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胸が震える。憧れが、今も憧れでいてくれていたことが

 そして、時はきた。


「よう。また会ったな、泣き虫信也」


 うす暗い廃ビルの二階フロアに彼はいた。


 審判者ジャッジメント。アークアカデミアのハイランクアークホルダーを恐怖のどん底に沈めた最強のランクF。彼の登場はアカデミアにとって衝撃だ。


 出来損ないとされていたランクFがハイランクを倒したのだ。しかも複数。いったいどこの誰がこんな事態を予想した?


 その当人である獅子王錬司が信也に話かける。


「どうして俺を呼んだ?」


 距離は五メートルほど離れている。遮るものはなにもないコンクリートが向き出しのフロアで対峙している。


 錬司の声は飄々としているがどこか重苦しい。それでも信也は怯まなかった。


「証明するためさ」

「証明?」


 信也の言葉が腑に落ちないようで錬司の眉間にしわが寄る。そんな錬司に信也は大声で言い放った。


「ああ! 俺でもお前に勝てるんだってことをな!」

「……ほう」


 錬司に送る勝利宣言。勝負の幕は切って下ろされた。すぐにでも戦いは始まり異能アークが乱れ飛ぶ。ここは地上で最も危険な場所になるだろう。


 だが、そうはならなかった。


 その前に少しだけ、信也には知りたいことがあったから。


「なあ錬司。戦う前に言わせてくれ」


 勝つと言っておきながら今の信也に戦意はない。それどころか過去を懐かしむような静かさと穏やかさがある。


 錬司は動かなかった。信也の話を静かに待っている。


 戦う前のわずかな間、二年間別れ離れだった二人は思い出を語り合う。


「俺さ、アークアカデミアに入学したんだよ。錬司とは違う第三だけどさ。でも出来たんだ、あの俺がだぜ? たしかに必死に勉強したけどさ、合格が決まった時はまさか俺が? って思ったよ。そしてこうも思った。これで、お前に近づけたって」


 それは信也の思い出、数か月前の話だ。アークアカデミアを目指して合格できた。最高に充実していた時だった。信也の人生でもっとも輝いていた瞬間かもしれない。


 それもすべて、錬司への憧れからだった。


 静かに物語る口調に、少しだけの高揚が混じる。


「錬司、お前は俺の憧れだったよ。そんなお前と同じ場所に立てるんだ。憧れに近づけるっていうのは気分がいい。最高だよ。しかもランクAだぜ? 俺じゃなくても喜ぶさ。それでいざアカデミアに入ったが、そこは俺の予想とは違う場所だった」


 信也はやや興奮気味に話していたが、しかし寂しそうに目線を下げる。


「アークアカデミアはランク至上主義。誰が言い出したわけでもなく自然とそういう場所だった。ランクは成長しない。マルチアークは不可能。そうした限界が生徒から希望を奪い、アークアカデミアはハイランクの楽園、ロウランクの煉獄と化していた。俺には、それがショックだった。だって、ここは特別な者たちが集う場所。だろ? 夢と希望溢れるアークアカデミア、あなたの新たな人生を歩みませんかってCMでも言ってる」

「聞いたよ」

「私も私も! ストラップもらったよ!」

「なのになんだよこれは!?」


 初めて怒号を放った。口調を荒げ感情をぶつけた。


 憧れの場所となるはずだったアークアカデミアは表向き。中は夢も希望もない弱肉強食で、求めていたものとは違った。


 可能性なんて、誰も信じていなかった。


「これのどこが新たな人生だ? どこが特別だ? ハイランクに虐げられている多くの人たち。それがアカデミアだ。俺はそれを変えたくて頑張った。まだまだ途中だけどさ、なんとかしたいって、そう思ったんだ。こんなのおかしいって! 人間っていうのは、ランクがすべてじゃない!」


 加工していない純粋な思いを叫ぶ。腕を横に振り自分の意思を言い切った。


 そして、それはこの男も同じだろうと、信也は聞いたのだ。


「なあ錬司、そうだろう!?」


 憧れたこの男なら、どんな不利な状況でも絶対に諦めないこの男なら、きっとこう答えるだろう。


「当たり前だ」


 当たり前だ、と。


「錬司……!」


 思い描いた通りの台詞に表情が若干輝く。やっぱり彼だ。憧れは憧れのまま、錬司は変わらない。


 二年の空白があっても、錬司は信也が知っている通りの錬司だ。


「ああ、お前の言う通りだよ、信也」

「やっぱり……お前……」


 その答えに合点する。


 信也は納得した。何故錬司がハイランクを襲うのか。ジャッジメントなどという行いをするのか。


 分かったのだ。錬司を追いかけるのではなく、彼のような諦めない人間になろうとする信也には。

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