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人間の可能性を否定する奴を、俺は認めない

「ぎゃははは! ランクF? おい、ランクFだってよ! はっはははは! やっぱりランクFは出来損ないばかりだな」


 三人の笑い声に囲まれる。ゲスイ声だ。彼らの反応はあまりにもひどい。


「そんなことないよ! 私だって、そりゃあ、今はたいしたことないかもしれないけれど、でもいつかは!」

「いつか?」


 彼女も言い返すけれど、しかし抗議を田口はぎろりと見下ろした。


「ハッ、そんなもんねえんだよ! お前も知ってるだろ、異能アークは固定性。どんなに努力しても成長しない。よって! お前らランクFは永遠に落ちこぼれだ!」

「そんな……」


 田口からの言葉に姫宮の表情が萎んでいく。


 夢と希望溢れる異能アークの存在。これさえあれば自分でも特別になれると誰しもが幻想を抱くもの。


 けれど、違うのだ。誰しもが特別にはなれない。


 異能アークは固定性。生まれつき決まっているのだ、そして変わらない、成長しない。ランクアップは不可能。さらに異能アークは一つまで。複数異能マルチアークも不可能だった。


 高ランクなら最高だ。一生優雅な地位で暮らせるだろう。


 普通でも良好だ。一般社会ではエリートに違いない。


 けれど、低ランクは最悪だ。役に立たない、出来損ないというレッテルは一生剥がれることはない。私は落ちこぼれだと、敗者の烙印を押された者たちに明るい未来など存在しない。


 そのためアークアカデミアではランク至上主義。高ランクはその時点で偉く、低ランクはその時点でゴミクズだ。差別を受けて当然の、選ばれなかった劣悪な者たち。


 三人の男たちは笑う。出来損ないを。選ばれなかった哀れな少女を笑うのだ。そうなったというだけで。


 ここはアークアカデミア。異能研究の学園。特別を目指す者が集う場所。


 普通の者に、居場所はない。


 田口は姫宮に向かって、ここでの現実を言い放った。


「いいか? ランクFには未来も可能性もないんだよ!」

「おい、誰だ可能性って言ったやつ」

「誰だ!?」


 しかし、そこに別の声が割ってきた。


「え?」


 その声に姫宮は振り返る。涙でぼやけた視界を拭い去り、そこで見たのは一人の少年だった。薄いピンク色の髪をした少年がするどい視線で男を睨んで立っている。


「人間の可能性を否定する奴を、俺は認めない」

「誰だって聞いてんだよ!」

「俺は、人間の可能性を証明してみせる!」

「なんだこいつ?」


 突然の登場に三人の男たちが怪訝な顔をしている。それは正体不明というよりも別のところだ。さっきから彼が何を言っているのか分からない。


「あ、あの、助けてください! 実は私彼の肩の骨を折ってしまってお金が必要なんです!」

「いや、それはきっと嘘だから心配しなくてもいいよ。今だって痛がってないし」

「ええええ!?」


 少年の言葉に姫宮は田口を見てみる。言われてみれば痛がっていない。


「ひどい! 骨が折れてないのに折れてるなんて言うなんて! 嘘は政治家の始まりなんですよ!」

「泥棒な。すげー皮肉言ってるぞ君」


 嘘がばれたことにより田口の表情が悔しそうに曲がる。それもすべて突然現れた少年のせいだ、田口は近づいていく。


「ちっ、なんだてめえは。ランクFのお仲間か? 落ちこぼれ同士助け合おうってか? それになんだその髪、男のくせにピンクなんてしやがって気持ち悪い」

「髪の色は関係ない」


 田口は少年を見下ろす。反対に少年は睨み返す。


「お前、さっきランクFには可能性がないって言ってたな」

「おおそうだよ。ランクFっていうのはどいつもこいつも役に立たない能力ばかりだ。しかもそれが一生だ、落ちこぼれって言ってなにがおかしい? なあ?」


 田口は振りかえり仲間から「はっははは、違いねえ」と賛同する声が届く。


「そんなことない!」

「ん?」


 だが、彼らの考えを否定するために少年は叫んでいた。それはここでの常識を否定するのと同じだ。目の前の彼らだけではない。ランクFは落ちこぼれ、それはアークアカデミアでの共通認識なのだから。


 それでも、彼は言うのか。


 どんな不利な状況でも絶対に諦めない意思を持って。


 まるでそんな人物を知っているかのように。


「人間には無限の可能性がある。どんな不利な状況だって、どれだけ周りが否定したって、自分次第で道を切り開く力がある!」

「自分で、道を切り開く力……」

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