くように攪乱すること、華音には手の内を隠し足下が隠れてからアークを使うようにね」


 彼女は無防備なまま近づいてくるが身動きが封じられなにも出来ない。


「言ったでしょ、この勝負はすでに決まっているって。彼女の影が重なった今それは現実になったわ」


 得意げに語る彼女に一泡吹かそうと体を動かそうにもびくりともしない。


「無駄よ新入生、私のドッペルシャドーは物体や人物の動きを完全に止めることが出来る。それこそ呼吸や心臓の動きまで止められるのよ? 大人しくしてることね」


 この技が決まれば生殺与奪を握ったも同然ということだ。

 だが信也としては諦めきれない。この勝負は負けられないのだ。絶対に負けれない。生徒会の支配体制を変えるためにも、みんなの期待に応えるためにも。

 この戦いの結末を見守らんと集まった生徒たち。みなからももう駄目かという表情が浮かんでいる。


 それを、変えなくちゃいけない!


(体の動きは封じられている。だがこうして思考は出来ている。それならもう一度発動すれば!)


 信也は再び魔法を使おうと念じる。エアーで吹き飛ばしてしまえば影も離れる。


「おっとと、そうはさせないんだな~」


 が、発動したエアーはわずかな風を起こしてすぐに消えてしまった。


「アークを発動してもそれを止めちゃえばいいのよ。あんたが何度発動してもそのたびに私が止めるわよ」

(く!)


 華音の制御下ではすぐにキャンセルされてしまう。注文しても届く前に勝手にキャンセルされてしまうようなものだ、これでは魔法も異能も使えない。


 封じられた。今の信也は手錠をはめられた犯人も同じ。


 瑠衣が近づきサバイバルナイフの切っ先を首筋に当てる。


「勝負ありです」


 勝負は、ついたのだ。


「……ッ」


 信也はパラレル・フュージョンを解き元の制服姿に戻る。それでドッペルシャドーから解放され体から力が抜けた。そのまま崩れ両手を地面につく。


 負けた。敗北感に顔は下を向き意気も消沈している。


 信也の敗北に周りからも落胆の雰囲気が漂う。はじめはあんなにも期待を寄せてくれていた部長たちも一人、また一人と消えていく。


「く」


 それが、悔しかった。


「これで分かったわね、信也君。この勝負は私たちの勝ち。君には教室に置いてある課題をしてもらうわ。ま、どんなに頑張っても一か月は掛かるでしょうけど。それを片づけるまではなにもしないでね、なにも」


 最後に念押しの一言を添えて時雨は踵を返す。奏音も「終わった終わった~」と気の緩んだ声を上げながら校舎へと帰っていく。


「ふん」


 敗北を喫し俯く信也。それを冷たい瞳で一瞥してから琉衣は去っていった。勝負が終わったことに観客もぞろぞろと後に続いていく。


「信也君……」


 姫宮はそんな彼を心配そうに見つめていた。彼は失意に溺れいる。それは単に負けただけじゃない。


 周りの反応だ。大きかった期待の裏返し。熱いほどの歓声は氷のような眼差しへと変わってしまった。


 信也は敗北感だけで俯いているんじゃない、傷ついているんだ、周りの反応に。勝負の前はあれほど勝利を押し付けておいて負けたと分かれば去っていく。その身勝手さが彼の心をどれだけえぐっているか考えることもせず。特に部長たちが誰よりも去っていったのも大きかった。あんな反応をされたらショックを受けるのは当然だ。


「信也君」


 姫宮は声を掛け近づこうとする。


「くッ」


 しかしその前に信也は走り出してしまった。


「信也君!」


 呼びかけても止まらない。信也は正門を走り抜け帰ってしまう。


「信也君……」


 拒絶するかのような背中に姫宮は追いかけることが出来ず彼の後ろを見送っていた。

 期待された救世主。希望された革命家。

 けれど現実は変わらず、敗北は夢を破壊した。

 日が沈んでいく。


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