並行世界の自分しかコピーできないのであればそれは自分の限界までしか引き出せないということです
多くの期待とわずかな心配、そんな空気感に包まれながら信也は三人を見る。印象は三人とも様々だ。正面に立つ藤原時雨は副会長ということもあり落ち着いている。話し方も穏やかではあるが自分の意見を曲げず主張する芯の強さもある女性だ。侮れない。
信也から見て右側に立つのが宍道琉衣だ。口数は少ないが彼女が最も敵意を感じる。言われなくとも目で分かる。自分を見る鋭い目つきが口ほどに自分を敵だと言ってくる。彼女が最も分かりやすく警戒すべき相手だ。
それで左側に立つ女の子が小笠原奏音。この中の誰よりも小柄でストライプ柄の長靴下ということもあり彼女は幼く見える。今もつまらなそうな表情でゲーム機をいじっている。この子は誰よりも異質だ。まずやる気を一切感じない。なにより幼すぎる。
「なあ、別に有利になりたいとかじゃないんだが君はこの戦いからは抜けていいんじゃないか?」
「は? なんでよ」
「なんでって」
ゲーム機から目だけを信也に向け見上げてくる。こうして対話してみても彼女が兵士とは思えない。戦闘要員でもない、戦う気もない。巻き込まれたも同然だ、心配してしまう。
「俺たち今から戦うんだよな? 子供は危険だろ」
「子供ぉお!?」
信也なりに気遣ったのだが怒鳴り返されてしまった。
「誰が子供よ、新入生。先輩に対して礼儀がなってないやつね!」
「先輩!?」
今度は信也が大声で返す。衝撃の事実だ。
「まさか飛び級……?」
「そんな制度あるわけないでしょ! 私も琉衣と同じ二年生よ」
「二年生!? 年下かと思った」
「あ、り、が、と! てかあんた一年なんだから年下なんているわけないでしょ!」
「だからなんで小学生がいるのなかって」
「小学生!? ほんっとにこいつは、コテンパンにしてやるわ!」
「あら奏音ちゃん、落ち着いて。あとでお姉さんが飴買ってあげるからね」
「ムキー、どいつもこいつもぉ~」
敵と味方からも煽られ奏音はぷんぷんだ。そんな彼女を見て時雨は面白そうに微笑んでいる。
「ここは私がやります」
「あっそ、じゃあお願い。私ゲームしてるから終わったら教えて」
やる気を出した奏音を制し琉衣が前に出る。ようやくのお出ましだ。彼女とはまだ話をしていない。
「神崎信也。ランクAという恵まれたアークを持ちながら体制に反抗する危険分子。あなたの存在は我々にとって邪魔でしかない。会長の命、深優に代わって私が果たします」
「そういうことかよ」
はじめから彼女は信也を見る目がきつかった。その理由が判明する。
「ようやく喋ったと思ったら仇討ちか。仲間意識が強いんだな、他人なんて思いやる心玄関先に置いてきたかと思ってたよ」
「必要なことをする。そのために犠牲は厭わない。我々は会長のもと信念と覚悟を持って挑んでいるだけです」
「言う側は楽だよな、される側はたまったものじゃないと思うぜ?」
「それでも必要なことです」
信也と琉衣の視線が激突する。彼女の決意は固い。ここで話し合っても平行線だ。
ここは、異能で決着を付けるしかない。
「なら、俺も自分が思った必要なことをするよ。自分の信念でね」
「どうぞ」
「…………」
「…………」
無言の睨み合い、緊迫した空気が張り詰めていく。二人に触発されて周りの観客も息を飲む。
そんな中ゲーム機のピコピコ音だけが響いていた。
「……はっくしゅん」
姫宮のくしゃみも鳴る。
「いくぜ! 俺はランクAアーク、並行世界・自己融合発動! 平行世界の自分の能力をコピーする。こい、ソードマスター!」
全身の発光の後信也を近未来の鎧が包んでいた。赤を主色とした複合プレートの鎧、腰に差した鞘から剣を抜き三人に構える。
「ふうん」
信也のアーク、一瞬で変身した姿に時雨が声を漏らす。
「見た目も変わるっていうのはいいわね、派手さがあるしパフォーマーとしてもいいんじゃない? もちろん実用性も高いんだけど。汎用性、という面では一番じゃない?」
「しかし限度はあります。並行世界の自分しかコピーできないのであればそれは自分の限界までしか引き出せないということです」
「その通り。残念だけど君ではそれが限界なのよ。私たちを一度に相手にして勝てるような君は平行世界といえどどこにもいない」
「そんなのやってみなくちゃ分からないだろ」
「いえ、分かるわよ。すでに視たもの」
「みた?」




