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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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96.おやつと魔法の関係――あるいは餌付け

「リオンとクロスは幼馴染みじゃないの?」

「違うよ。残念だけど」

「残念なものか。ただの腐れ縁だ」

「ひどいなあ。俺はクロスが幼馴染みだったら、実家での生活も楽しかっただろうなと思ったのに」

「どこで知り合ったの?」

「俺が冒険者になると決めてからだな」

「こっちは連れ回されていい迷惑だ」

「魔法書探しにダンジョンばっかり潜らされる俺の身にもなってくれよ。俺、暗い所とか狭い所は嫌いなんだけどなっ」

「嘘を言うな嘘を」

「俺はもっと広い所でドラゴンとか狩りたいの!」

「ドラゴンならダンジョンにもいるだろう。――サンドワームも倒せないくせに、ドラゴンはないだろ」

「お前もなっ」

「言っておくが、オレは魔力さえ補充できれば勝てる自信はある。危険な橋を渡る気はないだけだ」


 一つ、前言を訂正する。

 クロスは嫌味に関しては饒舌だった。

「あの、よくわかったわ。変なことを聞いてごめんなさい」

 わたしが余計なことを言ったせいで、パーティー内がぎくしゃくすることになっては申し訳ない。

「ああ、アリアちゃんが謝ることはないよ」

「そうそう、兄さんたち(あれ)はじゃれてるだけだから気にすんな」

 リオンとレッドが揃って言った。


 そんなこんなで、わたしたちは楽しく食事を終えて宿へ戻ることにしたのだった。

 帰り際、クロスが一軒の屋台の前で立ち止まった。

 焼き菓子の屋台だった。

 さっき見たおやつのような焼き菓子と違って、携帯食にも近い外見をしている。

餅菓(べいか)だ。田舎ではよくある菓子だ。携帯食ほどは長持ちしないが、小腹が空いたときにはちょうどいいぞ」

 クロスは小銭を出して二袋買うと、わたしとレッドに一袋づつ押し付けた。


「子供にはおやつが必要だろう?」

「ガキ扱いすんなよ。――まあ、菓子はありがたくもらっとくぜ」

 レッドの尻尾が揺れていた。強がってはいるが、普通に嬉しいらしい。

「あ、ありがとう。でもさっきお昼を食べたばかりなのに」

「後で食えばいい。お前ら、そんな細い身体(なり)して攻撃魔法が撃てると思うなよ。――特にアリア、」

 クロスが矢庭(やにわ)にわたしの手首を掴み上げた。


「そんな細い腕で攻撃魔法を放ったら、反動で手首が折れるぞ」

「嘘っ!?」

「嘘ではない――と言いたいところだが、お前ほどの魔力を持った奴は見たことがない。検証できていないから、実際のところはわからない。反動がどれくらい出るかも未知数だ。用心に越したことはない。もっと食って体力をつけろ。

 魔法の威力――すなわち魔力とは精神力の産物だと言う者も多いが、体力も密接な関わりがある。生命力に直結しているものだからな。いくら魔力が膨大にあっても、敵の攻撃で封じられることもある。魔力だけに頼るな」

「わ……わかったわ」


「それからレッド。お前は見たところ火属性だが、どうせ火花程度しか出せないんだろう?」

「悪かったな」

「獣人族は魔法適性がないと言われているが、それは事実の一端でしかない。やり方によってはヒト族と同程度には使いこなせるようになる」

「本当か!?」

獣人(おまえら)は脳筋すぎんだよ。体内の魔素が全部、筋力と体力の強化に使われているから、魔法として打ち出せる分が残らない。――ということは、魔素を体力強化に回さなくて済む程度に身体を鍛えれば、魔法として使える魔素が増える」


 わたしたちは肯定の返事をしながらも、顔を見合わせて疑問符を浮かべた。

(クロスの兄さん、急にどうした?)

(さあ……)

 アレスニーアの学園行きを断って以来、微妙に距離があったのに、今になってどういう風の吹き回しだろう。


「なんだかんだ言って、クロスは面倒見がいいなあ」

 わたしたちの疑問に答えるように、後ろから見ていたらしいリオンが言った。

「無知な子供を放置するのは、教職にある者として気が咎めるだけだ」

「うわ、クロスが殊勝なこと言ってる」

 気持ち悪い、と何気にひどいことを言うリオン。

「学園に行かないとしても、旅の間にできる限り基礎を教えてやる。――やる気があるなら、だが」

 クロスが、リオンの茶々を無視してそう締め(くく)った。

「よかったね、二人とも。アレスの天才魔法使いが直々に魔法を教えてくれるってさ」

「基礎だけだ。それに、指導に付いて来られないようなら、すぐに中止するぞ」


「「!」」


 わたしとレッドは、もちろん二つ返事で了承した。

「やります!」「やらせてください!!」

 そんなの、了承するに決まっている。

「あ……でも」

 授業の対価として支払えるものが何もない。

 そう言うと、クロスは暇潰しだから気にするなと言いつつ、些細なものを要求してきた。


「それなら、あの魔石ビーズを何粒かくれ。研究に使いたい」

 おそらく、わたしに気を使わせまいとするクロスなりの気遣いなのだろう。

「それは構わないけれど……」

 あんなオモチャみたいなビーズ、欲しいというなら何粒でも持って行ってくれて構わない。どうせ、二度と袖を通すこともないドレスだ。


 でもあのドレス、どこにやったかしら……?

 わたしは、自分の荷物の中にたたんで仕舞った記憶がなかった。

 レッドを見ると、無言で首を横に振っている。

 彼も知らないらしい。

 宿に戻ったら、荷物をひっくり返して探さなければならないかもしれない。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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