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エピローグ

 エピローグ


 学園の廊下を牧野萌は歩いていた。知的に見える細い目つきと眼鏡を光らせ白のスーツを着ている。全身から凛とした雰囲気をいつものように振り撒いていた。


 歩き続けていた彼女は学園長室の前で立ち止まる。


「学園長、牧野です。入ります」


 彼女は返事を待たずドアノブを回して部屋に入り込んだ。


 部屋には学園長である賢条が座っている。彼女の入室を笑顔で迎え入れていた。


「いやー萌ちゃん、おはよお~」


 朝の空気にゆるやかな声が溶ける。賢条は柔和な笑みを牧野に向けるが反対に彼女は険しい。

「学園長、このやり取りですがすでに千回を超えています。私は時々あなたが馬鹿なのではと危惧しています」

「なにを言っているんだい、まだまだこれからだよ」

「なるほど、馬鹿でしたか」


 賢条の答えに牧野は軽く顔を振る。名前で呼ばれることに抵抗感を覚える彼女にとって毎度行われる賢条とのやり取りには辟易する思いだが、気を取り直して表情に気合を入れる。


 そして、本題を口にした。


「学園長、ジャッジメントの詳細をお持ちしました」

「進展かい?」


 彼女の空気に合せるように賢条の表情も引き締まる。


「現在獅子王錬司の身柄は我々で押さえています。容疑は敷地外での異能アーク発動です。ですがこのまま拘束し続けるというのは困難かと。今回の事件の犯人として正式に逮捕しますか?」

「いや、それは出来ない。巷で噂のジャッジメント事件だがそんなものは『存在しなかった』。存在しない事件の犯人を捕まえることは出来ない。彼はこのまま敷地外での異能アーク使用として扱うしかあるまい。ただし、特別にな」

「了解です。となると彼はダウンフォール刑務所へ連行となりますが」

「そうだな」


 獅子王錬司の特別性は賢条も牧野も無視できないものだが仕方がない。ここで下手に動けば他のアークアカデミアも黙ってはいないだろう。


 そこで賢条が聞いてきた。


「彼は第一アークアカデミアの所属だろう。第一はなんと?」

「今回の事件は彼が停学処分中に起こしたものであり、そのためこの事件に第一アークアカデミアは責任を負わないと言っています」

「無理のある言い訳だな」

「どう思われますか?」

「愚かだ」


 賢条は机に両膝を立て手を組んだ。瞳はするどく細められている。


「第一アークアカデミアは面子を優先するあまり大きな魚を逃したようだ。彼がただのランクFだと本気で思っているのか?」

「でしょうね。そもそも第一は低ランクに関心がないのでしょう。どうしますか、もし彼が鍵ならば……そう」


 そこで牧野は会話に一拍の間を置いた。彼らの目的、それを思い出す。


 彼ら第三アークアカデミアの真の目的であり悲願。賢条と牧野が目指す至高の地点。


 それこそが――


「ランクアップ」


 異能アークを成長させること。適性を上げること。


 それこそが、第三アークアカデミアが存在している理由なのだから。


「牧野、各学園の動向は?」

「はっ。諜報部からの情報では第二アークアカデミアでは異能の底上げを図ったレベル異能エフェクトの開発を行っているそうです。対して第一では汎用性を切り捨て発現した時点でランクB以上が確定するクラス異能フォースの研究を行っているとの情報があります」

「第一らしい方向性だな」

「第一は生粋のランク至上主義ですからね。それに比べ第二は底上げを狙っている分良心的かと」

「だが、我々にはランク異能アークしかない」


 賢条の断言が部屋に重く圧し掛かる。


 第一のクラス異能フォース


 第二のレベル異能エフェクト


 第三のランク異能アーク


 三つの学園と三つの異能。それぞれの思惑が絡み合う。


「そうですね」


 牧野は呟いた後賢条を見つめる。


「そのためにも彼の存在は放っては置けません。動きますか?」

「いや、彼は今囚人だ。すぐに動くのはまずい。監視に留めておくべきだ」

「了解です」


 ランクアップの実現。それは不可能と言われてきた。生まれつきのランクは変わることはない。


 だが諦めることはない。かつて存在した偉人と呼ばれた者たち。そのほとんどが失敗の天才だ。


「……ふふ」

「学園長?」


 賢条は笑った。ほくそ笑む仮面の裏で彼はなにを思うか。しかし、ここではないどこかを見ているのだろう。その深淵の眼は誰にも測れない。


「いや。ただ」


 その男が語る。


「時代が変わるな」


 それは小さな変化。まだ目に見えないほどの僅かな亀裂。


 しかし、それは始まっていた。


 獅子王錬司。彼の登場によって。


 時代は変わる。真の特別によって。


 その兆候を今はまだ限られた人間しか知らない。


 そしてそれは確実に訪れていた。


 今はまだ、暗い底で身を潜めながら。

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