やる前から勝負は決まってると言われてはいそうですかっていう未来があるのかよ
彼女の言葉に眉間に皺ができる。
「ふふ」
時雨は不敵に笑うと、信也にビシッと指を突きつけた。
「私はすでに、アークを発動してたのよ!」
「アークをすでに発動していただと!?」
「なんだってぇえ!」
彼女の言葉に信也と姫宮が驚く。
「私はランクAアーク、近未来・観測を発動していたのよ。これによってこれから起こる一時間以内の未来はすでに観測済み。君がどう行動するかも知っているということよ」
近未来観測。それは文字通り一時間以内の未来の光景が見えるというもの。それを使えばこれからなにが起こるか、自分がどう行動すればいいのかが分かる。当然信也がどう行動するのかもだ。
「未来は可能性の集合体。よって望む未来を引き込むためにどんな行動を取ればいいのかいくつものヴィジョンを視てシミュレーションしないといけないんだけれど、それがさきほど終わったわ。私たちがこうして君の前に現れた、その時点で勝負はついているのよ」
「そんなバカな」
彼女は未来が視える。逆説的に彼女が勝負を仕掛けてきたということは勝てる未来を知っているからだ。
よって、この勝負の結末はすでに決まっている。彼女たちの勝利、信也の敗北だ。
が、そんなこと納得できるはずがない。
「やる前から勝負は決まってると言われてはいそうですかっていう未来があるのかよ」
「ないわね。五六の未来は視たけどそれはなかったわ。でも君の敗北する未来シナリオは発見した。あとはその通りにするだけよ」
本当か? 信也の中で疑念が膨らんでいく。彼女の言っていることが本当で自分の負けがもしかしたら決まっている、そんな不安に襲われる。
(駄目だ、弱気になるな俺)
暗い感情を追い払う。口ではどうとでも言える。戦いはまだ始まってもいないのに弱気になっていては勝てる勝負も勝てない。
「如何に未来が視えたところで俺の攻撃に対処できるかどうかは別問題だろ。相手がストレートを打ってくると分かっていてもプロのボクサーの攻撃を素人の体で躱せるものじゃない。あんたのアークは予測可能回避不可能の欠陥品だ」
「はあ」
未来が視えても問題に対処できなければ意味がない。そう思って言ったのだが彼女は呆れたように大きく息を吐いた。
「いるのよね、異能やアークの能力を聞くとなぜか戦闘の、しかも一対一を条件として評価したがる人って。そんなに異能の戦闘能力って重要かしら。どれほど相手を倒す能力が強くても日常生活で使えないなら普通いらないと思うんだけれど」
「あんたの能力は便利だって言いたいのか?」
「それはそうよ。こう言ってはなんだけど、私はこの能力を得てからテストで百点以下を取ったことがいの」
「卑怯だろうが!」
「いいじゃない、そういう能力なんだから」
一時間後に配られるテスト内容を視てから教科書を開けばそれで十分。一夜漬けならぬ浅漬けだ。しかし本人も後ろ暗いのか恥ずかしそうに頬が膨らんでいる。
「それだけに制約も多いんだけどね。テスト内容を他人に教えるのは駄目だし。それに株や投資も禁止されてる。もし自身や他人も含めて投資を行えば厳罰対象だって釘を刺されたわ。残念」
「なるほど」
未来が視える。それが一時間だけだったとしても他人の知らない情報を一方的に知れるのだから圧倒的アドバンテージがある。今後を予測して利益を出す投資ならそれはもう神にもなれる能力だ。労せず大金を持続的に獲得できる能力なだけにそれを禁止されてしまうと苦しい。本当に残念だ。
「それに、あなたの言った予測可能回避不可能ってやつだけど、それも条件によりけりじゃない? 確かに私はただのか弱い女性。そんな剣で襲いかかれたら未来が視えていてもひとたまりもない」
「だから私がここにいます」
「そういうことかよッ」
三対一での戦い。それは単に優位に立つためだけじゃない、もっと具体的な理由があったのだ。
「だから先に言っておくわ。この勝負、私たちが百%勝つ」
時雨一人では予測できても対処が出来ない。他の二人では戦えても未来が視えない。
すべて合わさって勝利が完成するのだ。だから三人同時に勝負を挑んできた。
「それじゃあ手筈通りにね」
「了解です」
「は~い」
時雨を後方に琉衣と奏音が前に出る。鋭い視線とやる気のない瞳が立ちはだかる。
来る。生徒会四天王、その三人が。イレギュラーを排除するために全力で掛かる。
「理屈は分かった。だけど俺は諦めないぜ、俺は最後まで自分の可能性を信じてみせる!」
「それを悪足掻きと言うのですよ」
「好きに言え、俺が信じるのはお前ではなく俺自身だ!」
戦意を高める。相手にどう言われようと関係ない。自分の未来を作るのは自分だ、他人が決めることじゃない。
「なら教えてあげましょう」
「こい」




