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知るかんなもん、やってみれば分かることだろ?

 これは、まだ神崎信也が中学二年生のころだった。


「おいどうした信也、かかってこいよ!」

「や、止めてくれよ……」


 体育館の裏、人通りは少なく陰になった場所に、信也は五人の男子に囲まれていた。


「なんだよ臆病者、殴り返してこいよ!」


 信也の正面に立つ男、PTA会長の息子が腹を殴ってくる。信也は倒れ腹を抱えた。


「はっはははは! 情けねえ」


 周りからも笑いが起こる。


 信也は睨みつけてやろうかとも思ったが、次の瞬間には目を伏せた。


 耐えることしか出来ない。


 それが自分に相応しい身分なのだと、どこか諦めていたから。


 だが、


 しかし、


 だとしても。


 立ち向かうだろう。


 ――彼ならば。


「おーおー、なにしてんだよてめら。俺もまぜろって」

「お前、錬司!?」


 そこへ現れたのは獅子王錬司だった。ニヤついた笑みで立っているのに、肩まで伸びた白髪が揺れる様は優雅だ。


「錬司……」


 信也は横になりながら錬司を見上げた。


「一人に対して五人かかりが。はっはははは! とんだ臆病者の集まりだぜ」

「んだとてめえ!」


 錬司の悪態に少年が近づく。けれど錬司も黙っていなかった。


「うるせえ! どこが違うんだよ、お前がこいつを殴った、違うのか?」

「ああそうさ! 俺が殴った。だからなんだ? 訴えても無駄さ、俺の父親は警視長官だぞ? どんな問題だってもみ消してくれるさ。それに、俺になにかしてみろ。お前に地獄見せてやる」


 ゲラゲラとした笑い声が聞こえる。


 信也は絶望した。あまりの理不尽と悔しさに涙を流した。


 生まれつきの境遇ランクで、こうも決められてしまうのか。


 悔しいのになにも出来ない。


「出来るさ」

「え?」


 聞こえた声に、信也は顔を上げた。


「駄目だ錬司、手を出したら」


 信也は声を掛けるが錬司は止まらない。


「てめえが地獄を見せてくれるだ? ハッハハハ! 片腹痛いわ! てめえみたいな地獄シナリオじゃぬる過ぎる。俺はなあ、特別オリジナルになるんだよぉお!」


 それから錬司と五人での喧嘩が始まった。錬司は主犯の少年の股を蹴り上げると鳩尾に拳を叩き込む。それで終わり。次に相手のパンチを逸らすと相手の膝を横から踏みつける。


「ぎゃあああ! 折れた、足が折れた!」


 次々と相手を無力化していく。人数などものともしない。権力なんて関係ない。


 獅子王錬司は絶対に屈しない。


 自分の可能性を信じてる。


 そして喧嘩は終わった。錬司の周りでは少年たちが倒れ呻き声を上げている。


 すると錬司は信也に振り向き歩み寄ってきた。片膝を付き手を差し出した。


「ほれ、助けに来てやったぜ、泣き虫信也」


 相変わらずの悪態で錬司は手を伸ばす。けれど悪意のないその顔に、信也は見入っていた。


(ああ、同じだ)


 思い出す、かつて夕焼けの空の下で見た、彼の横顔を。


(なんて、まっすぐな瞳だろう)


 信也は錬司の手を取った。


 翌日だった。怒り心頭でPTAの会長がやってきた。


 部屋には錬司と信也、錬司によってぼこぼこにされた少年は腕にギプスを嵌めており、教師数人と一緒にいた。


 PTA会長の女性は紫のタイトスカートにソフトクリームのような巻髪に眼鏡をかけていた。


「これはいったいどういうことです! 私の可愛い周二しゅうじちゃんがこんな目に遭うだなんて! すぐにこんな野蛮なやつは退学にすべきです!」

「まあまあ落ち着いてください会長、まずは事情を聞いてからでも」

「そんな必要はありません。見なさい、この不良顔。こいつが悪いに決まっているザマス」

「おーおー、すげえ偏見だぜ」


 錬司がぼやく。


「お黙り!」


 会長は唾を吐くのも躊躇わず叫んでいる。


 権力に任せて押し通す気だ。


 信也は下唇を噛んだ。


 なにも出来ないのか? 今回も? 悔しさに震える拳を振るうことも、不正に勇気を持って叫ぶことも。


『うるせえ! どこが違うんだよ、お前がこいつを殴った、違うのか?』

「え?」

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