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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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81.調査報告(と言う名の推理パート)③/三人称

「俺は、アリアちゃんは人間(ヒト族)だと思うよ。乳母の証言は信じていいと思う」

「なぜ」

「……クロスは知らないだろうけど、貴族の家庭において、乳母というのは時に実の母より近しい存在になるんだ」

 家格が高ければ高いほど、その傾向は顕著に現れる――とリオンは言った。


「お得意の勘か」

「根拠が薄くてすまない」

「まあ、いいさ。リオンの勘――というか人を見る目は、オレよりよっぽど確かだからな」


「不当に解雇された後までも、主家の秘密を守り通す義理はない。乳母は、アリアちゃんが本当にハーフエルフだったとしても、嘘を吐いてまで庇う必要はないんだ。アリアちゃんがすでに家から追い出されている以上、今さら嘘を吐いて彼女を人間(ヒト族)だと言って庇っても、双方に何のメリットも――ましてやデメリットもない」


「アリアは正真正銘、ヴェルメイリオ伯爵家の正当な血を引いた令嬢であり、人間である。オッドアイは大病によるものであり、ハーフエルフではない。――リオンが言いたいのは、そういうことだな」

 ああ、とリオンが首肯した。

「今になって、急に辺境に(つか)わされた理由が知りたい。その辺りに、冤罪事件の鍵があるんじゃないかと思うんだ」


「だが、アリアが人間(ヒト族)ならば、並み外れた魔力の説明がつかない。(うと)まれ(しいた)げられていたのなら、いつ、どこで古代語や古代魔法語を習得した? ローランド寄宿学校に魔法課程はない。ギルドにも、そんな失われた古代の遺物を学習できる場所はない」

 ギルドの魔法は実践第一。理論や読み書き計算は二の次である。


「クロスお前、自分が学んだ学問を古代の遺物とか言っちゃうわけ?」

「事実だろう。必要があったから学んだだけだ」

「そうだろうけどさぁ……」


「疑問はまだあるぞ。アリアが人間ならば、なぜ天属性が表れた? 人間にも天属性が表れるとなると、これまでの通説が間違っていたことになる」

「もしかして、鑑定魔法の基準も変わってくるとか……?」

 リオンが頭を抱えた。

「他にも“属性なし”判定をされた者がいるなら、鑑定のやり直しや補償が必要になるかもしれないな」

「兄貴の仕事がまた増えるっ」

 民のためなら労苦は(いと)わないだろうが、そうなるとリオンも実家の手伝いをやらされて、冒険に出られなくなるのは必定だ。

「まあそれも、確証が得られてからの話だが……」

 確証を得るためには、アリア自身のことをもっと知らなければならない。


「使用人たちは、エルフ(セレーナ)が魔法を使うところを見たのか?」

「いいや。先触れも供もなく突如として現れ、いつの間にかいなくなっていたそうだ。タクトの妻と言うには、恐ろしく若く美しい見目をしていて、奥様(フィレーナ)が『セレーナお義母様』と(すが)り付いて助力を()うまで、誰もその人物が噂の大奥様(セレーナ)とは思い(いた)らなかったらしい」

「辺境伯は、リオンの祖父(おおじ)殿と同世代だったはずだな……。エルフはヒト族よりはるかに長命だから、老い知らずという(そういう)こともあり得るだろうが……」

 セレーナが本当にエルフだとしたら、エルフ固有の魔法が存在する可能性はある。そしてそれが、アリアに何らかの影響を与えた可能性も――。

 クロスは考え込んでしまった。


 * * *


 うっすらと明るい広場が見えた。

 村の中心とは言っても、宿屋や食堂などの商店があるということは、すでにそこが村の中心のようだった。宿のすぐ近くというわけではないが、遠くもなかった。


(“中心街”の定義が王都とは全然違う……)

 王都にある噴水広場くらいの、ちょっと開けた場所というだけだ。市民の憩いの場のようなものであり、大規模な集会やパレードが行えるような規模ではない。

 王都で言うと、子供が集まってボール遊びができる程度の“空き地”である。


(途中の村では馬車の乗り継ぎだけで、よく見て回ったわけじゃないものね……)

 宿屋と馬車乗り場周辺しか見ていない。

 王都から離れるに従って、町や村の規模はどんどん小さくなっているようだった。

 レッドに案内してもらわなかったら、誰かの庭園の一部だと思って素通りしているところだった。


「アリアちゃん! 待ってたよ!」

 リオンが気づいて手を振ってくる。

 クロスは素知らぬ顔で飲み続けていた。

「ほら、やっぱり猫くんに任せて正解だっただろ! 賭けは俺の勝ちな! 残りの肉は俺が全部もらった!」

 わたしが食事に現れるか否か、勝手に賭けの材料にされていたようだ。

(別にいいけど……)


 リオンが、わたしたちを空いているベンチに誘導する。

(またこの人は……)

 レッドを奴隷扱いしないでいてくれる。

 わたしは、それが嬉しくて微笑んだ。

「ありがとう」

 レッドがその横で頭を下げる。


「よかった。ちゃんと笑えるようになったみたいで……」

 そう言えばわたしは、大泣きしたところをリオンとクロスの二人ともに見られている。

「あ、えっと……」

 なんて言い訳をしよう。

「クロスがキツいことを言ったみたいで、すまなかったね」

「いえ、そんなことは……。わたしのほうこそ、迷惑をかけてごめんなさい」

 気の利いた言い訳は思いつかなかった。

「気を遣わなくていいよ、迷惑だなんて思ってないし。これからは一緒に旅する仲間なんだから、気楽にいこうよ」

 怒られない、迷惑がられない、嫌われない――そういう反応に慣れなくて、わたしはしどろもどろでお礼を言うしかなかった。


 クロスが言っていたのは、当たり前のことだ。

 無知な上、自分が無知であることに気づきもしなかった自分(わたし)が悪い。

 誰からも謝ってもらうようなことではないのに。


「まだ肉残ってる? オレらの分ある??」

 レッドが、その場の雰囲気を取り繕うように、調理場のかまどや木卓の上を見て声を上げている。

 わあすげえ、美味(うま)そう! と大声ではしゃぎながら、レッドがわたしのことを呼んだ。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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