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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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80.調査報告(と言う名の推理パート)②/三人称

 仕方がない、とリオンは調査報告の内容を()()まんで話した。


「一人で辺境に追いやられている時点で、普通の家庭環境でないことは察しがつくだろう? 義母に追い出されたとも考えられるが、最新の報告では別の証言が上がっている」

「ハーフエルフ疑惑か?」

「本当にハーフエルフなら、生まれたときから(・・・・・・・・)(うと)まれて育つだろうし、そもそも本邸に置いてもらえるとは思えない」


 一生、修道院に閉じ込めて存在を隠すか、親子共々、片田舎に追放するのが定石である。

 存在そのものを抹消するつもりなら、鑑定の儀を受けられる年齢まで生かしておくこと自体、矛盾している。

 (かば)い立てしていた生母が亡くなったから辺境へ、というには時期が合わない。


「フィレーナさんが亡くなったのは、アリアちゃんが六歳のときだよ。鑑定の儀で“属性なし”を勧告された時期よりも後だ」


 フィレーナ(実母)が、愛娘が(しいた)げられないよう庇っていたのだとしたら、亡くなった直後にはアリアは放逐されていなければならない。

 だが実際には、本邸に留め置かれ、寄宿学校に入れられるという生温(なまぬる)い措置を与えられた。

 実質的な放逐である辺境行きを命じられたのは、ごく最近のことだ。十年以上も放っておかれたことになる。


「なぜ今さら、と思わないか?」


「そもそも、ヴェルメイリオは純粋ヒト族の家系だろう。ハーフエルフが生まれるはずがない」

 血統を重んじる由緒正しい貴族(ブルー・ブラッド)とは、そういうものである。


 ならば示唆(しさ)されるのは、フィレーナの不貞でしかない。アリアは、どこの馬の骨とも知れない男エルフとの間にできた子供だという結論だ。

 不義密通の末に生まれた娘が、実母が亡くなったことで継母と暮らす羽目になる――それがどのような苦境を招くか、想像に(かた)くない。

 旅の途中で野垂れ死ぬことも承知の上で、辺境へ送り出すのは、継子(ままこ)いじめ以外の何ものでもないだろう。


「それが、フィレーナさんが不貞を働いた気配はなく、いくら調べても証拠も証言も出なかったそうだよ。それどころか後年、口さがないことを言う者達に、夫であるレナードが率先して圧力をかけて黙らせたらしい」

「レナードはアリアを実の娘として認知している、と?」

「正確には“していた”だな」

 過去形だ。

「もしくは、事実だからこそ隠蔽しようとしたか?」

「可能性としてはあるが、」


 ここで重要になるのが、先日受け取ったばかりの報告だ、とリオンは前置きをして話を続けた。


「解雇された古い使用人と乳母から、アリアちゃんはハーフエルフではない――という証言が出ている」


 クロスは、それを聞いて少し考えるような仕草をした。

「ハーフエルフの外見的な特徴と言えば、長く尖った耳か、虹彩異色(オッドアイ)だが……生まれた瞬間からその特徴が明らかな子供ばかりとは限らない。成長に伴って耳が伸びたり瞳の色が変わったりということは、あり得る」


 つまり、アリアは長じてから虹彩異色(オッドアイ)になったため、家門の恥として放逐された可能性もある、とクロスは言いたいのだった。

 寄宿学校に押し込められていた期間は、ただの継子いじめだったのではないか、ということだ。


「それだと結局、アリアちゃんはハーフエルフだという結論になるじゃないか」

「違うのか?」

「乳母と使用人の話によると、アリアちゃんは4歳のときに流行病にかかって生死の境を彷徨ったそうだ。そして、もう最期(ダメ)か……というときに突如、辺境にいるはずのセレーナ夫人が現れたそうだ」

「セレーナとは誰だ?」

「現辺境伯、タクト・ヴェルメイリオの妻であり、アリアちゃんの父方の祖母に当たる人だ」


 ああ、あの噂か! と急に合点がいったようにクロスは膝を打った。


「一時期、辺境伯の妻が亜人種(エルフ)だという噂が王都を席巻していたな!」

「そう。アリアちゃんは、エルフとのハーフというより、クォーターの可能性が高い。――でも、本題はそこじゃないっ」

 ()しい! と、謎掛けでもやっているような調子のリオン。


 使用人たちの話によれば、アリアは大病を煩っていたが、奇跡的に助かった。エルフのセレーナが何か特別な魔法で助けたのではないか、ということだった。


 聞き込みに行っていた者たちからの報告によると、アリアは大病から回復した後、亜人種(ハーフエルフ)のような虹彩異色(オッドアイ)になってしまったらしい。

 オッドアイになった原因が、病気の後遺症なのか、何らかの魔法の副作用なのか、ハーフエルフとしての特長が発現しただけなのか、それはわからない。

 が、父であるレナードは、今まで目に入れても痛くないほど可愛がっていた娘を、それ以降、極端に(うと)み始めたという。


「病気になる前は溺愛していたという証言があるんだ。おかしいとは思わないか? エルフとの不義密通の末に生まれた子――またはその疑いがある子なら、最初から溺愛はしない」

「特徴が表れるまで全く疑っていなかった、という可能性もあるぞ」


 何しろ、男は妻が言うことを信じるしかないのだ。明らかに自分の血を引いていない(・・・・・・)とわかるような特徴がなければ、他人の子とは言い切れないのが実情である。


「妻に不貞の疑惑がなく、生まれた子の容姿は自分に似ていた。だから愛娘として溺愛していたが、病気により、ハーフエルフとしての特徴が発現した。だから他人の子、不義の子と見做(みな)して態度を変えた。――そういうことじゃないのか?」

 クロスは、リオンの言い分を否定した。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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