話すとちょっと長くなるかもしれないわね
信也の指導にみんなも真剣だ。最初はどこか珍しいランクAということに浮いていた空気はもうどこにもない。
「いいぞ! よくなってきた! この頑張りはこれから先で絶対生きてくる。無駄な時間なんて一つもない。どんどん自分が輝いていく、どんどん自分がかっこよくなっていくぞ!」
時には叱り、時には励まし、そして時には誉める。見る目も確かだが口がうまい。指導とは人を導き人を成長させることだ。
だからダンスに詳しいだけでは駄目だ、人がどうやったら自ら頑張ろうとするか、その人のやる気を引き出すコミュニケーションもトレーナーには求められてくる。
ダンスの知識と人の心、その二つが合わさってはじめて一流のトレーナーだ。
信也の指導のもとアイドル部のみんなも頑張っている。
信也も真面目に声をみんなへと掛けていくが、その目はついつい姫宮へと寄ってしまう。友人だから気になるというのも正直あるが、それよりも彼女の動きが目に入る。
上手い。今の信也が見てもそう思う。全体的にレベルの高いここにいてその上手さは目立っていた。今までよっぽど頑張ってきたんだろう。
元気よく、笑顔で踊る彼女の姿を見て信也の口元がふいに持ち上がる。
「あら、今日は特別講師がいたなんて知らなかったわ」
「部長!」
部屋に現れた三木島にみんなが振り返る。信也も部屋の入り口を見た。
金髪の美少女、プロアイドルの風格を漂わせ三木島が歩いてくる。部員はお疲れさまですと挨拶をしていく。
そんなみんなに三木島も気さくにお疲れさまと答えていた。とても親しげで上下関係はあっても固い感じはぜんぜんしない。
それで三木島が信也の前に立つ。
「久しぶりね」
「いや、えっと」
なんと言えばいいのか困る。それにこの状況をどう思われるか。
「ふふ、そんなに身構えないでよ。こっちまで緊張するでしょ」
「ご、ごめんなさい」
「ふふふ、調子狂うわね」
そう言いつつも三木島は嬉しそうに笑っていた。
「三木島さーん、おっつかれまでーす!」
「はいはい、姫宮さんもお疲れさまね」
そこへノリノリの姫宮もやってくる。
「今日も元気ね、私は疲れ気味だから羨ましいわ」
「そりゃあもう、元気なのが私の取り柄ですし!」
「信也君はよく姫宮さんと一緒にいるみたいだけど大変じゃない?」
「まあ、退屈はしないですね」
「それは間違いないわね」
共通の話題にようやく信也も笑えた。そんな二人に姫宮が「なんだかひどい扱いをされている気がするんですけどー!」とプンプンしている。
「それで、今日はどういう内容? まさか君がアイドル部の練習を見てくれるなんてね」
「まあ、成り行きで」
「成り行き?」
それで信也はこれまでのことを説明した。三木島は納得したように頷く。
「そう、そういうことだったの。わざわざ来てもらったのに悪かったわね」
「いや、そんなことは。それに俺もここに来てよかったです。誤解が溶けたというか、安心しました」
「それはよかった。あんな最後じゃ悲しいなって、私も思ってたから」
こうして話をしていると彼女も普通にいい人なんだと思う。最初は衝突したけれど仲良くなれたことが信也も嬉しい。
「とりあえず俺の出番はここまでだな」
「あら、せっかくなら私も教えてもらおうと思ったのに」
「いや、それは。三木島さんの立場もあるだろうし。俺はここまでにしておきますよ」
それで信也はパラレル・フュージョンを解いた。もとの制服姿に戻る。ここで部長を差し置いて部外者の自分が偉そうに指示するのは違うと思ったのだ。
「それは残念。また機会があったらお願いするわ」
「ははは。分かりました。その時は」
「そういえば三木島さん、生徒会の会議はどうだったんですか?」
「そうだ。なんでも部長全員が集められたんですよね? どんな話だったんですか?」
「ええ……」
「?」
姫宮が質問すると思い出したように三木島の表情に陰が差す。いったいどうしたのか心配になる。
「話すとちょっと長くなるかもしれないわね」
「それじゃ一旦休憩にしますか? キリがいいっちゃいいし」
「うん、そうだね」
「ならそうしましょうか」
ダンスの練習は休憩にし三木島の周りに信也、姫宮、あと数人のアイドル部員が集まる。いったいどんな話し合いがされたのか。
三木島は生徒会での出来事を話した。
「実は、生徒会長がね。部長は全員生徒会に入れって、突然言ってきたのよ」
「は?」
「え、部長がですか?」
「ええ」
当の三木島もまだ納得できていないというか、整理しきれていない感じだ。




