私に敗北はない
そもそもこのランク至上主義、誰が自分よりも上のランクで下のランクか分からなければ成立しない。それを可能とし助長させているのがこのシステムというわけだ。
「そうしたことからアークホルダーは自分の異能を隠さない。むしろ自慢したくて仕方がないのさ。誰もかれも特別に憧れた者たちだからな。そういった側面があるためアークホルダー同士の戦いでは己の異能を宣言するのが慣習となっている」
「そうだったのか」
知らなかった。確かに戦いとなれば異能は切り札だ。わざわざ見せる必要なんてない。使う時まで隠すのが普通だ。
「え、信也君知らなかったの? じゃあなんで言ってたのさ?」
「なんとなく」
「くだらん」
信也の姿勢を未来が侮蔑した目で見てくる。
「お前にはアークホルダーとしての自覚が足りん」
「間違った姿勢なんてする気ないんでね」
「愚かだなイレギュラー。これは洗礼だ、異能学園の現実というものを教えてやる」
未来は刀を鞘に納め構える。それは居合切りの姿勢だ。彼女そのものが一つの真剣になったかのような鮮烈とした雰囲気を放つ。
「私のランクA+『並行世界・次元跳躍』は並行世界を自由に行き来すること。これにより私は別の世界線に行くことができる。お前の攻撃は空振りに終わったわけだが、それは私が別の並行世界に行っていたからだ。お前が並行世界を飛び越えられない限り私を傷つけることはできない。よって」
刀が音を立てる。未来は一拍の間を置き信也に逆らえない事実を叩き付ける。
「私に敗北はない」
並行世界・次元跳躍。並行世界移動を用いることで自由に姿を消すことができる。これこそが次元回避。相手の攻撃を受けないのであれば負けることはなく、自分は好きなタイミングで攻撃することができる。
「そんな……」
姫宮が不安そうにつぶやく。
強いはずだ。これはいわば間合いの話だ。剣よりも槍や強く、槍よりも弓の方が強く、弓よりも銃の方が強い。戦闘における間合いのファクターは重要だ。相手の攻撃が届かない位置から一方的に攻撃できるのだから勝てるに決まっている。この点が重要視されるためランクAにはプラスがある。
「なるほど、それがあんたの論理的回答ってやつか」
種は分かった。強いのも納得できる。負けないというのが厄介だというのも実感した。
「だが、それで勝敗まで決めつけるのは気が早いぜ。来いよ、まだ始まったばかりじゃないか」
「その減らず口も一分持たないさ」
未来の姿が消える。信也は目つきを細めた。並行世界移動を用いた疑似空間転移。これは回避にももちろん有用だが攻勢にだって転用できる。こうも姿を消されては手出しできず、同時に――
「く!」
未来が右側から現れた。すでに突進しており勢いのある攻撃をしかけてくる。信也は反射的に剣を振るいそれを受け止めた。すぐに反撃に転じようとも未来はまたも姿を消してしまう。
「くそ!」
苦しい状況に忌々しく悪態を吐く。
未来の能力は回避だけでなく同時に奇襲にも向いている。姿を消し間合い関係なしに攻撃してくるのだ。
無限のヒットアンドアウェイ。攻撃と回避が一体となった戦闘を仕掛けてくる。
「はっ!」
「ち!」
今度は背後から襲い掛かってきた。出てきてから反応していたは遅い。信也は出る前から振り向き攻撃を防ぐ。それはもはや直感だ。反射を超えた第六感が信也の命綱になっている。
攻撃を二度防がれた未来だが手を休めることはない。むしろ攻撃の速度が増していく。刀を振るっては姿を消し直後別の場所から斬りかかってくる。高速の連続攻撃、しかもすべてが予測不可能。
「うおおおお!」
それを、信也はすべて防いでいた。剣がぶつかる音が周囲に響く。まるで鍛冶場のように鉄と鉄が衝突する音が止まらない。
攻めと守り。未来は圧倒的優位から攻め立て信也は絶対的な身体能力で防ぎ切る。
この攻防に両者の顔が引きつっていった。
(早い! 常に奇襲してくるっていうのは精神的にきつい。それにすぐ消えるヒットアンドアウェイのせいで攻撃が当てられない。どうする!?)
(攻めきれないだと? 勘がいいというわけではないな。空間把握能力? それとも未来視か?)
未来の刀を信也が弾く。未来はその場を離れ距離をとった。
「ここまで私の攻撃を防いだのはお前がはじめてだ」
「だろうな。たくさんいなくて安心してるよ」
「だが次はない」




