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プロアイドルだしやっぱり忙しいのかな?

 生徒会長室を出た瑠衣はうやうやしく頭を下げ扉を閉める。その後顔を上げ立ち去ろうとする。


「深優」


 と、そこには先ほど出て行ったはずの深優が立っていた。廊下の壁に背もたれ校内だというのにフードをかぶり相変わらず両手はポケットに入れている。


「私になにが御用でしょうか」


 彼女にはどこか人を寄せ付けない雰囲気がある。口数が少ないというのもあるかもしれない。加えて刺すような目つきも当てはまる。本人は意識しているわけではないだろうが。切れ長の瞳は美人の部類で赤い髪もきれいなのにそれをフードで隠しているのは勿体ない。


「琉衣」

「はい」


 たとえるなら彼女は一匹狼だ。一人で生きていくという気概が他者を寄せ付けない空気になっている。


 そんな彼女から話というのは珍しい。


「あんたはどう思ってる? 会長の言う今後について」

「全部長の強制参加ですか?」


 部長の生徒会への強制参加。強引なんて方法ではない。多数の不満を内包したこのアカデミアがなんとか平穏を維持していられるのはランク至上主義の恩恵があるからだ。雑多な者たちの不平不満も上位階級の特権で打ち消せる。彼らがアカデミアを支持していれば学園は安泰だ。


 しかし、実質部活動を行っている者すべて生徒会委員にする今回の方策はあまりにも押し付けが過ぎる。これでは低ランクだけでなく部活動に入っている上位のアークホルダーも反発するだろう。


 アークアカデミアのバランスが崩れるのは必至だ。


「それもあるが……」


 だが、深優の心配はこちらではなかった。目線は逸れ表情が陰る。それで琉衣はもう一つの方かと気が付いた。


「敵、のことですが。正直に申し上げて半信半疑です。まだこの目で見たわけではありませんので」

「当然だな。でもなんでかな、私はあいつが嘘を言っているようには思えなくてさ」


 深優の言い方はどこか優し気だった。そこには思いやりがある。


 琉衣は知っている。普段一人を好む彼女が未来にだけは優しい面を見せる。どこを気に入ったのか、深優は未来を信頼し、そして彼女のために行動していた。


「あなたは最初からそうでしたね。それで、私に話というのは」

「事実がどうであれ、私たちの計画に支障があるわけにはいかない。イレギュラーなんていらないんだよ」


 その言葉に琉衣の目がわずかに細められた。


「戦うつもりですか? 会長と引き分けたのですよ?」

「知ってるさ。だったら逃げるのか?」

「…………」


 眉をひそめる琉衣と真っすぐに見つめる深優の視線がぶつかり合う。琉衣は心配からだったが深優の決意は固く、フードの下には真剣な表情が浮かぶ。


「紫雨さんはイレギュラーが反対派を率いて私たちと戦うと言っていた。なら衝突は不可避だろう。先手は打つべきだ。だが、あんたが言った通り相手は強い。私では負けるかもな」

「深優」


 が、その一言に軽い衝撃が走る。彼女は馬鹿でも無謀でもない。それでも戦いに赴く気だ。負けるかもしれない敵を相手にして。


 それも、天王寺未来のためだ。


 深優はフードを脱いだ。ショートカットの中間ほどの長さの赤い髪が現れる。彼女は結果までは保証できないとし、そのための保険を琉衣に頼んでくる。


「その時は、あんたが引き継いでくれないか?」

「……どうして、あなたがそこまで?」

「なんでかな。言ったろ」


 すると、はじめて深優が小さく笑った。気恥ずかしそうに、この時だけは鋭い視線はなくなり、頬が少しだけ緩んでいた。


「あいつが、嘘を言っているようには思えないんだよ。それに不思議とさ、守ってやりたくなるんだ。あいつ、いっつも一人じゃんか」

「深優……」


 彼女は優しい。雰囲気は見かけだけで、彼女の性根はとても温かい。それを琉衣は感じていた。


「馬鹿みたいだよな、私の方がランクは下だってのに。思い上がりだって私だって思うのに。不敬だって会長に伝えるか?」

「いいえ」


 琉衣は顔を横に振る。これほどまで会長を思っている人を不敬だなんて思えない。


 真田深優は私たち生徒会役員の一員。一匹狼の、心優しい大切な仲間だ。


「あなたの意向は分かりました。その時はご安心を。健闘を祈ります、深優」

「ありがとな」


 そう言うと深優はフードをかぶり直し踵を返していった。廊下を歩き出す。その背中を仲間に見守られながら。信頼できる仲間がいることに深優は小さく笑った。


 だが、持ち上がった口元はすぐに引き締まる。瞳には鋭い戦意が宿り、目の前の虚空を睨みつけていた。


(イレギュラー、なぜこの時期に現れた)


 他の者では知る由もないが、今、生徒会は転換期を迎えようとしている。重要な時なのだ。そんな時に限って異常事態イレギュラーなんてあってはならない。


 深優は歩いていく。その胸に静かな闘志を宿しながら。

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