舐めるなよ、本気を出さないで俺に勝てるつもりかよ
瑠衣が動く。執事のような優雅さと凛然とした姿勢から熱い戦意をたぎらせて。
四天王の三人目が信也に襲いかかる。
「私はランクA+空間座標・次元跳躍を発動! 自身と私が触れたものを任意の場所へと移動することが出来る!」
「ランクAプラス!? この人も会長と同じランクなのぉ!?」
「スペースジャンプ、空間転移かッ。ランクAプラスということはこいつもディメンション・エスケープが出来るのかよ」
瑠衣の能力はランクA+のスペースジャンプ。空間を自由自在に転移することが出来る異能。自身や物を瞬時に運ぶことが出来るこの能力は様々なことに使用できる。その汎用性は日常でも戦闘でも有効だ。ランクがAプラスに認定されていることからもディメンション・エスケープも可能。
「まさかランクAプラスとはな」
誤算だった。強いとは思っていたが自分よりも上のランク、それは会長天王寺未来と同じランクということだ。
「ではいきますよ」
瑠衣は鋭い目つきで言うとその手にナイフを握っていた。取り出したのではない。
突然ナイフが現れそれを掴んだのだ。
「空間転移」
彼女の説明にもあった通りスペースジャンプでは自分と自分が触れたものを自在に移動できる。あのナイフは事前に触っていた、それを今自分のいる空間に転移させたのだ。
瑠衣はナイフを握ると切りかかるのではなく投げつける。サバイバルナイフの切っ先が宙を飛び信也に襲いかかる。
が。
「!」
瑠衣の顔に初めて驚きが表れる。
信也は向かってきたナイフを払うでもなく片手でつかみ取ったのだ。眉間に投げられたそれを難なく籠手の手で掴んでいた。
それを地面に放り捨てる。
「たいした能力だがそれだけじゃただの投擲だぜ? そんなんじゃ俺は倒せない」
瑠衣が今し方行ったのは手段がすごいだけだ。空間転移というランクAを用いた攻撃。手段は豪華。しかし結果はただナイフを投げただけだ。やろうと思えば誰でも出来る平凡なものでしかない。
それで破れるソードマスターではない。
「舐めるなよ、本気を出さないで俺に勝てるつもりかよ」
柄を両手で掴み再度構え直す。
「……ふ」
飛んでくるナイフを片手で掴むという普通ならば神業を見せられ唖然としていた瑠衣が表情を引き締める。
「小手調べですよ」
「だと思ったよ」
瑠衣は両手を下ろすとそれぞれにサバイバルナイフを掴む。
「はああ!」
それらを順番に投げつける。それだけではない、すぐに次のナイフを出すとそれも投げつけてきた。ナイフの投擲、それを無限に行ってくる。
凶器の連投に信也も動く。向かってくるナイフをすべて剣でたたき落としていく。弾かれたナイフが信也の足下に散らばっていく。
それらのナイフは姿を消し再び瑠衣の手元に現れる。ナイフは瑠衣の手元と信也の足下を循環していく。
残弾無限のナイフを投げつけてくる瑠衣の攻撃は強烈だ。それをすべていなしている信也も流石だ。瑠衣の攻撃はすごいがやっていることは少女がナイフを投げているだけ、剣の達人であるソードマスターとは比べものにならない。
だから瑠衣は工夫する。この能力はなにも武器を投げるだけじゃない。
瑠衣は自身の姿を消し信也の背後に回り込む。相手の死角からナイフを投げてきたのだ。
これはただの少女の一撃ではない、空間を駆ける奇襲攻撃だ。
背後、側面、時には頭上から。思わぬところから、突然ナイフが飛んでくる。
「ち」
直感と身体能力でそれらに対処していくが信也の表情が嫌そうに歪む。会長の時も思ったがディメンション・エスケープ持ちは奇襲をしてくるから質が悪い。
縦横無尽の空間転移は奇襲と攪乱を同時に起こし相手を苦しめる。
瑠衣の攻撃の手は止まらない。信也の背後に転移、そこからナイフを投げる。すると時雨が顔を右に傾けた。投げられたナイフを信也は急いで振り返り剣で弾く。そのナイフは時雨の顔面すれすれを通っていった。
瑠衣の攻撃が続いているがこのままではじり貧だ。
信也も動く。一気に間合いを詰めるため足に地力を込め地面を踏み込む。
「くるわ!」
その直前時雨が叫ぶ。
信也は走り出した。まるで突風、強烈な突進はしかし事前に時雨から教えられたため瑠衣は転移した後だった。信也の攻撃は空振りに終わってしまう。
「くそ」




