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生徒会編 プロローグ

プロローグ


 示せ。己が無力でないことを。

 誓え。戦い抜くことを。

 往け。己が意義を示すため。


 何故、私はここにいるのか――


 晴天の下、アークアカデミアの校庭には数千人もの生徒が並んでいた。ランクの高い者も低い者も男女も学年も関係ない。

 毎週月曜に行われる全体朝会。ここでは皆が同じく地面に立っている。


 だが例外もいる。屋上には彼らを見下ろす白の制服を着た生徒たちがいた。


「全校生徒諸君、アークを授けられし我が同類たち諸君、異能を手に高みを目指す同志諸君」


 その一人、少女は威厳に満ちた声でみなに語りかける。校舎屋上という場所から地に立たせた者すべてを見下ろして。時折吹く風にスカートの裾と黒の長髪を翻しその者は言う。


「私は生徒会長、天王寺未来てんのうじみらいである!」


 彼女こそ、異能学園アークアカデミアで頂点に君臨する者。学園を統括管理する生徒会の絶対者。


 天王寺未来。腰まで伸びた滑らかで艶のある髪。その姿勢は姫と称すには厳格な態度だ。まるで君主。白の制服を軍服のように着こなし双眸は鋭く細められ強い意思を感じさせる。背筋の伸びた姿勢には自信と覇気が宿りその手には刀が握られていた。黒の鞘に納められた日本刀を床に突き立て白い柄に両手を乗せる。


 校舎の屋上では十数人が生徒会所属を示す白の制服を着て並んでいた。みな表情は険しく特別を有するアークアカデミアでさえ彼ら彼女らは他とは違う雰囲気がある。


 その中で異彩を放つ五人の少女たちがいた。二段目に四人の女子が並び、一人は微笑み、一人は静かに、一人は厳格に、一人は退屈そうに立っている。四者様々な表情を見せているが共通して別格の雰囲気がある。


 そして、最上段に天王寺未来が孤高の如くそびえたち純白の制服と黒の長髪をなびかせていた。


「アークを持つ者たちよ、お前たちに問う。力とはなにか」


 彼女は星だった。天高く輝く一番星。


「力とは己の願いを叶える手段だ。腕力、財力、権力、知力。あらゆる力は自分のためにある。願いを持つ者よ、お前の願いはなんだ?  そして、お前が持つ力とはなにか!?」


 彼女の激昂の声が学園に響く。


「それは、アークである!  アークを持つ我が同類よ、異能を手に高みを目指す同志よ、お前の願いはなんだ!? それを叶えるための力はすでに託された。お前の道はすでに始まっている。扉は開かれた。ならばあとは己次第!」


 彼女の声は眼下の者すべてを引きつける。ここはアークアカデミア。異能に憧れた者たちが集まり、ここにいるのは特別を願った者しか存在しない。


「願いを叶えたいか?  その手に夢を掴みたいか?  そうならば」


 そんな彼らに、彼女は言うのだ。


「示せ! 己が無力でないことを!」


 力の限り。


「誓え! 戦い抜くことを!」


 思いを込めて。


「往け! 己が意義を示すがいい!」


 叫ぶのだ。力の限り、思いを込めて。


「私に、アークホルダーの生き様見せてみろォオオ!」


 大声が、アークアカデミア全校生徒の心を震わせた。


 屋上では頭上高くに掲げられる巨大な旗を生徒会役員が懸命に振っている。応援団の気合の入った旗振りさながらに、勢いよく熱く振っていた。


「アークホルダー全校生徒諸君、異能は飾りではない。己で己の願いを達成するがいい。その力はすでにある。以上だ」


 そう言って彼女は踵を返す。台の階段を優雅に降りていき、気を一切抜かない彼女の後ろ姿を全校生徒は尊厳と畏怖を交えた目で見つめていた。彼女が降り終えてから四人も階段から降りていく。


