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これは、真の特別が時代を変える物語――

 錬司は反論するが教師は冷たい目で錬司を見てくる。


「おいそこのお前、ちょっと職員室に来い」

「ちょっと待てや! なんで俺が悪いことになってんだ? そもそもあいつが――」

「いいからさっさと来い。――ランクFが」

「…………」


 錬司はなにも言えなかった。


 知ったのだ。


 ここは、ランクが絶対の場所なのだと。


「ねえ知ってる? あの錬司だけどランクFだって」「マジかよ、いい気味だぜ」「あいつムカついてたんだよね、俺はお前たちとは違うとか何様? みたいな」「あいつがランクFで超すっきりしたぜ」


 それからも錬司の陰口は囁かれていた。まるでフタが外れたように今までの栄光の裏で妬んでいた思いが話されている。


(ふざけんな)


 錬司もそれは耳にしていた。


 しかし蔑まれていたのは錬司だけではない。ランクFの者ならそれは誰しもがそうだった。


 みなから出来損ないと言われ、冷遇され、差別される。


 ランクFに未来はない。異能アークは成長しないのだから。かつては夢と希望に瞳を輝かせていた者たちもアカデミアの現実に目を覚ます。


 そして、誰かが言うのだ。


「諦めよう」


 誰かが言うのだ。


「諦めるしかないんだ。仕方がないよ」


 誰かが言うのだ。


「僕たちはランクFなんだから」


 誰かが言うのだ。


異能アークは成長しないんだから仕方がない」


 誰かが言うのだ。


「努力するなんて無駄なことは止めよう。現実を受け入れて生きるのが賢い方法さ」


 誰かが言うのだ。


「諦めよう」


 誰かが言うのだ。


 諦めよう。


 仕方がないと。


 だが、


 しかし、


 だとしても、


「俺は諦めねえ! 俺は絶対に諦めねえぞ!」


 彼だけは、諦めなかった。


 その姿勢をみなは愚かだと冷ややかだった。何故なら無駄だから。異能アークは成長しないのに、今更どうしろと? どれだけ努力しようが一ミリが一センチや一メートルにはならない。


 だから言う。


 誰かが言うのだ。


「あいつは馬鹿だ」


 誰かが言うのだ。


「無理に決まっているのに」


 誰かが言うのだ。


「さっさと諦めればいいのに」


 誰かが言うのだ。


「物分かりが悪いやつだ」


 ランクが絶対の学園でランクFとなれば出来損ないのレッテルだ。おまけにそれが一生続く。どうしようもない。初めから詰んでいるのだ。


 しかし、では諦めるか?


 他人から駄目だと言われたら。


 現実が壁となって塞がったなら。


 たとえばおとぎ話の勇者が、そんな状況で諦めるのか?


(ふざけんな)


 そう、諦めない。たとえどんな不利な状況でも。


 獅子王錬司は諦めない。


 己のランクは最下位のF。


 ゆえに、それはどん底からの反抗だった。


「俺は、絶対に諦めねえ」


 ここから、獅子王錬司の覚醒が始まった。


 アークアカデミアの授業には行っていない。その代わり彼は特訓した。


 朝も昼も夜も深夜も。


 誰よりも、彼は異能アークを磨き上げていった。


 自分を信じて。誰に否定されても自分だけは自分を信じた。


(俺ならやれる)


 誰しもが言った。


 教師が駄目だと。


 クラスメイトが駄目だと。


 研究員ですら駄目だと言った。


 それでも、


 獅子王錬司は諦めない。


 諦めなければ道は開ける。特別だと信じる心、己の証明。


 自分は特別だと、自分だけは信じていたから。


 その執念、自分は特別だと信じる想いは、ついに彼を昇華した。


「……できた」


 額に玉のような汗を浮かべて、錬司は深夜の校庭に一人立っていた。


「ふふ、はは、あっははははは」


 手に入れた。ものにした。達成したのだ。喜びが全身を貫く。これで自分は認められる。六十八時間の不眠の特訓の末に、獅子王錬司は証明してみせた。


 己の可能性を。


 そして。


「おい」


 後日、錬司は研究所の一室を開けた。


「俺の異能アークを見てくれ、一度だけでいい。出来たんだ! ランクC相当の――」


「ランクC相当? なにを言っているんだね君は。ランクFにそんなこと出来るわけないだろう」


 中にいたのは異能アークの結果を告げた時と同じ研究員だった。入ってきたのがランクFだと見るなり表情を顰める。


「ならここで見せてやる、俺の異能アークを!」


 しかしかつては言い返せなかった錬司だが今は違う。


 発動したのだ。


 出来損ないだと誰もが蔑んだランクFの異能アーク、その可能性を。


 この場に錬司の異能アークが発揮される。諦めない心が作り出した驚異的な異能アークだった。


 これなら出来損ないなど言わせない。ようやく報われる。孤独の中、たった一人で行ってきた努力がついに実を結ぶのだ。錬司は笑みを浮かべた。


 なのに。


「どんなズルをしたんだね?」

「ズル?」


 研究員の言葉に、錬司の熱が退いていく。笑みが、消えていく。


「何度も言わせるな。ランクFにこんなこと出来るわけがないだろう。どうせズルだろう? よくいるんだよ、ロウランカーには現実を受け止められない輩が。たまに我々を騙してまでランクを上げようとする者もね」

「違う! 俺は――」

「我々を騙そうとした罪は重い。君には停学三カ月相当の罰を与えるよう私から教師に連絡しておこう。おい、こいつを連れ出してくれ」

「待て! 俺の話を聞け! 俺は本当に!」

「は、往生際が悪い。これだからランクFはゴミ以下なんだ」

「待て! 俺は成したんだ! 俺の異能アークはゴミじゃねえ! 待てぇえええええ!」


 錬司は部屋にいた警備の人間に捉えられ部屋から追い出されてしまった。


 それからこのことは職員会議で議論され、錬司の停学が決まった。


 後日、錬司は廊下を歩いていた。この学園から去るためだ。


 その際、ふと横を通る教室を覗いてみた。


「俺はランクCだぞ、図が高いぞランクE!」「相手はランクB? げっ、俺より上じゃねえか。おいお前ランクFだろ、お前行ってこい」「え、どうして僕が!?」「口答えしてんじゃねえぞランクFが! てめえら出来損ないは黙って従ってればいいんだよ!」「そうだそうだ! ランクFが!」「アッハハハハ!」「はっはっはっはっはっ!」

「…………」


 錬司は顔を戻し、廊下を歩く足を再開させた。


 停学二カ月という処分を負って、錬司はアークアカデミアに背を向ける。そのまま学園を後にした。


 出来ないことなどなにもなかった。すべて才能と努力で達成してきた。


 けれど、ランクがFというだけで誰も認めない。誰も聞いてもくれない。


 アークアカデミはランク至上主義。


 ランクが絶対の学園だ。


 そこで錬司は決意したのだ。


 なら、他人にはもう頼らない。


 己を証明できるのは己のみなのだから。


 錬司は第一アークアカデミアの制服を脱ぎ捨てた。代わりに黒のコートを羽織りフードを被った。


 そして出て行ったのだ。


 己を証明するために。


 ランクFの逆襲だ。


 ハイランクの優越に浸る罪人よ震えるがいい。

 生まれつきの才能に浮かれる愚者よ泣くがいい。

 ランク至上主義の終わりの時だ。


 これは、真の特別が時代を変える物語――

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