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逃げないよ! 友達見捨てて逃げるなんて、そんなのわたしがするわけないじゃん!

 しかも登場するなり錬司を殴りつけたかと思うと避けられ、信也の近くに盛大に転んできた。


「ぐべえ……。いててて」

「ひめ、みや?」


 その突然の登場に信也は唖然となる。どうしてここに姫宮が? と思うが、すぐにハッとした。


「逃げろ姫宮。危険だ、早く!」


 なんとか動く口だけを必死に動かす。自分の横で寝転ぶ姫宮が顔を上げた。


「逃げないよ! 友達見捨てて逃げるなんて、そんなのわたしがするわけないじゃん!」

「姫宮……」


 けれど、姫宮は立ち上がったかと思えば信也に駆け寄り、膝をついたのだ。信也の顔を覗き込む可愛らしい瞳が心配そうに見つめてくる。


 嬉しかった。自分のピンチに駆け付けて、こうして近くにいてくれること。

 でも、彼女までは巻き込めないから、信也は叫ぶ。


「気持ちは嬉しいけど、でも! それでも逃げろ! 姫宮が来てどうにかなる問題じゃないんだよ!」

「いやだ!」


 反論された!


「いやじゃない」

 さらに反論する!

「いやだ!」

「いやじゃない」

「いやだ!」

「いやじゃない」

「やーやー!」

「我がまま言わない、高校生でしょう」

「絶対にいやだぁ! おウチ帰りたくないいい!」

「なんだこれ?」


 いつの間に変な空気になっていた。


「はっははは! なんだよ信也、お前も隅に置けないな~。第三アークアカデミアの入学式といえばたしか二日前だろ? 二日ですでに彼女持ちとかやるじゃねえか」


 そんな二人を錬司が冷かしてくる。


「ちげーよ! 姫宮とはそんな関係じゃなくて!」

「そうだよ! 信也君とはお友達だよ!」

「はいはい、分かった分かった」


 錬司は片手をひらひらと振った後、再び二人を見下ろしてきた。


「なんでもいいけどよ、女、そこどけ。俺はこいつを倒さなくちゃならない」

「姫宮詩音なんですけど!」

「知るか、いいからそこどけ」

「いやだ!」

「てめえごと吹き飛ばすぞ?」

「するならすればいい」

「んだと?」


 錬司は飄々としていた表情をしていたが眉間にしわを寄せた。


「お前、吹き飛ばされてもいいのか?」

「それは嫌だけど~、でも~、それはわたしに力がないからいけないってことでもあるし~」

「怒らねえんだな」

「それに、わたしじゃ錬司君には敵わない」

「知ってんのか俺のこと」

「中学同じだったもん」

「そいつは悪かったな」

「ホントだよ! 人の名前を知らないとか失礼なヤツだな君は! 最低だよ!」

「どこにキレてんだこいつ……」

「でも、わたしは見捨てない。友達を、わたしは見捨てないから」


 姫宮の表情が変わる。真剣な目つきに変わりまっすぐな眼差しで錬司を見上げる。

 彼女の雰囲気に当てられたように、錬司も真剣な雰囲気になっていく。


「お前、ランクは?」

「Fです」

「F?」


 しかし、姫宮の答えを聞いた途端破顔した。


「はっはははは! いいなお前、気に入った。ランクFでその根性、見事なもんだよ。はっはははは!」

「????」


 突然笑い出した錬司に姫宮は小首を傾げている。


「そうだ! ランクなんて関係ねえ、誰に否定されようが関係ねえ。自分を誰よりも自分が信じてやればいいのさ。誰もお前の決意を変えられないようにな」


 姫宮はなにを言っているのか分からない顔をしていたが錬司は満足そうだ。豪快な笑い声が廃墟に響き渡る。そして一通り笑い終わると踵を返し歩き始めたのだ。


 すかさず信也が聞く。


「どこに行くんだ、錬司?」

「気が変わった、見逃してやる。やろうとしてもそこの女がうるさそうだしな」

「姫宮詩音なんですけど!」

「だがな」


 すると錬司は足を止め、凄みを含んだ声と顔で振り向いた。


「もしまた俺の前に出てみろ。その時は必ず仕留めてやる」

「錬司……」


 横になりながら信也は錬司の顔を見つめていた。友人だった男からの宣告に、心からの疑問を投げかける。


「何故だ、どうしてこんなことをするんだ? 教えてくれ錬司! 錬司ぃいいいい!」


 悲痛な叫びが廃墟に響き渡る。


 けれど、錬司は答えなかった。


 錬司の周囲が歪んでいく。気づけば錬司の姿は消えていた。


「どうして……なんで……」

「信也君?」


 錬司が姿を消した空間をずっと見つめ続けていた。まだそこに彼がいるように。


 ずっと憧れていたのに、その人は自分の敵になってしまった。


 自分を倒すと、そう言った。


 気づけば信也は泣いていた。悔しさか、悲しさか、判別つかない感情は涙となって溢れてくる。


「なんで……なんでだよぉおおおおお!」


 諦めなければ道は開ける。己を信じる心、人間の可能性。


 しかし、それを教えてくれた人はもういない。


 信也の泣き声だけが木霊する。

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