ならば来い、『お前の可能性』を見せてみろォオ!
「ほら、さっさと変身しろよ。次はなんだ? 銃使いか? 剣士? 魔法使いもあっただろう? それか他の自分になってみるか? お前の可能性を見せてみろよ」
無限の並行世界にはそれだけの神崎信也がいる。もしかしたらこんな自分だったという可能性がある。信也の変身能力はまさしく自分の可能性そのものだ。
「いや、このままでいい」
「なに?」
しかし、信也はそれを拒んだ。
「けっきょくさ、俺は異能を授かったけど、俺はなにもしていないんだ。姫宮を助けたのも、今まで錬司と戦っていたのも全部! ……もう一人の俺だった。懸命に努力して、修行して、ようやく手に入れた力を、俺はなんの労力も払わず借りていただけだ。俺はなにもしていない!」
今まで変身してきた信也はたしかに信也だが、しかし自分ではない。自分とは違い必死に努力してきた偉大な自分たちだ。なにもしていない自分とは大違いだ。
そんなもう一人の自分で勝ったとしても、それは自分の勝利とは呼べやしない。
本来の自分でなければならないと、信也はそう思ったのだ。
「誰かの俺じゃない。俺は俺だ! 俺だけなんだよ! この俺が、お前を倒す! そうでなきゃ、証明なんて出来ないんだ!」
「本気か?」
「当然だ」
信也の言葉に錬司が唸る。それで聞いてきた。
「勝算は?」
「覚悟では負けない」
「そうかよ」
直後、錬司の周囲にある壁や床が震動し始めるといくつもの瓦礫となって浮遊し錬司の周りに集まってきた。
「お前が今まで積み立ててきた想いの結晶、発揮しろ。その代わり安けりゃ死ぬぜ?」
「想いの結晶、か」
その言葉に信也はしみじみと呟いた。そして錬司を見つめた。まっすぐな眼差しで。
「それだよ、錬司。俺だけの特別ってやつは」
「ん?」
ソードマスターやガンスリンガーの影に隠れて見えなかったが、本来の自分にも誰にも負けないものがある。それにさきほど気が付いた。
神崎信也が持つ、自分だけの力。それは、
「錬司。お前に憧れて頑張ってきた想いなら、俺は誰にも負けない。たとえ無限にある並行世界にいるもう一人の俺、ソードマスターやガンスリンガー、エレメント・ロードにだって、この想いだけは負けない!」
二年前から追いかけた己の軌跡は、この世界に生きた神崎信也のもの。誰のものでもない、自分だけの想いだ。
「俺の、俺だけのものだ!」
錬司に憧れ追いかけてきた想いだけは、誰にも負けてない。
「しかし、それでどうやって俺を倒す?」
「諦めない。それだけだ」
「それがお前の武器か」
「そうだ」
それに関しては絶対の自信がある。
「そうか。他の誰でもない、もう一人の自分でもない、それが神崎信也の力ってわけか」
それを納得したように呑み込んで、錬司は表情を変えるとするどい視線で信也に言ってきた。
「ならば来い、『お前の可能性』を見せてみろォオ!」
「うおおおおお!」
信也は、自分のままで錬司に立ち向かっていった。
それは無謀な行いだ。今の信也に特別なものなどなにもない。剣の達人でも銃の名手でも魔法の使い手でもない。
ただの高校生だ。
信也は駆けた。錬司に向かって。
同時に錬司も動く。周囲を浮遊していた瓦礫を一斉に信也目掛け発射した。人を殺すなど造作もない、受ければ必死の攻撃だ。
それが分かっていたはずなのに、何故信也は立ち向かって行ったのか。
相手は錬司だ。どんな不利な状況でも諦めず、どんな不可能も達成してきた男だ。
それでも、信也は諦めていなかった。
自分なら勝てると。自分ならやれると。
たとえ他人や常識に無理だと言われても、自分だけは自分を信じていたから。
地面を蹴った。錬司を目指して走っていく。
胸には、誰にも負けない想いだけを宿して。
コンクリートの破片が無数にばら撒かれる。それは弾幕、幾重にも張られた散弾だ。高速で飛来するそれは視認してから動いていては遅すぎる。網状に放たれた全面攻撃だ。
故に命中する。
それは必然だった。
信也の腕が砕けた。
足が折れた。
腹に直撃した。
「があああ!」




