なんだろうね、部長全員が生徒会室に集まるなんて
これが生徒会四天王と呼ばれる四人の少女たち。各々特徴があって性格もバラバラ。そんな彼女たちをまとめているのがここの長、天王寺未来だ。
「それで会長、私たちを招集した理由とそのお話をそろそろ聞かせて欲しいのだけれど」
紅茶を飲んでいた副会長である紫雨が話を振る。カップを上品にお皿に置き会長へ振り向いた。
「そうだな」
未来が椅子を回し正面を向ける。紅茶を机の上に置き鋭い目が四人を捉える。
「今回集まってもらったのには二つ理由がある。イレギュラーこと神崎信也の対応と生徒会の組織拡大についてだ」
全員に紅茶を配り終わった琉衣が会長の背後に立つ。
そこで会話に参加してこなかった深優が口を開いた。
「派手にやったわね、噂になってるわよ」
「知っている」
今朝起きた会長とイレギュラーとの戦いは雷鳴のように学園内を走り抜けた。噂は噂を呼び尾ひれまで付いた話がどの学年でも話し合わされている。無理もない、もしかしたらこのアカデミアのあり方が変わっていたのかもしれないのだ。そしてなぜそれほどの危険を冒してまで会長はイレギュラーを生徒会に入れようとしたのか。その推測が主な話題だ。
奏音はゲームをしながら話に割ってくる。
「そりゃあ、会長が戦ったとなれば話はそれで持ち切りでしょうよ。なにをそんなに焦っているのよ会長」
ピコピコ音を出しながら遊んでいる奏音に緊張感は一切ない。代わりにフードの少女深優が目を開け未来に顔を向ける。
「近いのか?」
緊迫した問いだった。それだけ重要ななにかを確認している。
「……それが二つ目の理由だ」
それが分かっているから未来の表情も固い。口調は重く、真剣な声で話す。
「もうすぐ、やつらがくる。だが、わが校生徒会の態勢は万全とは言い難い」
「私たちでは足りないのか?」
「足りんな」
深優の確認をばっさりと否定する。
「まだまだ高ランクのアークホルダーが必要だ。そのためにはイレギュラーの存在は無視できん。懐柔するか、統制を乱すようならば排除するしかない」
ランクA、神崎信也。なにをするにしても彼を味方にできるのは大きい。そうでないなら大きな邪魔になる。紫雨は考えるように小さな顎に手を当てた。
「もっとも効果的なのは味方になってくれることでしょうけどね」
「まだ見えないのか?」
「ごめんなさい、そこまで先のことはまだ。彼のことは視えづらいのよ」
「仕方あるまい」
副会長の紫雨は申し訳なさそうに言い未来は話を次へと進める。
「我々には時間がない。急造でも戦力を増すべきだ。よって、全部活動の部長には生徒会の役員となり我々の傘下に入ってもらう」
その言葉に四人が振り向いた。大小の差こそあれ衝撃が走る。全部長の強制参加。それは生徒会の支配下に置かれることも同じだ。生徒会がやれと言われればやるしかなく、自由なんてない。そんなことをすればランク至上主義のアカデミアであろうが反対派が出るのは火を見るよりも明らかだ。
「ちょっと会長。それ本気で言ってるの?」
「無論だ」
「反発する人も出るでしょうね、どうするの?」
「潰す」
奏音や紫雨から疑問の声が挙がるが未来は気丈に答える。揺れない瞳と心は強い。だが、それはあまりにも強引だ。
「それはそれは。豪快なことで」
「不服か、紫雨?」
副会長である紫雨からも皮肉った言い方をされてしまう。それを咎めるが紫雨は飄々とした態度で立ち上がる。
「いいえ、従うわ。だってそうでしょう?」
未来には紫雨の背中姿が見える。ベージュ色の後ろ髪の向こう側で彼女がどんな顔をしているのかは分からない。
「ここはランクがすべてのアークアカデミア。あなたがここでは一番なのだから。やれと言われればやるわ」
けれど分かる。彼女が快く思っていないことは。話し方は嫌味にも聞こえる。普段はそんなことはないのに、この時ばかりは未来の強情な態度にせめてもの抵抗をしてくる。
そんな彼女が、未来に横顔だけで振り向いた。
「私たちにあるのはランクの優劣のみ。あなたがそうしたのよ、未来?」
その顔は笑ってなどいなかった。いつもはどこか微笑み穏やかな彼女が。笑顔は陰り刺すような目が会長を見つめる。
そこで未来の背後に控えていた執事姿の琉衣が口を開く。
「副会長、少々言い過ぎでは?」
「あら、ごめんなさい」
「いい、琉衣。控えろ」
「はい」
紫雨を見ながら未来は片手を上げる。それで琉衣は口を閉じた。
「それじゃあ行くわね。ごちそうさま」
紫雨はそのまま背を向け扉へと歩いていく。止める者はおらず彼女は扉の取っ手に手を当てた。
「紫雨」
「ん?」
そこへ未来が声をかけ彼女の手が止まる。
「なにが視えた?」
「…………」
彼女の質問に紫雨はすぐには答えない。答えを躊躇っているのか、沈黙を置いてから答えた。
「大勢の怒り、反発の声。そして、それらを束ねる一人の少年」
それはこれから起きるよくない未来だ。この学園はさらなる修羅となり力と力がぶつかり合う。ここでは正義も正論も意味がない。力だけが己を支え、己が世界を変える。
それを視た。紫雨は肩から力を抜き、悲しそうに聞いてくる。
「大きな波がくるわね。その覚悟はあるの、未来?」
近い将来、ここへ大きな波がくる。台風がやってくる。でも本当は違う。やってくるのではない、自ら起こすのだ。台風の目となり大きな災いをもたらす。
そうまでして、そこまで自分を陥れてまでするのかと紫雨は胸を痛めているようだ。
「そんなもの」
なぜ彼女が、そこまでしなければならないのか。
その問いに未来は答える。変わらない厳かな態度で。
「一年前から出来ているさ、とっくにな」
彼女は変わらない。その意思が揺れることはない。鋼のような決意が全身を覆い彼女を一つの信念と化している。
彼女は強い。
「ならよかったわ」
けれど、悲しい。
紫雨はそう言って出て行った。鎧ばかり着込んで中身は打ち明けてくれない。そんな寂しさを感じているように。
「会長」
琉衣が声をかける。止めなくてよかったのか。そう思ったからだ。
「みなも下がれ。今日の役員会議はこれでまでだ」
だが未来は気にせずみなを帰らせた。伝えるべきことは伝えた。あとは各々やるべきことをやるだけだ。
「そう、それじゃお疲れ~」
会長の言葉にゲームの電源を切り一足先に奏音が出て行く。深優も壁から離れ無言で扉へと向かっていった。琉衣は会長に正面を向けると小さく頭を下げる。
「失礼します」
そうして踵を返しみなは出て行った。
ここには未来一人だけが取り残される。まるで一人の王様のように。家臣にも民にも背を向けられて。だというのになにをしたいのか。これ以上自分を嫌われ者にしてまでなにをしようというのか。
覚悟があるか、そう聞かれた。大きな怒り、反発の声。それはこの身を貫くだろう。
だが、たとえそうだとしても止まらない。
未来はすでに決めたのだから。
示さなければならない。己が無力でないことを。
誓った。戦い抜くことを。
往くのだ。己が意義を示すため。
何故、私はここにいるのか――
今度こそ、勝つためだ。




