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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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73.猫とスキル③決意/レッド視点

 スキルを訊ねたオレに、アリアは言いづらそうに答えた。

「期待を裏切るようで申し訳ないけれど……レッドのスキル名は“経験値倍加”よ。でも具体的にどういう効果があるのか、わたしには説明できないわ」

 クロスも言う。

「スキルは、魔法とは別物だからオレは専門外だ。ステータスについてなら、リオンのほうが詳しいだろう。——だが、これでわかったことがもう一つある」

「なんだ?」

「聞き慣れないスキル名であるということは、鑑定した人間も読めなかっただろうということだ。これはアリアにも言ったが、鑑定魔法で石版からどれだけの結果を読み取れるかは、本人の語学力に依存する。教会では、一般的なスキル名については現代語訳が編纂(へんさん)されているから、古代語が苦手な者でもどうにかなるが、その訳語リストにないスキル名についてはお手上げだろう」

 つまり、そういう部分が石版(アイテム)の誤作動として処理されているということか。

 むしろ、普通に読めてるアリアが異常なのだろう。

(……っと)

 異常、って言い方するとアリアは嫌がるから気をつけないとな。


 アリアは、途中から石版を手にしたまま黙り込んでいた。

 半透明の石版の表面にはまだ、何かの文字がびっしり表示されている。たぶん、オレの鑑定結果なのだろう。

 さらに読み込んでいるのかと思ったら、違うみたいだった。視線は石版の表面に落とされているが、ぼんやりしている。

「アリア……?」

「あ、ごめんなさい。少し考え事を……」

 それから改めて、本題に戻った。

「呪いの話だったわよね。——呪いになるような魔法が発動したのなら、たぶん浄化魔法より後よ。何か覚えてる?」

 履歴情報(ログ)を読み解く限り、そこまではアリアが掛けたことがわかっている魔法で、治癒魔法ばかりだったという。

「馬車の側を離れる前に、浄化魔法を掛けたわよね。その後はずっと一緒だったから……」

「あのときか!」

 クロスとリオンの二人に出会ったときの話だ。

 次の村を目指して歩いていたら、道の先の方に、魔獣とそれに応戦している人間の気配がした。

 オレがそう言うと、援護してくると言ったアリアが、一人で走って行ってしまった。

(そう……オレを置いて……)

 その後、大きな火柱が上がったから、オレは慌ててアリアのもとへ駆け付けようとして――あ。


(やっちまった……!)


 オレはその場でがばりと深く頭を下げた。

「悪い! 全部オレのせいだ!!」

 寝台の上で半身を起こして“さっきまで寝てました”という、謝罪には全く適さない体勢だが、勘弁してもらいたい。本当なら、床に這いつくばって謝るのが筋だが、寝台から降りるためには傍らにいるアリアに退いてもらわなければならない。


「猫族、何をやらかした?」

 クロスがすかさず畳み掛けてきた。

「言え。発動手順がわかれば解呪の方法もわかる」

「——手順もクソもねえよ。主従間の契約魔法を利用しただけだ」

 契約魔法が掛かっている奴隷にとっては、主人の言葉は全て命令(呪い)にもなる。明確に命令として告げられない限り、どこまでを命令ととらえ、どこまでを日常会話ととらえるかは本人次第だ。

「少し前に言われた言葉を、かき集めて解釈し直した。新たに契約魔法による命令(呪い)を受けたことになるように」


 そうだ。オレが、自分でやったんだ。

 契約魔法が無理やり身体を動かしてくれるよう、立って歩けと言われた言葉を中心に、わざと解釈を歪ませた。

 そうしたら、その言葉が新しい命令として成立した。

(おかげで、火柱が上がった場所まで駆け付けることができたけど……)


 主従の間で交わされる契約魔法は、決して強い隷属を強いる魔法ではない。主人から告げられた言葉をどう受け取るか、自由度が高い分、魔法の掛かり方には個人差が出る。

 だからこそ、単純な“魔法”ではなく“呪い”という呼ばれ方をするのだ。

 ある意味、呪文や魔法陣を使う普通の魔法よりも厄介だった。


(商会の先輩奴隷が言ってたのは、このことだったんだ……)


“何も考えずに命令を受け入れていると、いずれ逆らえなくなる日が来るぞ”

“オレたちは、主人の命令に逆らうことはできないが、決して心までは売り渡すな”

“命令される立場を、当たり前と思うな。従わされることを当たり前だと受け入れた日、呪いはその身を侵食する”


 そんな感じの言い伝えのようなものが、昔から奴隷の間にはある。

 オレは迷信だと思って気にしたこともなかったが、今の状況はまさにそれだ。今オレは契約魔法という呪いに浸食され始めている。

 積極的に主人の言葉を命令(呪い)と解釈した上で、自分から受け入れるような態度を取れば、本物の呪いとして完成してしまったとしても仕方がない。

 さらには、同じ主人から何度も命令を受けている場合は、命令(呪い)の馴染みが早い。ただの言い伝え程度だった“呪い”が、本物の呪いに変わるのも時間の問題だったのだろう。

 

 すっかり病みついちまって、何日も寝込んで迷惑を掛けたこの状況は、全部、オレがバカだったせいというわけだ。

(何も言い訳できねえ……)

 先輩奴隷は、呪いで熱が出るとは言ってなかったから、たぶんオレの今の症状は、契約魔法の浸食と“魔素中毒”とやらが混じり合ったせいだろう。

(それだって、戦うために命令を強請(ねだ)ったのはオレだ)

 クロスから、軽率だの浅知恵だのと罵られても仕方がない。

 それにおそらく、この呪いには解呪方法がない。

 呪いに浸食された後、解放された奴の話は聞いたことがない。

 発動までの決まった手順も、ない(・・)も同然だからクロスも解呪方法を探せないだろう。

(商会の誰かなら知ってるか……?)

 いや、知っていたとしても、そんなこと聞けるわけがない。病持ちの役立たず判定をされるだけだ。


 熱が下がっている時間帯もあるから、旅に同行することはできるだろう。

 でも、間違いなく足手まといだ。

 今までのようには戦えない。

 何かあっても、アリアを守ることができない。

 アリアはダンジョンには行かないから、鍵開けの技術が役に立つこともない。

 すぐ息が上がるから、多くの荷物を持つこともできない。長い距離を歩くこともできない。

 雑用しかできない――雑用係としても半人前の子供みたいなものだ。


 アリアは優しいから、こんなオレでも“要らない”とは絶対に言わないだろう。

 レベル20の契約料で、レベル10以下の働きしかできない奴隷を雇って、さらに自ら看病する羽目になるのだ。


 だから、オレから言わなくちゃいけない。

「アリア、今までありがとう。この呪いは解けそうにないから、オレのことはもう諦めてくれ」

「え?」

「こんな状態じゃ、もう一緒に旅はできない。足手まといになるから、ここに置いていってくれ」

 この先は、クロスとリオンが同行してくれるそうだから、大丈夫だよな。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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