慣性の法則無視、ランクBだと!?
「錬司、お前はランクFの能力のはずだ。しかし、さっきからしているのはどう見てもランクC。いや、というよりもマルチアークだ。いったいどれだけの能力を持っているんだ」
「いや、俺はひとつしか持ってねえよ」
「だったらなんだよこれは!? 光をなくしたり音を消したり、風を起こしたかと思えば前回なんて粒子を操って反物質を作ったんだぞ? それだけじゃない。今度はお前自身がマッハで動いてる。どうやったら一つの異能でこれだけのことが出来るんだ!?」
「それは当ててみるんだな」
瞬間、錬司が消えたかと思うとフロアを猛風が飛び交った。
光学迷彩ではない、錬司が音速以上で行動している。
「速い!」
それに追いつく信也もさすがはソードマスターだ。見える。体も動く。対処が出来る!
錬司は信也の正面へと特攻するとボクシングポーズで殴りかかってきた。左からジャブ二回、次に右ストレート。それを刀身で捌き切る。剣と拳が衝突する轟音が猛烈な勢いで鳴り響く。正確には信也の剣と錬司の風圧がぶつかっており、拳は刀身に触れていない。しかし爆竹の破裂音さながらに何度も空気が弾ける音がしていた。
音速で繰り出す錬司の拳はもはやただの拳ではない。纏う風圧は鈍器となって信也を襲う。一撃は速く重い。間合いも近く剣を振るえない。
ついにはボディへと拳を受けてしまった。その隙に顔面にワンツーフィニッシュをモロに受け体は吹き飛び背後の壁へと激突した。
「信也君!?」
姫宮の悲鳴が上がる。信也がぶつかった壁はへこみ信也は額から血を流していた。
「終わりだな」
錬司は得意げに拳をクイックイッと回す。音速の拳を受ければ骨といえど陥没する。頑丈に出来ているソードマスターの肉体といえど顔面を殴られれば致命傷だ。
信也は壁に張り付いていたが、しばらくして自分の足で立った。足はふらつきよろめいている。しかしすぐに姿勢を正すと、精悍な表情で錬司を見つめた。額の傷はどこにもない。無傷のままだった。
「高速回復だ? やっかいな体してんな」
「どっちがだ」
錬司の言葉にすかさず信也も一言ツッコんでおく。
信也にしてみればやっかいどころではない。次から次へと別の異能を見せてくる。油断がならない。次の行動が予期できない。
「元気そうでなによりだ。そんじゃ、次は治るよりも早くボコボコにしてやるよ」
再び錬司が音速で移動する。風を切るツバメのようにその軌道は空間内を自由に飛んでいる。信也の周囲では竜巻さながらに風が吹いている。
だが、驚愕はここからだ。
流星のごとくフロアを駆ける錬司だが、ここで、『直角に曲がった』のだ。
「嘘だろ!?」
驚愕した。なぜならそれが意味することは、
「慣性の法則無視、ランクBだと!?」
錬司は世界の法則すら超越していた。
物理法則の一つ、慣性によって直角に曲がることは不可能だ。車の急ブレーキでいきなり止まることが出来ないように。
しかし、錬司はそれを無視して音速行動をしていたのだ。
一体何度目の驚愕だろう。あと何回驚けばいいのだろう。目の前で起こっている現実が未だに信じられない。
慣性の法則無視。
あり得ない。
あり得ない。
あり得ない。
そんなことは不可能だ。
では諦めるか?
科学者が無理だと言えば。
常識が無理だと言えば。
否、獅子王錬司は諦めない。
たとえ世界が顔を横に振っても、獅子王錬司は物理法則すら諦めない。
そして、錬司の急襲が始まった。
正面から大振りの拳を放ったかと思えば直角に後退、上昇して信也の頭上からかかと落としを見舞ってくる。それを剣で防ぐと錬司は距離を取り再び周囲を飛び交い始めた。それから次々に攻撃を繰り出してくる。
縦横無尽からの攻撃を信也はすべて防ぐ。だが信也も諦めない。隙あれば剣を振るい錬司に反撃していた。剣の道を極めたもう一人の信也も錬司に劣っていない。
信也は強烈な踏み込みと共に剣を一閃する。強風すら掻き消した一撃が錬司を吹き飛ばした。
錬司は地面に手を付きながら床をすべっていく。動きは止まり再び二人は対峙した。
なんとかやり過ごした。錬司の不可思議な異能に翻弄されつつもこれまでは互角の戦いをしていると言っていいだろう。
だが解せない。信也は錬司を睨みながら考えていた。
(今のところ戦いは互角。だが何故だ、何故錬司はこれほどの異能を発動できる? どうやって!?)




