言っただろう
それは誰しもが抱く疑問。
錬司の異能はランクF、念じたものを一ミリだけ動かす能力のはず。それがどうやって光学迷彩に音波の遮断。加えて風向操作に分子操作、音速行動、さらには慣性の法則無視を?
(考えろ)
信也は錬司を睨みつけながら黙考する。答えを求めて計算していく。
今まで見せた能力と本来の一ミリ動かすという能力をどう繋げる?
分からない。けれど信也は諦めなかった。
「諦めない?」
その時浮かんだ言葉に信也はハッとした。
「まさか!? いや、そういうことか!」
そこで閃いた。信也は目を丸くして錬司を見つめる。
見つけたのだ、ジャッジメントの謎を。
瞬間信也は鳥肌が立った。
それは、あまりにもすごいことだったから。
「どういうこと信也君?」
未だに錬司の謎が解けない姫宮が聞いてくる。信也は振り返らずに答えた。
「いいか姫宮。錬司の異能は念じたものを一ミリだけ動かす能力だ。でも、重要なのはその『距離』じゃないんだ」
「距離じゃない?」
信也の答えに姫宮はまだピンときておらず小首を傾げている。
そもそも、念じたものを一ミリだけ動かす能力でこれだけの現象が起こせるものなのか。
可能だ。理論上は。
しかし、人間業ではない。
「錬司、お前は…………」
その答えに、信也が胸に抱いたのは納得ではなく尊敬とも畏怖とも言えない感情だった。
ジャッジメントの謎。それは、獅子王錬司の奇跡だった。
「姫宮。錬司は、あらゆる物質を超高速、かつ連続で一ミリ動かしているんだよ!」
それが、ジャッジメントの謎。獅子王錬司の秘密だった。
念じたものを一ミリだけ動かす能力。一見使えない能力だが、重要なのは、『念じるものに指定がない』ことと、『連続使用の縛りがない』ことだ。
「たとえば、目の前に空き缶があったとして、この能力を『一秒間に十回』発動すれば空き缶は『一秒間に一センチ動かすことが出来る』。それと同じだ。音速とは秒速に換算すると約三六〇メートル。ならば一秒間に『自分に対して36万回』能力を発動すれば錬司は音速行動が出来る」
そう、高速かつ連続使用によってこの奇跡は成立する。
光学迷彩も同じ。念じるものに指定がないこの能力は『光子も操作可能』。空間に満ちる光子のすべてを一ミリ、一ミリ、一ミリと屈折させていたのだ。
しかし、それを思い付いたとしても、果たしてそれを諦めず実行しようとする者がいるだろうか?
「え、でもそれじゃ。ううん、それこそ無理だよ! 一秒間に36万回異能を発動するなんて! 絶対無理!」
あまりの回数に姫宮が叫ぶ。当然だ、一秒間に36万回異能を発動するなど。
いや、そんなものじゃない。あくまでそれは音速の話。
光学迷彩の時の回数は? 一秒間に何回発動すればそれは出来る? そもそも空間に満ちる光子とは何個ある?
想像を絶する数だ。
信也は絶句した。
あり得ないのだ。錬司が当たり前のように行っているこれらの能力をしようと思えば、一秒間に天文学的数値の能力を発動しなければならない。
「うそだろ……」
その事実に確信する。
「姫宮、お前の言う通りだよ。無理だ」
信也は言った。拳を握りしめた。
「俺でも、出来ない……!」
諦めたのだ、可能性を信じる信也ですら。
一秒間に一兆、一京、一垓以上の能力発動。それを信也もやってみろと言われたら? 無理だ、出来ない。出来るわけがない。異能とはそんな高速発動と連続性を持つものじゃない。九九を一秒間に一兆回計算できる人間がいるか? 信也は諦めた。やる前から諦めた。
それを誰が責められる? いるわけがない。
獅子王錬司が特別なだけだ。異能のランクなど関係ない。強いていうなら、人間のランクがおかしいのだ。
「ふざけんな! なんだよそれ!?」
そのデタラメさに怒りすら湧き上がる。
「どうやったらそんなことになるんだよ!?」
「言っただろう」
対して錬司は冷静に、熱くなる信也に言う。
「諦めなかったのさ」
「そんな……」