 演説は終わった。緊張していた雰囲気が弛緩していくのが分かる。


 しかし、そこで屋上の扉が乱暴に開かれた。


「があ!」


 次に男の悲鳴が聞こえる。見れば屋上にいた生徒会役員が一人倒れている。


「侵入者だ!」


 騒然となる。扉を見れば黒の目出し帽を被った学生たちが続々と侵入している。


「生徒会反対! 自由を返せ!」「弱小部を潰そうとする生徒会め、覚悟しろ!」


 侵入してきた男子六人がバットや木刀などで武装し襲撃してきたのだ。不意の事態に役員たちが倒されていき、会長の前に立つ。


「会長!」


 襲撃に四人の少女のうち厳しい表情をしていた女子が叫ぶ。ショートカットの赤い髪が揺れパーカーを着ている子だ。学校指定の白のスカートの下には黒のスパッツを履いており膝下まで伸びる黒のブーツが今まさに地面を蹴ろうとした時だった。


 未来は刀を持つ手とは逆の手、右手を上げた。


「会長?」


 未来は静かに六人に歩み寄る。一人で戦う気だ。四人の少女は彼女の後ろ姿を静かに見守る。


 対して、襲撃者は大声を上げながら一斉に襲いかかってきた。彼女も武装しているとはいえ六対一だ、華奢な体では一撃だけでもただでは済まない。


 しかし彼女は怯えていなかった。むしろその逆。迫り来る襲撃者を鋭く見つめ演説の時と変わらぬ態度で挑んでいる。互いの距離は三メートル。まだ互いの得物では届かない。


「ふん」


 だが、彼女は鞘を一閃させた。左手に持った刀を抜くことなく、そのまま勢いよく振ったのだ。当然空振りに終わり彼女の攻撃は空を切る。


 直後だった。


「があああ!」


 六人から同時に悲鳴が上がる。全員が後頭部を殴られたかのように態勢を崩しそのまま地面に倒れ込む。


 一撃複数撃破。それで勝負は終わった。あまりにも呆気ない幕切れに観衆は唖然と立ち尽くす。


「回収しろ」


 未来からの命令に茫然となっていた役員たちが慌てて襲撃者を確保する。黒い目出し帽を乱暴にはぎ取るが、その顔は全員が同じだった。


「こいつ、文芸部の黒田か?」


 一人の役員が顔見知りだったようで黒田と呼ばれた六人は全員が意識を失い辛そうに目を瞑っている。


時雨しぐれ

「はいはい」


 未来は顔を動かすことなく背後の女性に呼びかける。四人のうち微笑みを浮かべていた女性がそれに応える。毛先にウェーブがかかったベージュのセミロング、この中では年長なのか大人の雰囲気がする落ち着いた女の子だ。学校の制服をきちんと着こなし、彼女はタブレットを取り出すと細い指をパネルの上で踊らせる。


「文芸部部長、黒田寛太かんた。異能はランクD。最大五つの分身を作り出して行動できる能力ね。なかなかいいんじゃない? 一人で複数行動ができるし夏休みの宿題なんてばっちりじゃない。ただ、使い道がね。せっかく六人いるんだから役割分担を決めて計画的に襲撃すればよかったのに。そこが反省点ね」

「お前はどうなんだ」


 紫雨と呼ばれた女子は余裕のある態度だが未来は厳しい。


「紫雨。お前視えていたな? なぜ報告しなかった」


 きつい口調で問い質す。


「ふふ」


 それでも紫雨は笑みを崩さない。それどころか自身の髪に指を絡め遊ぶ仕草まで見せる。


「これくらいの困難あなたなら問題にならないと思ってね。それに、常に私を頼りにしていたらいざという時に自分で対処できなくるし。いらぬお節介だったかしら?」

「好きにしろ」


 紫雨の答えをぞんざいに扱い未来は歩き出した。


 歩く様は迷いがなく凛々しい。風になびく前髪を気にする素振りもなく彼女は屋上の扉を目指す。


 アークアカデミアの頂点に立つ者。ランク史上主義のこの学園においてトップに君臨する女性。その目は真っすぐと前を向いていた。


 彼女はなにを見ているのか。

 彼女はどこに向かっているのか。

 彼女はなにを想っているのか。


 ――私は、なぜここにいるのか

 

 その理由を知っている。

 示せ。己が無力でないことを。

 誓え。戦い抜くことを。

 往け。己が意義を示すため。

 

 ――今度こそ、勝つために。


 天王寺未来は屋上から姿を消していった。

 異能学園の一日が始まる。


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